社会福祉法人とは 

社会福祉法人については、社会福祉法で定義付けされている。
(定義)第22条 この法律において「社会福祉法人」とは、社会福祉事業を行うことを目的として、この法律の定めるところにより設立された法人をいう。
 財産を所持したり取引したりする行為は、本来、人に与えられた特権であり、その特権を行使するにあたり、法律上の権利義務が適用されるのである。人以外で、この権利能力を認められているのが法人である。つまり、法人は、財産を所持することも商取引を行うこともできる。人の人格に対して、法人格と表現する場合もある。
 社会福祉法人には、法人としての権利義務が適用されるのである。ただし、法人には、営利法人と非営利法人、社団法人と財団法人、公法人と私法人など分類方法は様々であるが、社会福祉法人は、一般的に非営利法人の分類に入る。
 社会福祉法人として、認可を受けるには、社会福祉審査基準をパスしなければならない。その内容については、平成12年12月に局長通達として出された「社会福祉法人の認可について」に記載されている。
(経営の原則)第24条 社会福祉法人は、社会福祉事業の主たる担い手としてふさわしい事業を確実、効果的かつ適正に行うため、自主的にその経営基盤の強化を図るとともに、その提供する福祉サービスの質の向上及び事業経営の透明性の確保を図らなければならない。
 社会福祉法人の活動内容は、社会福祉事業に絞られている。社会福祉法人が、株式会社に代表されるような企業と同じように活動することはできない。企業は営利を目的とした営利法人であり、社会福祉法人は、営利を目的としていない非営利法人なのである。
 社会福祉法人には、補助金の申請や税制上の免税等の特別な権利を有することが認められており、そこには、義務も生じるのである。それが、経営基盤の強化、福祉サービスの質の向上、事業経営の透明性の確保である。
 社会福祉法人を維持し継続していくためには、所轄庁による指導監査を受けることが義務づけられている。所轄庁については、次の条文に記載されている。
(所轄庁)第30条 社会福祉法人の所轄庁は、都道府県知事とする。ただし、次の各号に掲げる社会福祉法人の所轄庁は、当該各号に定める者とする。
1.主たる事務所が指定都市の区域内にある社会福祉法人であってその行う事業が当該指定都市の区域を超えないもの及び第109条第2項に規定する地区社会福祉協議会である社会福祉法人 指定都市の長
2.主たる事務所が中核市の区域内にある社会福祉法人であってその行う事業が当該中核市の区域を越えないもの 中核市の長
社会福祉法人でその行う事業が2以上の都道府県の区域にわたるものにあっては、その所轄庁は、前項本文の規定にかかわらず、厚生労働大臣とする。
 社会福祉法人は、法人格を有している証明として定款を所持している。この定款は、法人設立時に作成申請し、所轄庁の認可を受けているのである。
(申請)第31条 社会福祉法人を設立しようとする者は、定款をもつて少なくとも次に掲げる事項を定め、厚生労働省令で定める手続きに従い、当該定款について所轄庁の認可を受けなければならない。
1.目的
2.名称
3.社会福祉事業の種類
4.事務所の所在地
5.役員に関する事項
6.会議に関する事項
7.資産に関する事項
8.会計に関する事項
9.評議員会を置く場合には、これに関する事項
10.公益事業を行う場合には、その種類
11.収益事業を行う場合には、その種類
12.解散に関する事項
13.定款の変更に関する事項
14.公告の方法
2 設立当初の役員は、定款で定めなければならない。
3 第1項第12号に掲げる事項中に、残余財産の帰属すべき者に関する規定を設ける場合には、その者は、社会福祉法人その他社会福祉事業を行う者のうちから選定されるようにしなければならない。
 前条第2項の社会福祉法人に係る第1項の規定による認可の申請は、当該社会福祉法人の主たる事務所の所在地の都道府県知事を経由して行わなければならない。この場合において、当該都道府県知事は、必要な調査をし、意見を付するものとする。
 この定款の「1.目的」を記載するに当たり、憲法第89条が社会福祉法人に与えている影響について知っておかなければならない。
