1 経営の課題点

 子どもたちの安全と子育てを担う上で、24時間365日の支援体制が必要ですが、現在(2008年)の職員法定配置人数と労働基準法の日8時間週40時間法令厳守との間で矛盾が生じています。夜間態勢においても、大舎であれば宿直者2~3名でも小舎の場合は、明らかに、その人数では、子どもたちの安全を守ることは困難でありますが、その部分に関しての補助加算がないのが大きな課題点となっています。
 また、子ども6名に対して職員1名の制度と労働基準法厳守の狭間で勤務態勢を組んでいくと、職員1名で子ども15名程度となってしまうことが多く、夜間は、更に職員1名に対して子ども25名程度になり、課題を抱えた子どもたちが多い昨今の状況と支援体制とのギャップを感じます。
 保育士志望の求人者は、まず、保育所が優先されるため、児童養護施設を優先的に求職する人は、残念ながら少数派です。従って、優秀な人材のほとんどが保育所へ向かうため、そのような状況の中で優秀な人材を探し雇用に結びつけることに苦労しています。優れた人材を選択して雇用したつもりでも、人間関係等様々な事象で年度途中退職者が出る場合があり、年度途中の求人は、更に困難を極めます。
 過去も、そして、これからも福祉を必要としている子どもたちは、家庭での養育が困難な子どもたちです。家庭での養育が可能であれば、福祉を利用する必要性はないでしょう。
 視点を変えて、これからは、どのような児童福祉サービスが必要となってくるかが重要です。家庭での状況や子どもたちの特性が多種多様な傾向にある昨今、児童福祉も専門性を細分化していく時代になってきたと痛感してます。
 例えば、AD/HD専門、LD専門、PTSD専門、被虐待児専門、ぐ犯専門等です。各々にその道の専門家が常駐し、特性に応じた専門的アプローチをしていくといったことも検討していく必要性が求められていると考えます。また、家族への支援も重要です。子どもたちが良い方向に向かっても家庭復帰した時、家庭が以前と変化のない状況では、元に戻ってしまう危険性があります。
 つまり、子どもたちへのケアと家庭へのケアを同時並行で行っていき、家庭及び地域へと戻る体制が整ってくれば、児童福祉施設は、人生の通過施設へと位置づけることができるようになります。児童福祉施設に措置されて、高校卒業まで児童福祉施設で生活する。このようなケースが1ケースでも少なくなるように願っています。
 児童養護施設単体事業における、個別対応職員や家庭支援専門相談員、心理療法事業は、在籍児童及びその保護者への支援が中心となり福祉サービス拡充の範囲に限界があります。これからの児童福祉を考える上で、児童家庭支援センター等を併設し複合的に児童福祉サービスを展開していくことが重要です。

 児童養護施設で働くあなたへ、児童養護施設の経営状況を知ることは、福祉制度を知ることに外なりません。制度は、更新されることがあり、その情報をいち早くキャッチし職場に導入していくことが求められます。また、あなたなりのプランを構築し、各種研修会等で発表したり、地方自治体に提言したりすることによって、これからの児童福祉展開を図っていける力が、あなたにあることを認識しましょう。

2 事業計画と報告

 事業計画を作成する場合、特に統一的なフォームがあるわけではありません。従って、内容についても、様々な項目が挙げられます。そのため、事業計画は、事業内容や作成目的に合わせて、各事業所に合ったものを作成することが大切です。
 この事業という言葉が、皆さんは、馴染みにくいと思いますが、労働基準法的には、児童養護施設も事業所であり、社会保険や所得税取扱いについても事業所として手続きしています。
 只、業務的には、利益追求が発生しませんので、「事業」を「目標」という言葉に置き換えると分かりやすいと思います。
 事業計画を作成する目的は、事業の内容を論理的に整理し、事業の目標を立てることです。そして何よりも大切なことは、事業を行っていく上でそれを活用することです。事業計画書を作成したのに見たのは、1度だけと言うことでは、事業計画書を作成した意味がありません。自分たちの立案した目標を時々、チェックしていくことが大切です。
 事業計画を作成する際には、事業目標を検証したり、事業活動を修正したりします。重要なことは、達成可能なあるいは、努力すれば達成できそうな目標を掲げることです。
 しかし、事業が計画通りにいけば良いのですが、未達成の場合も多々あることです。そのため、事業計画を作成しても机上の仕事で現場には意味をなさないと思う人がいるかもしれません。しかし大切なことは、事業計画を立てることにより、目標を整理し文書として残し、事業の進むべき道筋を明確にした上で、事業を行っていくことでしょう。
 事業報告を作成する場合、事業計画で立てた目標が達成したのか、どうかが重要です。目標が達成した場合、どのような取組の結果、達成し、その効果(結果)がどうであったかを記入します。達成していない場合、その目標を次年度に継続するのか、それとも、達成できるレベルに落とすなど目標を変更するのか等を検討する必要があります。
 事業報告の場合、反省点とかは必要ありません。必要なのは、結果のみです。目標設定は、「子どもの利益」が伴わなければ意味がありません。その目標が達成されれば、子どもたちは、「成長している」「生活が豊かになった」等の結果が見える目標を設定しましょう。また、職員の処遇内容の向上等も大切です。

 児童養護施設で働くあなたへ、事業計画や事業報告の作成にあなたは携わっていますか。あるいは、職員会議等で提示された時、熟読していますか。事業計画は、児童養護施設の1年間の方向性を示す、とても重要な文書です。是非、目を通すことと、可能な限り、その作成に関与できるよう職場に提案してください。

3 年度末の事務室

 年度末の事務室は慌ただしい限りです。措置費は、自治体によって毎月、概算請求し精算するパターンと4半期に分けて概算請求し精算するパターンとがあります。措置費単価は流動性があり、年度の最終単価が決定したところで1年分の精算を行います。早めに年度分の精算処理をしていないと、いつまでたっても決算処理ができないと言うことになります。措置費の精算は、ただ単に表を作成すれば良いと言うことではありません。証拠となる証憑を整理し一緒に提出しなければならない訳です。
 次に会計上、仮払金や預り金、小口現金処理が発生していますが、それらを年度末には、0円にしておかなければいけません。
 また、例えば電気代や水道代、ガス代などに代表される支出は、月遅れで請求が来ます。つまり、3月に費用として発生したものが4月に請求される訳です。そのような費用は、未払金として計上します。保険料など2年や3年契約など複数年に渡る契約がある場合、未来の支出を先払いしている訳ですから前払金として処理します。措置費や補助金など今年度分が4月に振り込まれることもあり、それらは、未収金として計上します。このように会計処理は複雑で考えようによっては、とても面倒な作業の繰り返しになります。
 新年度の準備として、辞令書(業務辞令と給与辞令)を作成する、各種協定書、就業規則の変更が理事会で承認されている場合は、最新の就業規則の整備、非常勤職員との労働契約書等々を準備します。
 勿論、3月分の給与支払を行わなければいけませんが、退職職員がいる場合は、社会保険料は、1か月遅れで徴収しているので、2か月分徴収し、住民税は、3か月分徴収するなどの調整をします。また、退職金がスムーズに支払われるように各機関に手続を行います。
 積立金や本部への繰入れを行う場合は、3月中に資金移動を行っておく必要があります。
 事業報告書の作成準備として、各部署に原稿依頼を行っておくことも重要です。4月に入って行うと、退職職員の報告意見が反映しないことになります。
 自治体から次年度の各種書類フォームが届きますので、それらの作成準備も余裕があれば行います。勿論、決算に向けての資料集めも重要な準備作業となります。
 複数の処理を確実に解決していかなければいけませんので、日付の目標をたて、一つ一つクリアしていきます。

 児童養護施設で働くあなたも子どもたちの支援目標をたて日々のケアを行っていると思いますが、達成可能な目標設定をしておかないと、結局、何も結果が得られず次年度も同じ目標と安易な考えに陥っていませんか。子どもたちは、発達段階に応じて達成すべき事柄があることは、言うまでもありませんが、その中から達成可能な目標を個性に応じて導き出していくことが重要です。それが、必ず子どもたちにとって(+)になっていくことでしょう。

4 予算書の見方

 最近は、情報開示が積極的に行われ、児童福祉施設のホームページでも事業計画・事業報告・財務諸表等の開示が目立つようになってきています。その中で、予算書を取り上げ、その見方を簡単に説明しましょう。
 まず、収入の欄ですが、措置費収入が最も大きな収入源となります。この中の事務費収入は、基本的に措置児童の定員数×単価となり、年間、安定した金額が補償されています。事業費は、各月初日の子どもの人数×単価となり、子どもの人数に左右されます。従いまして、予算を立てる時は、年間の措置児童人数の予測を行います。
 措置費は、国と自治体の折半となりますが、都道府県又は市町村補助金収入は、自治体の単独補助となり、この金額は、自治体によって異なります。その他の補助金収入として代表的なのは、私立幼稚園に通えるよう就園奨励補助金が出る場合等があります。
 善意ある個人や企業からの寄附金がありますが、これは、相手合っての事なので、勿論収入予測は、立てられません。それでも予測金額を書き入れています。
 普通預金や定期預金による受取利息収入がありますが、この部分は、会計を担っている職員の資金運用能力を推し量ることができるでしょう。その他の収入は、雑収入として計上しています。
 支出で一番大きな割合を占めているのが人件費です。全体支出の65%~75%程度を占めています。事業所によっては、子どもたちの安全確保と処遇の充実を図るため、法定配置人数より多めに雇用しています。
 事務費支出は、事業所として運営していくために必要な経費にかかる支出です。この部分は、子どもたちのためではなく、職場運営に使用されます。
 最も重要な部分は、事業費支出になります。この部分こそ、子どもたちに直接使われる経費です。特に給食費・被服費・本人支給金をチェックしましょう。この部分は、道義的に節約の対象になりません。明らかに数字が少なければ、事業所の運営方針として間違った選択をしていることになります。
 最後に収入の合計と支出の合計をチェックします。予算書上は、必ず一致しているはずです。予算上の支出は、実際金額より少し多めの設定をしていますので、収支バランスで収入が少ない場合もあり、そのような時は、寄附金収入の数字で調整をします。と言うことは、寄附金収入の数字が異常に多い場合は、経営的に不安定との捉え方もできます。

 児童養護施設施設で働くあなたは、自分の職場の予算書を見たことがありますか、見たことがない場合は、是非、見てください。職場の経営状況を知ることは、社会人として必要な知識でしょう。「うちの実家は」「うちの会社は」とかの表現の「うち」と言う意識を自分の職場に持つことができたら、あなたのためにも職場のためにも、何より大切なことは子どもたちにとっても益となることでしょう。

5 福祉施設における予算管理

 理事長より会計責任者として辞令を受けた施設長が、施設会計の見積り計算をし予算案を組み上げます。最初に取り組むのは、次年度の事業計画書策定です。各組織によって異なりますが主任クラスの意見をくみ入れ事業計画案を作成します。
 事業計画では、措置費単価に児童数予定を掛け合わせることにより措置費収入が導き出され、職員雇用数予定で、人件費支出が算出されます。
 児童数に応じて、事業費における、給食費、教育費、行事計画に対して教養娯楽費等が算出されます。また、生活用品や遊具等の購入計画も算入されていきます。
 事務費には、人件費以外にも様々な費目がありますが、基本部分は、例年と大差なく、修理修繕計画や物品購入計画が予算に反映されていきます。勿論、職員研修計画や建て替え等、随時事業や新規事業等が計画されていれば、予算化していきます。
 他にも予算化には、様々なプロセスが必要ですが、最も重要なことは、収支バランスを整えることです。会計責任者の施設長は、事業計画案、予算案が完成したら、理事長に提出し、理事長は、大体2月から3月頃開催される予算理事会において開示し、承認・決議を得ます。決議後は、予算案から予算書となり4月1日より執行することになります。
 予算計算は、計画の域を脱しないため、想定外の支出に対しての防衛策には限界があります。従って、年度途中における計画変更は、度々起こりえる事象であり、科目間流用等、予算流用で対応する場合もありますが、会計責任者は、補正予算案を策定し、理事長に提出、定例又は臨時理事会に於いて承認・決議を得る流れが一般的です。
 理事会に於いて、補正予算案の承認を円滑に得るために、当初予算から補正予算への変更点を整理し、その理由を明確に示すことが重要です。想定していない事象が発生し、予算化していなかった勘定科目が加えられる、予測以上の支出が発生し支出バランスが崩れる等、挙げられますが原因と対策を説明することによって、補正を行う根拠を示すことが求められます。
 しかし、理事会招集には、自ずと回数的に限界があり、理事会承認までは、流用の方法を採らざるを得ません。可能であれば中区分間の流用を心がけ、それでも駄目な場合に大区分間の流用に移行す
る。更なる方法は、理事長権限による予備費流用の手続きとなります。
 会計責任者は、総括的に予算執行を分析し、最も適切な方法を選択、対処する応用力と決断力が求められます。勿論、理事長に報告し判断を委ねることは、原則です。

 児童養護施設で働くあなたへ、直接処遇の現場で日々、業務に追われていると、自分の職場の経営的な事柄は、雲の上の出来事として捉えがちですが、そうではありません。特にお金の動きは、直接、あなたの業務に降りかかってきます。例えば、あなたが、子どもたちへの支援を豊かにするために、「遊具を購入したい」と提案したと仮定します。「それは、予算化していない」「今は、お金がない」との回答を受けたことはありませんか。そのような状況を回避するためにも、あなたは、積極的に予算書を吟味し、可能であれば予算書策定に参画していきましょう。