日本国憲法
第9条 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
2 国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
第89条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
 憲法改正論議に関するマスコミの取り扱いは、第9条が目立っているが、社会福祉法人の存続に関わる憲法論議も展開されている。
 第89条に対して、特に目立った論議が、私立学校振興助成法(私学助成)である。簡単に説明すると、私学が公の支配に属すのか属さないのかによって、現在の国庫補助が合憲か違憲かの判断に影響すると言うものである。1971年の政府見解は、曖昧な表現で終始しているが、これまでの裁判事例では、合憲と結論づけられている。
 そして、社会福祉事業は、特に、民間事業に関しては、この条文を厳格に厳守すると、国庫補助は、違法と解釈せざるを得なくなる。
 戦後の福祉機能は、25条が基本になり構築されているが、憲法そのものが、GHQ三原則、「無差別平等の原則」「国家責任の原則」「公私分離の原則」が基本となり立案されており、その内、「公私分離の原則」が第89条に色濃く反映されている。
 戦後当初の社会福祉事業は、日本人有志の寄付金や、アメリカやカナダにおけるキリスト教関係団体からの寄付金等があったが、それも年々、減少していき、戦前にあった救護法における措置委託費に対して福祉三法(生活保護法・児童福祉法・身体障害者福祉法)を制定し、本来は、国の責任で行う福祉事業を民間の施設に委託する。いわゆる措置委託制度を確立し、それが現在まで継続している。その様な経緯の中で社会福祉法人が誕生している。
 では、第89条が、どの様に社会福祉法人に影響を与えているのか、それは、「宗教上の組織」「慈善事業」等の単語が、あるためである。日本における社会福祉事業は、仏教やキリスト教などの宗教団体によって設立されたところが多く、慈善事業からスタートしているが、仏教の勤行やキリスト教の礼拝などが、日常生活に導入されている場合、或いは、仏像や十字架などの設置に対して、制限が与えられる事例もあった。また、社会福祉法人の基礎である「定款」における目的の内容で、宗教的な意味合いが含まれている場合に指導が成されたりもある。特に宗教系の福祉施設の場合、根本理念に関わる問題である。
 この第89条は、条文の拡大解釈及び、条文に制度を合わせる形での運用になっているため、未来永劫、その状態が確約されていると言うことではない。特に、「慈善」英語では、Charity(チャリティ)が、日本国憲法には明記されているが、憲法草案国であるアメリカの法律には明記されていない。つまり、憲法草案には、戦後の社会的、政治的背景が影響を受けていると考えられる。
 社会福祉法人は、公的機関ではなく民間によるものではあるが、その事業内容は公益性が高く、公的機関に準ずる存在として認識できる。社会福祉法人が運営する社会福祉施設等の利用者に貢献するという狭義の範囲ではなく、社会に貢献すると言う広義の範囲で捉えなければならない。
 また、社会福祉法人は、社会福祉事業を担うことにより、存在価値を見いだせるため、必ず、社会福祉施設等の事業所を伴うことになる。法人本部だけで成立するものではない。
 従って、法人本部の経営と事業所経営を維持・継続していくための能力と資金力が重要な要素を占める。この経営について、理論的・系統的に整理したものがマネジメントである。マネジメントとは、オーストリア・ウィーン生まれのユダヤ系経営学者・社会学者であるP.F.ドラッカー(Peter Ferdinand Drucker)が、その重要性を世界中に伝えたことで有名であるが、ドラッカーは、特に非営利団体の経営に対しては、思い入れが深く、「非営利組織の経営」と言う特化した著書を出している。
 このドラッカー理論を基本にしながらも独自の解釈を加え、極力平易な文章としてマネジメントの重要性を解説していく。