6 財務諸表の見方

 情報開示として、福祉関係のホームページで財務諸表が公開されています。主な財務諸表として、次の表が挙げられます。
①貸借対照表
②資金収支計算書
③資金収支決算内訳表
④事業活動収支計算書
⑤事業活動収支内訳表
⑥財産目録
⑦固定資産管理台帳
 この内、③は②の詳細、⑤は④の詳細、⑦は⑥の詳細となっているため、③⑤⑦の公開を省略するのが一般的です。
 せっかく情報公開してあるので、見たことがある人もいることでしょう。でも、数字が羅列してあるだけで、何を見たらよいのか、分からないと言う人が殆どでしょう。
 そこで、表の見るべき場所を簡単に説明します。
①貸借対照表
 この表は、たいてい、1ページで収まっています。資産の部合計と負債及び純資産の部合計が一致していれば正解です。仮に不正解であれば、情報開示として公開することはないはずです。
 ただし、仮払金の欄に数字が計上されていれば要注意、仮払金を持ち越さないことは原則ですので、年度末会計処理が未熟であると言うことになります。
②資金収支計算書
 最初に収入科目が並んでいます。その収入科目の最後の行に「経常収入計」がありその次の行に「人件費支出」があります。
 人件費支出÷経常収入計=と計算してみましょう。その結果が0.70以上の時は、事業費及び事務費支出の節約過剰となります。その福祉施設は、職員を過剰雇用していることになりますが、子どもたちや利用者の方の安全と支援の充実を図るために、そうせざるを得ない場合も考えられますので、一概に経営不安定との烙印を押すわけにもいけません。 次に「事業費支出」を探します。その「事業費支出」の下に「給食費」があります。
 給食費÷事業費支出=と計算してみましょう。その結果が0.35以下の時は、給食費の節約過剰になります。子どもたちが本来、摂取すべき栄養量が不足している場合がありますので、要チェックです。ただし、大量発注したり、安売りスーパーを回ったり等の買い物上手栄養士による努力のたまものと言うことも充分に考えられます。
 この表の最後から3行目に「当期資金収支差額合計」がありますが、この部分の数字が(-)の場合、赤字経営ということになります。しかし、最終行の「当期末支払資金残高」に資金が残っていたら経営的には、大丈夫です。
④事業活動収支計算書
 殆ど、資金収支計算書と変わりませんが、表の最後の部分が違います。特に最終行「次期繰越活動収支差額」の数字は、貸借対照表に連動しますが、説明は、少し、複雑になりますので省略します。
⑥財産目録
 貸借対照表と内容的には、変わらず、純資産の部を省略してある表程度に解釈すれば良いでしょう。ここでは、「設備資金借入金」の数字をチェックしましょう。いわゆる、借金です。借金は、少ない方が、もちろん良いのですが、改築事業を行った場合、借入金の数字は、一気に増大します。従って、ここの数字が大きい場合は、改築工事や大規模修繕を、最近、行ったと解釈します。
⑦固定資産管理台帳
 貸借対照表と照合する必要がありますが、不整合であれば、それは会計職が未熟であるとの表れです。また、減価償却が適正であるかのチェックが必要ですが、最近は、殆ど、会計ソフトで処理しているので、余程のことがない限り、大きな間違いはないでしょう。
 従って、それ程、真剣にチェックする必要はありません。
 以上、財務諸表の簡単な見方を説明しましたが、決算書類には、他に次の表が追加されます。
・貸借対照表の各科目の明細表
・資金収支計算書の措置費や寄付金の明細表
・3月31日付の残高証明書
 これらの書類が全て、整備されたら、法人の監事監査を受けます。この監査は、自治体等の指導監査とは、違い、法人の内部監査の位置づけです。
 会計士やそれに準ずる能力の方が法人監事を担っていますので、細部に至るまで、チェックが行われます。その厳しい、監事監査を経て、大体、5月~6月頃開催される、法人定例理事会で、決算報告がなされ承認を受けることになります。
 それら一連の流れが終了した時点で、ホームページ等を通しての財務諸表及び事業報告書の開示になります。
 補足として、監事監査では、決算書類の他に、法人登記簿謄本、定款、諸規定のチェックも行われています。

 児童養護施設で働くあなたへ、TVニュースや新聞で、公務員の不正や無駄遣いが取り上げられることがありますが、それを自分とは一切関係ない出来事として捉えていませんか。もし、そうであるなら、それは、大きな間違いです。公務員は、その使用しているお金が税金であるから、不正や無駄遣いが暴かれると、大きなニュースになります。あなたが職場で使用しているお金も、公務員と同じように税金です。不正や無駄遣いは、できません。それ以上に、子どもたちのお小遣いを搾取するなどの行為は、最悪です。
 いいえ、自分は、公明正大です。誰もが思っていることでしょう。また、そうあって欲しいのです。12月の職員だけのクリスマス会、会費を徴収して行っていますか、歓迎会や送別会は、どうでしょうか。必要以上に物品を購入していませんか。例えば、食材など、持ち帰っていませんか。ボールペンや修正液など、私物にしていませんか。などなど、実は、意識すらしていない搾取行為があるかも知れません。また、福利厚生費からの支出ですと言う理由で職員慰安旅行費を全額公費で出していませんか。
 自分の職場を納税者と言う立場で、ぜひ、見直してみて下さい。

7 資金運用

 児童養護施設の会計では、定員数によって異なりますが、大体、1億5000万円から2億5000万円程度のお金が動いています。勿論、そのほとんどが措置費収入ですが、寄附金も施設運営にとっては、大きな力になっています。
 さて、児童養護施設も建物があっての運営ですが、その建物も永久に使用できるわけではありません。老朽化していきます。つまり、いつかは、建て替えをしなければいけないわけです。
 皆さんもご承知の通り、児童養護施設は、収益事業を行うことはできません。つまり、利益が生じることがないのです。
 従って、毎年の会計の中でコツコツと積立金を蓄えていきます。それを何十年と継続していくと、積立金がある程度まとまった金額になっていきます。このお金は、建物の建て替えのためのお金ですから、建て替えの時期が来るまで、原則として使うことはありません。
 このお金を利率が低い普通預金に寝かせて置くことは、実にもったいない話です。では、どのようにしているのか、数千万円程度のまとまった金額の場合、銀行ごとに商品名は異なりますが、スーパー定期等の名称で少し利率の高い定期預金に預けることができます。5000万円を超えるまとまった金額の場合、更に利率の高い譲渡性預金があります。ただ、利率というのは、日々変化していきますので、金融の流れを見ながら定期預金の期間を設定していく努力が必要です。
 これも一種の資金運用と言えますが、預金ですので元本が保証されています。費目的にも受取利息収入と言う設定があり、社会福祉法人の経営上、特に指摘されることはありませんし、このような努力をすることが勧められています。

 あなたの働く児童養護施設でも、事務長さんが、少しでも施設運営の(+)になるよう、取り組んでおられると思います。興味のある方は、事務長さんに質問されてみては如何でしょう。

8 最高議決会議

 児童養護施設における最高議決会議は、ご承知の通り職員会議です。その下部に職制会議や部署別ミーティングがあります。ただし、職制会議については、施設長直轄会議として、職員会議の上部に設置する組織もあります。
 職員会議の招集者は、勿論、最高責任者である施設長です。しかし、ほとんどの場合、その招集業務を主任クラスの職員が代行していることでしょう。
 例えば、法人理事長が理事会のため理事を招集する場合、必ず、議題を事前に伝えます。時には、資料を事前に配付している場合もあります。職員会議では、どうでしょう。あなたの勤める児童養護施設では、事前に議題が伝えられているでしょうか。職員会議の更に上部会議である理事会で、議題の事前通知が行われているにも関わらず、職員会議で、それが成されていない場合は、再考する必要があります。
 職員会議の司会者を持ち回りで担っている場合があります。その方法を否定するわけではありませんが、果たして、施設長の業務代行者として、事前に、会議を進めるに当たっての施設長との打合せが、どれほど実施できているのか疑問です。本来は、主任クラスが、施設長と十分に打合せをし、議題選定を行い、全職員に議題の事前通知をするのがスムーズでしょう。事前通知を受けた職員は、議題に対して、報告・発表の担当者であれば、資料準備を滞りなく行い、その他の職員は、疑問や意見を検討しておきます。所謂、会議進行をスムーズに進めるための根回しをしておくわけです。いいえ、職員会議の司会者は、職員育成の一つとして職員持ち回り制を採っており、会議進行の資質を高めるために必要であるとの考え方もありますが、それは、部署別ミーティングと言う場を利用すれば十分です。何故、職員会議の司会者として主任クラスが適任なのか、それは、児童養護施設の最高議決会議であり、運営の方向性が示される重要な会議だからです。
 さて、職員会議の席に着席しているのは、職員個人としてのあなたですか、それとも、子どもたちの代弁者である職員のあなたですか。前者であれば、会議の時、あなたの気が向かなかったら発言をしないと言う理屈が成立するでしょう。しかし、後者は、子どもたちの代弁者として着席しています。意見を述べなければ代弁者としての役目を放棄していることに繋がります。行事予定、行事計画報告の発表者が発表し、特に討論が成されることもなく、主任や施設長が一方的に話し、会議が終了と言ったパターンに陥っていませんか。全職員が、子どもたちの代弁者としての自覚があれば、必ず、ディスカッションに成るはずです。そこには、たくさんのアイデアが放出され、より良い方向へと導かれていくことでしょう。
 議事録は、整っていますか、また、その議事録は、いつでも職員が閲覧できるようになっていますか。職員会議の議事録には、承認や決定事項が記載されている筈です。最高議決会議の議事録です。つまり、最高レベルの内容が記載されていることになります。資料も含めてファイルに綴り、施設長が議事録をチェック後、押印し、閲覧に供することができる場所に置いておくことが大切です。
 勿論、職員であるあなた自身も議事録をチェックすることは言うに及びません。また、職員会議に欠席した職員は、必ず、議事録を読んで、出席した職員と同じように情報を共有する義務があります。

 児童養護施設で働くあなたへ、大学時代、ゼミを受講した方もいるでしょう。そのゼミの中で、テーマが設定され、他の学生とディスカッションしていたことでしょう。あるいは、小学校・中学校・高校時代、意見を戦わせた経験は、誰もが持ちうる思い出と思います。親と口げんかという形で意見を戦わせた人もいることでしょう。所謂、素人時代には、ディスカッションやディベートを行っています。では、何故、プロになった今、それができないのか疑問です。勿論、全職員がディベートできないと言うことはないでしょう。しかし、会議で一言も意見を述べない人が多いことも事実です。プロとして、子どもたちの代弁者として、会議では、積極的に発言していきましょう。それが、施設運営を適切な方向へと導いていくと共に、不適切な状況の時は、自浄作用が働いていきます。結果的には、子どもたちの環境がより良い方向へと改善されていくことに繋がります。

9 適正な事務処理

 施設会計の事務処理とは、措置費を如何に適正に出納処理するかが重要です。そのために必要なことは、
①すべての支出に適正な根拠があること。これは、計画書や学校配布プリント、施設長の承認印などが挙げられます。
②すべての支出に証拠があること。これは、領収書やレシートが挙げられます。
③すべての支出が適正な取引であること。見積書、納品書、請求書等の発行が行われているかどうか。高額な支出に対しては、複数の業者で競合させているかどうか。納品時にチェックしているかどうか。が挙げられます。
④すべての支出が記録として残っていること。これが事務会計処理になります。伝票に始まり、収支決算書や貸借対照表にいたるまでの書類が整備されており、現実の出納状況と、書類上の数字が完全に一致していなければいけません。
 これらの要件をすべて満たしながら事務処理を進めていきますが、これは、事務の努力だけでは、不可能なのです。職員の皆さんが、事務処理への理解を深め、その処理に対しての協力を得られなければ、適切な事務処理ではなく、不適切な事務処理となってしまいます。
1.出納業務の時間
入出金には、どうしても銀行の業務時間が関わってきますので出納業務もそれに連動することになります。
①月曜日…午前11時までに出金の申し出があれば、夕方にはお渡しできます。
②火曜日から木曜日は、平常の出納業務です。
③金曜日…午前11時までに出金の申し出があれば、夕方にはお渡しできます。
*土日に要する出金も午前11時までに申し出るようにしてください。
④土日祝…原則的に出納業務は休止です。
*土日に要する出金は、金曜日中に預かるようにしてください。
2.現金を預かる
 児童養護施設で使用する金銭は、ご承知の通り、殆どすべて措置費です。(一部寄付金収入等があります。)つまり、公金と言うことになり、その取り扱いには十分な配慮が必要です。
 従って、仮払い等で仕方なく現金を預かる場合は、2~3日以内で精算を済ませるようにしてください。
3.事務員からの視点
①児童の個性を配慮
 歯ブラシや食器、生理用品等々、子どもたちの個性や趣向が関わってくる日用品は、一括購入ではなく、担当者を中心に個別購入した方が良いでしょう。
②計画性のある支出
 当日思いついて支出を伺おうとする体質は、要改善です。不足に落ちうる事態は、事前に予測できるパターンが多いはずです。
③計画的まとめ買い
 支出計画を立て、極力まとめて支出してください。そうすることによって領収書の枚数は減り、出納業務の省力化に繋がります。
④体質改善
 措置費を使っているとの緊張感、組織の一員として支出をするとの責任感、同僚間の連携の希薄さ等々、経済面に於いて体質改善、意識改善が求められます。
⑤調理体験
 子どもたちと共に食事を作り、調理方法を教えたり、コミュニケーションを深めたり、食の大切さを伝えたり等、食育としての取り組みを行い、その取り組みを記録に残していくことが大切です。この記録は、指導監査資料として求められています。
⑥個別対応
 個別対応の意味合いとしては、社会性を育む取り組みとして、映画を見たり、ボーリングをしたり等、社会性と共に余暇活動の幅を拡げていく取り組みが求められます。
 個別対応での外食経験を通して、社会性を育んだり、食事マナーを学んだり、代金を支払う経験を通して、経済観念を学んだり、職員とのコミュニケーションを深めたり等々、食育の効果が十分に期待できる取り組みです。その取り組みを記録に残していくことも大切な業務です。これも、食育に対する記録として指導監査時に準備します。
 基本的に業務で消費するものは、必要経費となります。職員が子ども1人又は複数人を引率し個別対応の取り組みを行った場合、そこに掛かる食事代は、経費となります。職員が自己負担で行った場合は、業務を離れボランティア活動になりますので、事故責任の所在が混乱してしまいます。
⑦グループ外食
 グループ外食の効果も個別対応の効果と殆ど同じですが、グループ単位であり、仲間と共に外出し、食を楽しむと共に対人関係上のトラブルに遭遇し、それを解決したりなど、個別対応と違った効果が期待できます。

4.業務手続きの流れ例

1.文書発信について
 次の文書は、文書発送簿に記入の際、番号「 号」を記入してください。
・施設長名、施設長印を伴う外部への発送文書
・理事長名、法人印を伴う外部への発送文書
次の文書は、文書発送簿の「番号」以外の部分を記入してください。
・施設長名は、記載するが連絡事項等の担当者レベルの内容で外部への発送文書
・担当者名による外部への発送文書
・行事案内状、ただし、送付先が多い場合は、総括した記入にしてください。
 文書発送簿は、事務室の棚に置いてあります。
 *文書収受簿については、書記が記入します。

2.出張の手続き
①出張命令…研修等、業務上発生する出張については、施設長より「出張命令」がでます。つまり、施設長命令の出ていない出張については、給与規定上の手当てや旅費が支給されません。ただし、希望する研修等があった場合は、「出張伺い」を施設長に提出し、承認を得られた場合は、「出張命令」となります。
②出張に出る
③「復命書」提出と旅費等諸経費の清算。…復命書は、書記預かり。
④「出張報告書」の記入と提出。…出張報告書は、掲示ファイルに綴る。
*全スタッフへの情報開示。
◎行事参加による出張は、「行事実施報告書」をもって「出張報告書」とする。

3.超過勤務手続きについて
①「時間外勤務命令」の発令又は、「時間外勤務伺い」の提出…提出先
②「時間外勤務伺い」の申告状況をまとめる。
③施設長と書記の打ち合わせ。施設会計状況で「超過勤務手当て」の支出限度額を設定。
④「超過勤務手当ての配分表」を作成後、施設長承認を得る。
*各自の申告どおりに「超過勤務手当て」が出るとは、限りません。会計上の問題もありますが、業務遂行状況を施設長が判断する場合もあります。

4.車両使用について
 業務中の車両使用については、公用車を使用してください。ただし、車両数が少ない場合、私用車を使用せざるを得ない時もあると思いますが、その際は、施設長の承認を得てください。

 児童養護施設で働くあなたへ、小遣い帳の管理を含めて、お金の使い方について、子どもたちに教育を行っていると思いますが、今一度、自分を振り返ってみましょう。業務の中で、あなた自身が計画的に支出を願っていますか。支出に関しては、主任や施設長の承認印を得ることが大前提ですが、支出当日に、伺い書を作成し、主任や施設長が不在で、承認印を得ることができず、買い物に行けなかったと言う経験はありませんか。子どもたちに対して、教育する内容について、まず、自分自身が子どもたちの見本となれるよう努力を怠らないようにしてください。

10 建築事業の概要

 福祉施設の建物は、年々減価償却しています。鉄筋コンクリート造でも固定資産的耐用年数は、39年となっています。従って、現存する福祉施設は、必ず、建替事業が発生するのです。しかし、それは、40年~50年に1回の周期であり、同人物が2度、建替を経験することは、殆どないでしょう。つまり、建替事業の担当者は、殆どの場合、初めての経験なのです。
 また、制度は、少しづつ変化しています。補助金制度は、国庫協議に於いて民間施設の書類作成が生じていましたが、交付金制度に於いては、国庫協議は、完全に自治体と国の協議であり、民間施設が書類を作成することはありません。勿論、書類整備の補助は発生します。
 従って、現時点での情報が、未来永劫まで通用することはないでしょう。ただ、冒頭でも述べているとおり、殆どの担当者は、初めての経験であり、建替事業のイメージすら描けないのが現実です。そのイメージ作りの参考になるよう概略をまとめました。
 まず、資金計画を策定し、法人の建設資金限度額を把握する。それを予定価格とし、設計士にその価格内で、設計図を描いて貰う。これが、事業の基本となります。
建築事業の流れ
①建物設置場所の決定、事業種別・事業内容の決定、仮設園舎用地探し
②建物構造の決定・資金計画(概算見積書)、地元の同意(町内会長へ説明)
③設計業者指名競争入札(自治体又は経理規定に準ずる)
④基本設計を自治体に提出(承認を得ないと予算化出来ない)
⑤実施設計と積算書を自治体に提出(国庫協議・自治体予算化資料)
⑥国庫協議内示又は自治体単独内示
⑦福祉医療機構へ借入書類提出(受理票受取が契約の条件)
⑧社会福祉協議会融資申請(前年度に予算化予約済み)
⑨施工業者一般競争入札(自治体規定に準ずる)
⑩請負契約の締結→起工式
⑪旧建物財産処分手続き開始(補助金事業の建物の場合)
⑫工事着工(週1で業者と施主打合会)
⑬補助金精算請求(各年度毎の国庫協議)
⑭旧建物財産処分(解体前に手続き完了)
⑮竣工→落成式
⑯実績報告書提出・定款変更
入札前後の流れ
①設計士積算完了
②確認審査書完成(審査機関)
③実施設計を自治体に提出
④自治体とヒアリング(書類調整)
⑤設計士対自治体監査課
⑥理事会(公告内容・予定価格)
⑦法人対自治体監査課
⑧自治体より結果通知
⑨公告(期間を2週間に設定)
⑩入札参加〆切
⑪入札参加有資格候補者報告書提出
⑫自治体より審査結果通知書
⑬理事会(入札参加業者決定)
⑭業者へ入札参加資格確認結果通知
⑮現場説明(図渡し)
⑯福祉医療機構提出書類受理通知
⑰施工業者選定入札
⑱入札結果一覧表公示(2週間)
⑲請負契約(工事請負契約書)
⑳自治体へ各種書類提出

 児童養護施設で働くあなたへ、建物の老朽化で改築事業が行われる場合、そのプロジェクトに、ぜひ、積極的に参加しましょう。建物の建て替えには、夢と希望が詰まっています。建物が原因でなし得なかったノーマライゼーションへの取り組みが可能になり、より家庭的な間取りへの変更も可能です。経営者だけに任せておくのではなく、実践現場の意見を子どもたちの代弁者として、伝えていきましょう。
 また、建て替えは、行事予定等のスケジュールを共有したり、ホールや応接室等の予約をしたり、車の予約をしたり、連絡事項は、掲示板や園内メールで伝えたり、ケースファイル等を共有したりなどなどを一元管理できるように、IT化を進めていく良い機会でもあります。

11 理念の継承

 福祉現場を支えているのは「人」であり、その「人」を育んでいくのは「組織」となり、その組織の根本が社会福祉法人の「理念」と言えます。
 「人」「組織」「理念」が点となり、点と点が繋がり線となる。その線が利用者へと繋がり、初めて適切な支援・サービスへと展開していくのです。
 しかし、点と点の間の線が切断されていたら…。それは、職員チームワークの崩壊へと繋がっていく危険性を秘めています。線が太ければ安定した柱となりますが、線が細かったり切断されていたら、築き上げてきたものが崩壊していくのです。
 築き上げてきたものとは何か。それは、歴史であり理念の継承であり蓄積された技術のノウハウであり社会福祉事業への志でしょう。
 どんなに社会が変化しても時代が移ろおうと絶対的に変化しないのが理念です。ここでは、この理念に関する説明は、紙面の都合上、割愛し、理念啓発の指針を挙げます。
 「法人の歴史を踏襲し、現代に応じた宗教との関係を模索していく。職員及び子ども達の意思を尊重し、信仰、宗教行事参加、宗教に関わる活動について強要を決して行わない。但し、現代社会を生き抜いていくためには、精神面、心理面での成長だけではなく、魂の質の成長も求められる。」
 理念を継承したとして、その結果が有益でなければ適切な利用者支援へと繋がっていかないのです。では、有益な結果とは如何なる事でしょう。それは、職員一人一人の信念との同調です。その時、初めて理念の継承が大いなるパワーへと変換していき堅牢な柱が構築されます。この様な現象を表現しているのが「一枚岩」です。
 その為には、まず、施設長を始めリーダーとなる職責の職員が、信念(心)を込めて理念を伝えることが重要となります。信念のない言葉は、相手に伝わらないばかりか、不信を招く恐れもあります。しかし、信念によって構築された言葉は、理解や納得を引き起こし、それが、スムーズな違和感のない利用者支援へと繋がっていくのです。
 例えば会議に於いてディスカッションが成されているだろうか、司会者と報告者の発言で終始しているようでは「一枚岩」とは言えません。職員一人ひとりが利用者のために自信と責任を持って発言できる雰囲気が会議室を充たした時、信念の同調(共通理解)を体感し、より高度な利用者支援、業務遂行へと発展していくのです。
 福祉、全ての根本は「愛」です。従って業務全般の方向性の終着点も「愛」に尽きるのです。この「愛」は古今東西、共通した真理であり、私たちは、自信と責任を持って、愛の理念を継承していきましょう。

12 憲法第89条問題

日本国憲法
第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
第89条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

 憲法改正論議に関するマスコミの取り扱いは、第9条が目立っていますが、社会福祉法人の存続に関わる憲法論議も展開されていることをご存じでしょうか。
 第89条に対して、特に目立った論議が、私立学校振興助成法(私学助成)です。簡単に説明すると、私学が公の支配に属すのか属さないのかによって、現在の国庫補助が合憲か違憲かの判断に影響すると言うものです。1971年の政府見解は、曖昧な表現で終始していますが、これまでの裁判事例では、合憲と結論づけられています。
 そして、社会福祉事業ですが、特に、民間事業に関しては、この条文を厳格に厳守すると、国庫補助は、違法と解釈せざるを得なくなります。
 戦後の福祉機能は、25条が基本になり構築されていますが、憲法そのものが、GHQ三原則、「無差別平等の原則」「国家責任の原則」「公私分離の原則」が基本となり立案されており、その内、「公私分離の原則」が第89条に色濃く反映されています。
 戦後当初の社会福祉事業は、日本人有志の寄付金や、アメリカやカナダにおけるキリスト教関係団体からの寄付金等がありましたが、それも年々、減少していき、戦前にあった救護法における措置委託費に対して福祉三法(生活保護法・児童福祉法・身体障害者福祉法)を制定し、本来は、国の責任で行う福祉事業を民間の施設に委託する、いわゆる措置委託制度を確立し、それが現在まで継続しています。その様な経緯の中で社会福祉法人が誕生しています。
 では、第89条が、どの様に社会福祉法人に影響を与えているのか、それは、「宗教上の組織」「慈善事業」等の単語が、あるためです。日本における社会福祉事業は、仏教やキリスト教などの宗教団体によって設立されたところが多く、慈善事業からスタートしていますが、仏教のおつとめやキリスト教の礼拝などが、日常生活に導入されている場合、或いは、仏像や十字架などの設置に対して、制限が与えられる事例もありました。また、社会福祉法人の基礎である「定款」における目的の内容で、宗教的な意味合いが含まれている場合に指導が成されたりもあります。特に宗教系の福祉施設の場合、根本理念に関わる問題である訳です。
 児童養護施設は、2008年現在において、措置費制度が継続していますが、殆どの福祉が支援費制度(契約制度)へ移行していますが、簡単に説明すると、措置費制度の場合、措置費は、事業所に補助されますが、支援費は、利用者に支給されるため、公的資金の流れとしては、分かりやすいのですが、社会福祉事業は、その維持管理や、老朽化による建て替え等、公的資金が無ければ達成できない事業内容も数多く存在します。
 憲法問題を大胆にも短文でまとめているため、学者の皆さんは、立腹されるかも知れませんが、敢えて、素人でも概略が掴めるようにまとめています。
 この第89条は、条文の拡大解釈及び、条文に制度を合わせる形での運用になっているため、未来永劫、その状態が確約されていると言うことではありません。特に、「慈善」英語では、Charity(チャリティ)になると思いますが、日本国憲法には明記されていますが、憲法草案国であるアメリカの法律には明記されていないと、ある学者さんにお聞きしました。つまり、憲法草案には、戦後の社会的、政治的背景が影響を受けている可能性も考えられます。
 児童養護施設で働くあなたは、護憲運動や憲法改正反対運動等を、自分たちと関係のない世界と単純に捉えている方もいるかも知れませんが、現実は、自分たちの働いている根本に第89条問題があることを、是非、知識として持っておくようにしましょう。

13 グループウェア活用

 私たちが、業務を進める上で、情報の共有は、必要不可欠です。一部の職員は、情報を知っていても、他の職員は、その情報を知らない、知り得ないでは、チームとしての機能が100%発揮できません。

1.平成初期までの情報共有の方法
①スケジュール
 スケジュール表の配布、黒板又はホワイトボードへの板書
 *個人毎では、システム手帳への記帳(全員ではない)
②在籍管理
 出勤簿への押印、タイムカード刻印、ネームプレート裏表等
 *現在、誰が在籍しているのかのチェックに出勤簿を使用することはない。
③会議室・車両・物品管理
 ノートへの記帳、「使用中」ライト点灯、ホワイトボードへの板書
 *情報の場所が限られてしまい、全員情報共有に至れない。
④掲示物(全体への情報提供)
 掲示板への掲示、所定の位置での閲覧
 *見ない人は、見ない。見る事への習慣化が困難。
⑤回覧板(部署毎又は全体への周知徹底)
 回覧板を順番に回す、所定の位置での閲覧後押印
 *全て回覧されるまでに時間がかかり、タイムラグが生じる。
⑥簡単な連絡事項
 メモを置く、外部サーバーのメールアドレス
 *連絡すべき事を忘却してしまうことがある。
⑦稟議
 全て、書類(紙)で申請する。
 *稟議を回さず、口頭承認だけで済ませていることが多々ある。
⑧職員連絡先情報
 事務室、総務部、人事部などで把握、連絡網の配布
 *連絡網さえ、配布されていない事業所も多い。
⑨業務上重要情報
 会議での資料配付及び口頭発表
 *配付資料を整理して綴っていない、議事内容を記憶していない、あなたの職場に会議中、メモを取っている人が何人いるだろうか。

2.何故!IT化が遅滞しているのか?
 上述の方法が、一般的な情報共有の手段として用いられていましたが、10名程度の小規模事業所では、それで十分効果がありますが、30名以上の中大規模事業所では、情報共有が不十分と言わざるを得ませんでした。
 そこで、大企業を中心にIT化が進められました。ITはInformation Technologyの略で情報関連技術といい,コンピュータ(ハードウェアおよびソフトウェア)やネットワークに関わる技術全般を指します。
 その技術の一つにグループウェア(企業内LANを活用して情報共有やコミュニケーションの効率化をはかり、グループによる協調作業を支援するソフトウェアの総称。)があり、活用していきました。
 勿論、行政もIT化推進を行い、コンピューター(端末)から情報を取り出したり、入力したりが、当たり前のように行われています。
 さて、福祉の世界では、どうでしょうか。残念なことにIT化に乗り遅れていると言わざるを得ません。
「人と人との直接的なコミュニケーションが大切で、その間に機械が介在するのは、理解できない」
「情報の共有は、直接話せば良い、目と目を合わせて、話せば、充分に通じる。」
「機械を導入すると、機械に頼ってしまい、コミュニケーションが希薄になるだろう。」
「パソコンの仕事が増えて、子どもたちとの関わりの時間が短縮されるのではないか。」
「タイピングは、出来るが、パソコンのことは、殆ど分からない」
 等々が、よく聞かれる導入反対理由です。しかし、これは、まだ、良い方で、インターネットに繋げていない、ましてやイントラネット(社内等、限定された範囲でのコンピュータネットワーク)を構築していない事業所も数多く存在します。
 また、ホームページを開設していない、公開していても殆ど更新作業をしていない。メールアドレスは、公開しているが、誰も、メールチェックを行っていない等々もあります。 これは、福祉の世界では、パソコンの前に座っているデスクワークは、クライアントへの直接処遇から逃避している、或いは、仕事へのサボタージュ、パソコンで遊んでいるのではないか等々の誤解を受けてしまいがちな状況が根強く残っているからです。
 これらの負の印象を払拭するのは、適切な運用であり、職員各自も新しいシステムに対して、頑なに否定的になるのではなく、とりあえず体験してみようとの冒険心を持つことが求められます。多分、職員自身も子どもたちに同じようなアドバイスを与えたこともあることでしょう。自ら実践する姿勢も大切です。

3.今後の情報共有
 情報共有で、最も大切なことは、勿論、人と人とのコミュニケーションであり、グループウェアは、それを補完するアイテムと言えます。1.にある*印の(-)要因が、殆ど解決できる方法でもあります。ぜひ、グループウェアを積極的に活用していき、業務に生かしていきましょう。

14 給与の仕組み

 給与は、雇用契約や就業規則や給与規定等の諸規定、各種法律を基に、任命権者(理事長)が給与辞令を発行し、基本給や各種手当てが決定されます。その支給金額から、社会保険料(健康保険料・介護保険料・厚生年金保険料・雇用保険料等)や税金(所得税・住民税)等を控除し、更に共済年金や食費、職員宿舎費等の協定控除があれば、それも控除します。そして、差引支給額(手取り)が決まり、現金又は、銀行振込等で、支給されます。
 支給額-控除額=差引支給額となりますが、これらの情報は、全て、給与明細書に記載されていますので、必ず、毎月、チェックするようにします。
 給与を計算している職員も人間ですので、間違うことがあります。例え、給与ソフトで計算していても、社会保険料率の変更や、協定控除等の変更に入力ミスがあったり、食費徴収があれば、食事回数の入力ミスが生じたり等、ミスを誘発する原因があります。
 間違いが生じた場合は、差額を徴収したり、返却したり等、或いは、年末調整の時に調整したり等があり、その際には、必ず、その旨の説明が為されます。しかし、もし、間違いに気づいていなければ、それらの処理が為されないことになります。
 従って、給与計算する側は、二重にも三重にもチェックしていますが、更に、支給を受ける側もチェックをすれば、給与支給の正確さが増していきます。
 給与は、基本的には、職場と、そこで働く職員との間で取り決めることになりますが、それでは、雇用する側にとって有利な条件を提示し、働く職員が不利な状況になることもあります。そこで、その様な偏った状況にならないよう、労働基準法で、最低限の保障が明示されています。その労働基準法は、数年ごとに改定が行われていますので、仮に、職場の就業規則や給与規定の改定が5年以上行われていないのであれば、チェックが必要です。育児・介護休業や定年に関する規定等の改定が、必ず、行われていなければならないからです。
 この様に、給与と言っても、各種法律が関わってきます。前述の労働基準法、毎年、収入に応じて支払う所得税に対しては、所得税法、そして、社会保険に関する各種法律ですが、給与計算を行う職員が全ての法律を熟知しているとは限りませんが、手続き方法は、熟知しています。
 ここでは、給与と言う表現で統一して説明していますが、実は、法律によって、その表現は、違います。給与は、所得税法の表現で、労働基準法では、賃金、社会保険各法では、報酬となります。俸給と言う表現は、国家公務員の報酬に対して使用され、国会議員は、歳費と言う表現を使用しています。また、雇用する側とそこで働く職員に対しての表現も、労働基準法では、使用者と労働者、所得税法では、使用者と使用人、社会保険各法では、事業主と労働者となっています。

 所得税は、課税対象となる給与額(賞与含む)から社会保険料を差し引いた額に対して課税されます。では、課税対象とならないものは何かと言うことになりますが、原則月10万円以下の通勤手当が非課税となります。課税については、基礎控除、配偶者控除、扶養控除等が影響し、毎月の所得税額が決定し、それを一旦、職場が預かって、一括して納税します。
 所得税の期間は、1月から12月となっていますので、毎年、12月になると年末調整を行い、正式な年間所得税額を確定します。これを源泉徴収税額と言います。この年末調整では、保険料控除、配偶者特別控除、住宅借入金等特別控除等も計算されるため、該当する人(申告書を提出した人)は、税金が還付されることもあります。ここで、断定的な表現をしないのは、控除の項目は、毎年、適用されるのではなく、その時の社会情勢等が影響し、適用されない時もあるからです。
 住民税は、各個人が納入する普通徴収と、職場が、代行して行う特別徴収があります。住民税は、市区町村が、職場から提出して貰う給与支払い報告書と税務署から確定申告書を入手し、その情報から税額を算定し、それを12で割った額を月額とし、6月から翌年5月まで、毎月の給与から控除するのが特別徴収となります。つまり、前年の給与額が税額として反映することになります。この住民税も、一旦、職場が預かって、一括して納税します。
 所得税の場合、課税対象となる給与の中に、超過勤務手当や宿直手当、早出手当等の変動給が含まれているため、毎月、徴収税額が変化しますが、住民税は、月額が決まっていますので、変化するのは、毎年6月だけと言うのが原則です。
 所得税は、1月から12月、住民税は、6月から5月、そして、社会保険料は、9月から8月と、それぞれ、期間が違います。また、所得税と住民税は、給与支払い月の徴収となりますが、社会保険料は、1ヶ月遅れの徴収となり、毎月、前月分を徴収していることになります。
 社会保険料は、定時決定の仕組みに絞って説明すると、7月1日現在、被保険者として働いている職員の、4月・5月・6月の給与の平均値から標準報酬月額を決定し、9月から翌年8月までの徴収額が決まります。何事も変化がなければ、その期間の徴収額は、一定となります。全段で伝えたとおり、社会保険は、1ヶ月遅れの徴収となっていますので、現実的には、10月の給与から徴収額が変化することになります。ただし、賞与の保険料は、賞与額によって変化しますので、一定とはなりません。その他、年度途中雇用の場合や、年度途中で、扶養家族が増え手当増額が増加したり等での手続きが生じ、徴収額が変化する場合もあります。
 所得税や住民税は、個人にのみ徴収負担がありますが、社会保険の場合は、職場も負担することになります。その負担率は、同率となっています。
 雇用保険の場合は、職場の負担率が少し高くなっています。また、標準報酬月額等の仕組みを採用していませんので、変動給の動きで、毎月、徴収額が変化することになります。 所得税、住民税、社会保険は、毎月、職員の給与から職場が預かり、毎月、支払い業務を行っていますが、雇用保険の場合は、毎月、給与から預かりますが、支払いは、4月から5月までの期間内に一括して支払います。これは、雇用保険の保険年度が4月から3月までとなっているためです。この雇用保険と、労働者災害補償保険を総称して、労働保険と言います。労働者災害補償保険は、事業所単位で加入するため、職場のみが負担することになります。

 児童養護施設等、福祉施設は、独自で退職金制度を創設することは、不可能であり、独立行政法人福祉医療機構の社会福祉施設職員等退職手当共済制度に法人単位で加入しています。これは、法人及び事業所として加入していますので、職員一人一人からの徴収は、発生しません。全額、職場負担となっています。この制度への加入によって、勤務年数に応じての退職金支給を受けることが出来ます。
 もう一つは、市区町村の社会福祉協議会等の民間社会福祉事業従事者年金共済事業が挙げられます。一般的な流れとしては、5月・6月・7月の給与額平均で標準給与月額を決定し、10月から翌年9月まで、毎月、掛金を支払っていきます。この制度では、職員の負担が発生しますが、職員より高い掛け率を職場も負担します。また、退職金として貰う形と、年金として貰う形などを選択することも可能です。
 児童養護施設の職員の給与は、控除されてばかりでは、勿論ありません。種類は、少ないのですが、各種手当ての支給もあります。
・管理職手当
 児童養護施設は、組織としては、殆ど中小企業程度ですので、管理職は、施設長だけと言う所が多いようです。大体、本俸額の8%~10%が手当額になっています。
・特殊業務手当
 児童指導員や保育士の直接処遇職員に支給されます。本俸に対して何%と率で計算したり、定額を支給したりと職場によって様々です。また、主任に対して、この手当を加算している場合もあります。
・主任手当
 法的に主任の設定がないため、主任の名称さえ採用していない、児童養護施設もあり、主任の役は、与えても手当は、支給していないところもあり様々です。大体、本俸額の3%~6%が手当額として適当であると考えられます。
・扶養手当
 配偶者と配偶者以外の扶養家族が、同居している場合に支払われる手当です。
・住居手当
 借家の場合、その家賃額に応じて手当額が決まりますが、手当最高額も決まっています。持ち家の場合は、例えば、自宅購入してから5年間限定とかの決まりがあったり、支給対象から外してあったりと様々ですが、例え、支給されても数千円と少額です。
・宿直手当
 例えば、宿直1回あたり3,500円などと定額を設定しているところが殆どです。一応、1週間に1回が限度ですので、1ヶ月に4回宿直したら14,000円程度ということになります。
・超過勤務手当
 これは、労働基準法で、最低額が明記されていますので、どこの職場も法律を遵守しています。
・通勤手当
 まず、限度額は、設定されています。その上で、交通機関を利用している場合、自家用車を利用している場合等の細かな規定が設定されています。
・その他の手当
 施設長判断で支給される場合が、稀ですがあります。

 給与明細書の中身を解説してきましたが、最も重要な数字は、基本給です。職場からいただく辞令書の中に、行政職俸給表Ⅰ○級○号俸または、福祉職俸給表○級○号俸と記載されていれば、人事院勧告による国家公務員俸給表に準じて給与支給が行われていることになります。それ以外の表記の場合は、法人独自の給与表を使用しているのだろうと予測できます。
 この様に、給与の支給基準は、法人毎に違いますが、人件費の殆どは、措置費によって賄われています。その措置費による人件費支給の本俸基準額は、児童保護措置費手帳に記載されています。例えば、
 施設長 271,900円
 主任児童指導員 227,970円
 児童指導員 207,774円
 主任保育士 199,206円
 保育士 193,086円 
 となっています。何故か、保育士より児童指導員が割高になっていますが、とにかく、基準額の設定が低く抑えられていますので、実際に、給与支給している事業所は、職員の年齢構成等での調整が必要であり、どうしても、少しでも低い水準の賃金体系を採用しなければ、運営費全体に対する人件費の割合を抑えることが出来ません。そのため、施設経営上、仕事量や仕事内容、精神的負担等、考慮してあげたいのですが、それが出来ないというジレンマに陥るのです。そのため、職場としては、精一杯、手当てしているつもりでも、働く職員にとっては、安月給とのギャップが生じています。
 ところで、保育士と児童指導員の間での給与格差は、現代社会においては、皆無と考えられます。格差が生じるのは、短大卒と大学卒の学歴によって、初任給設定が違うこと程度です。特に、人事院勧告に準じて給与支給している事業所の場合は、確実に毎年、昇級があり、一定割合の賞与が支給されます。給与評定を採用していない限り、一律の昇級になりますので、格差が生じる原因がありません。ただし、任命権者が、個別に、特別昇給を発令する場合もありますので、絶対、給与格差が生じないとは言えませんが、それは、特例であり、希なことです。
 児童養護施設で働く職員の給与は、決して高い水準とは言えません。しかし、一般企業と比較した場合、毎月、確実に給与が支給され、年2回賞与が支給されます。減給処分を受けない限り、基本給が下がることもなく、毎年、昇級していきます。つまり、支給が安定しているため、生活設計が立てやすいという、大きな利点があります。
 児童養護施設は、少子化が進むと統廃合等によって減少していくのでないかと考えられていた時期もありましたが、現実は、少子化の影響以上に子育て能力水準の低下や子どもたちの特性の多様化等、現代社会における歪みが子育て環境に大きく影響し、児童養護施設へのニーズが高まってきています。つまり、就職先としても将来性があります。大企業でさえも経営破綻を来す昨今において、安定した事業と安定した給与支給は、大きな魅力と言えます。

15 勤務評定と昇級

 平成19年度、人事院による「職員の給与等に関する報告」中に、勤務実績の給与への反映の推進が謳われており、国家公務員においては、平成18年度より、実施しています。 しかし、行政職俸給表又は、福祉職俸給表に準じて給与支給している児童養護施設において、勤務評定を取り入れている施設の話を聞いたことがないのが現実です。
 児童養護施設で働く職員の勤務態度は、様々であり、素晴らしい働きをしている職員が殆どですが、残念なことに、そうではない職員が存在していることも事実です。そんな中、給与の昇級は、一律的な運用となっています。つまり、一生懸命、子どもたちの為に仕事をしている職員も、そうでない職員も同じように給与が支払われます。
(-要因)
 1.昇級幅が一律のため、仕事に対して精進する目標が設定しにくい。
 2.自分の仕事に対しての評価が目に見える形で存在しないため張り合いがない。
 3.仕事に対する能力が低い同僚を、つい見下してしまう。
 民間の児童養護施設は、公務員や一般企業に比べ、手当の項目が少ないのが現状です。給与手取りに反映するのは、殆ど、基本給が占めています。
 「お金の問題ではない、仕事の内容で、この仕事をしているのだ。」と言う志で、働いている人が殆どの児童養護施設であると思われますが、アパート代などの生活費、自家用車の購入、結婚資金の貯蓄、結婚したら家族を養っていく生活費など、現実には、お金が必要であり、自分の仕事に対して、正当に評価して貰い、それが収入に繋がっていくことは、誰もが望んでいることでしょう。
 適正に勤務評定が行われ、それが昇級に反映する場合
(+要因)
 1.仕事に対する目標が子どもたちへの支援向上と共に自分の生活向上も含まれる。
 2.自分が評価されることにより、より高い評価を得ようとする向上心が湧く。
 3.後輩や同僚への思いやり気配りも評価されるため、チームワークに繋がる。
 勤務評定の昇級反映の実施前、つまり現状における(-要因)が反映後は、(+要因)へと変化しますが、最大の課題点は、勤務評定の公正さが確保されるかどうかに他なりません。
 その課題点を克服するためには、勤務評定規定を整備し、極力、客観性を持たせるために、数値評価を記録する。このようなシステム構築が欠かせません。
 そのためには、以下の書類を整備します。
 1.勤務評定実施規定
 2.評定要領
 3.勤務評定記録書(常勤職員用)
 4.勤務評定記録書(非常勤職員用)
 5.試用期間勤務評定記録書(試用期間職員用)
 6.評価基準及び総合評定等の付与基準、勤務評定と昇級

 以下に参考までに数値評価の項目例を挙げてみました。
基本的能力
・児童対応に柔軟性があり、適正な対応をしているか
・有効な児童支援計画や対策を立てられる能力は十分か
・職務の計画、手順等を踏まえ、事態に対し判断する能力は十分か
・保護者や他機関に対して、適切な対応ができているか
・後輩や同僚に対して適切に指導又はフォローする能力は十分か
・職員会議や各種ミーティングで、積極的に意見交換をしているか
仕事の成果
・担当職務を、計画性を持って円滑にやり遂げたか
・ケース記録、復命書等、提出書類は、滞っていないか
・子どもたちへの対応は、細かく注意を配り、丁寧だったか
・仕事の段取り、後始末はきちんとできたか
・仕事の方法、進め方の見直しを行ったか
・仕事に対して、施設長や同僚から信頼を得ているか
仕事への姿勢
・規律をよく守って、公私のけじめをつけていたか
・報告・連絡を適時適切に行ったか
・誰とでも一緒に気持ちよく仕事をしたか
・決定事項には素直に従ったか
・与えられた仕事を最後まで遂行したか
・自分のやるべきことをすべて自分でやったか
・自分の失敗は素直に認めたか
・子どもたちに対して真剣に向き合う姿勢があったか
・他の部署に対して気配り、必要な時は、手伝ったか
・指示を受けなくても自発的に行動したか

 児童養護施設の職員の中には、勤勉に働き、自己の技能向上に切磋琢磨し、子どもたちとの良い関係作りに日々真剣に取り組んでいる職員がたくさんいます。そのような職員にとって、正当に評価され、それが報酬に結びいていく事実があれば、更に精進していく励みになります。また、平々凡々と働いている職員にとっては、良い意味での競争意識が働き、、技能向上に精進していくきっかけになります。そのことを通して、職場が活性化していき、それが子どもたちへの支援向上に繋がっていきます。