Q.児童指導員として大変だったことは?

A. 児童指導員として、一番大変だったことと問いかけられた場合に思い出されるのは、糖尿病の中一の女の子を担当に持ったときのことでしょう。
一年365日、共に食事をしカロリー調整を行い。毎夕、インシュリンを投与する。また、毎晩2kmのジョギングです。勿論、自分の休日もです。何故なら、糖尿病の場合、一歩、処置を誤れば生死に関わるから必死でした。
ある日、その女の子の体調が崩れました。その子の体調管理は、把握しているのに原因が分かりません。問いつめると、授業中に飴が回ってきたので貰って食べたとの事でした。その瞬間、その子は、自分の体調より友達との関係を選んだのです。 誰を責めれば良いのでしょう。勿論、本人を叱り、共に泣きましたが、病気故に友達との些細な関わりも制限されてしまう。そんな子どもの気持ちを分かりながらも親代わりとして厳しく接しなければいけない役割。きっと、この様なことが一番大変なのでしょうね。
この職業に就く前は、どちらかと言えば、聞き上手で自分から話すことは、苦手の方でした。しかし、児童指導員と言う職業は、子どもたちの前で話す機会が次から次へと現れます。最初は、事前に話す内容をまとめておき、それから子どもたちの前にでて、話すようにしていましたが、回数を重ねると慣れてきました。
また、常に話す材料を蓄積するように努力します。例えば、週刊少年ジャンプやコロコロコミックを読んだり、ニュースでもこれは、話題として良いなと言うのは、覚えとくようにしたりします。何事にも工夫が必要ですね。

Q.児童指導員の子育て意識は?

A. 子どもたちにとって、今現在の「我が家」は、児童養護施設です。しかし、そこで子育てをする職員の意識は、どうでしょう。職員にとって「我が家」ですか?
これは、意識の領域なので、各々の課題点になります。もし「我が家」だったら、湯垢まみれの洗面器や椅子を使いますか、お風呂の時、体を洗うタオルを持ってない子どもをどうしますか、埃まみれのトースターを使いますか、洗面所に石けんが無いとき、どうしますか、破れた網戸を放置しますか、無駄なつけっぱなしの電灯を無視しますか等々、日常生活の些細なことで「我が家」意識が如実に表れます。児童指導員の場合、「保育士が何も言わないから、なにもしないから」で終結していませんか。少なくとも勤務時間内は、職場を「我が家」と思い子どもたちと共に生活しましょう。

Q.私の気持ちが伝わらないのでは?

A. まだ独身時代、児童養護施設の子どもたちと関わる時、「例え、自分の子どもでも同じように叱るぞ」と言っていました。それは、その時の真実の想いであり、それは、現在でも貫き通しているつもりです。只、我が子に対しての方が感情的になりがちなので、その様な意味では、我が子の方がかわいそうかも知れませんね。
ちなみに同じ児童養護施設時代、風呂上がりの冷水シャワーを健康に良いのだからとやっていましたが、それも現在まで続けています。
つまり、ポリシーを持って子どもたちに伝えたことを自分自身が忘れずに継続できるかどうかは、とても大切なことですね。

Q.保育士にとって大切なことは?

A. 根本は「愛」ですが、それは、あまりに抽象的すぎるので、もう少し、具体的に表現すると、子どもたちに「生きるための常識」を伝えることでしょう。子どもたちは、いつかは、社会に旅立っていきます。一人でも生きていける力を与えることが保育士にとっての大切な役割でしょう。
では、「常識」とは、何でしょう。各々の感性で変化する捉え所のない言葉であります。だから、とても大切なのです。子どもたちが職員によって誤った常識を与えられると、それが、その後の人生に大きく影響するからです。
「玄関で靴を片づけましょう」「部屋を整理整頓しましょう」「朝から洗顔しましょう」「肘をついて食事しないようにしましょう」等々、日常生活の当たり前の常識は、ごろごろ転がっています。それらを習得していない子どもたちに習得するための手助けをしていくことが大切でしょう。
「子どもの部屋が乱雑だ」→「何度注意しても○○ちゃんが片づけていない」で終結していませんか。本当は、その後に「自分の支援不足だ。次は、この様に対応しよう」と展開していくことが重要なのです。
保育士業務のあり方は、子どもたちの人生を左右するほどの影響力があると言っても過言ではないでしょう。だからこそ、プロ意識が必要ですね。

Q.子どもと信頼関係が築けたと思われる時は?

A. 「子どもとの信頼関係が築けたと思われる時」それは、自分が子どもを信じられた時です。まず、自分自身が子どもを信じられなければ、信頼関係は成立しません。しかし、現実は、裏切られる事の方が多いでしょう。「信じる」→「裏切られる」この繰り返しが子育ての醍醐味と言えるかも知れません。また、このことがあるから、この仕事への意欲と責任が生じているのです。
裏切られることを覚悟で、子どもを信じましょう。信じ続けましょう。それが、信頼関係へのスタート地点です。

Q.何か希望に繋がるようなエピソードはありませんか。

A.北風の吹く寒い日の朝、男の子の兄弟二人が門の付近で遊んでいます。
お昼もそこにいます。夕方もそこにいました。
母が、電話で「○月○日、面会に行くからね。」と約束していたからです。
私は、母に「確実でない約束はしないように」と注意を促します。
それでも、母は、子どもから「今度いつ会いにくるの」と問いかけられると、ついつい、約束をしてしまいます。
子どもたちは、裏切られることを信じていません。いや、信じたくないのでしょう。
約束の日、朝から夕方まで門の所にいます。母は、その日も来ませんでした。
この兄弟は、何度も何度も母に裏切られましたがそれでも、母を信じ続けました。
それから、3年後、母に引き取られていきました。

子どもたちと一緒に生きている大人は、子どもたちに裏切られ続けることが役目です。
子どもが悪いことをしたとき、「もう同じ過ちは繰り返すなよ」と時には、叱り、時には、情けなくて共に泣き、時には、時間を掛けて話をし、時には、無言で一緒に座っている、それでも、また、次の過ちを犯してしまいます。大人は、信じ続けるしか方法がありません。「もう、同じ過ちは繰り返さないね。信じているよ。」大人が子どもを信じなくなったら、それで終わりです。だから信じ続けるしかありません。
ある子どもが、園を旅立っていくとき、言いました。
「○○さんは、あの時、俺を本気で叱ってくれた。その時は、腹が立ったが、俺の事で本気になってくれたことを今では、感謝している。」
大人の一途な気持ち、いつかは報われることもあります。

Q.管理栄養士の役割は?

A. 人生の楽しみで大きな割合を占めるのが「食べる」ことでしょう。また、原始時代から延々と受け継がれた、最もポピュラーなコミュニケーションの場でもあります。
「美味しい食事」「栄養バランスの摂れた食事」「様々な食材の名前を知る」「食べたことのないメニュー」「豪華な食事」「質素な食事」「非常食」「不味い食事」等々、食事を通して経験することは、たくさんあります。それらの経験を子どもたちに提供するのが、管理栄養士であり調理員でしょう。
管理栄養は、子どもたちの食生活は勿論のこと健康管理面もコントロールできます。そう言う意味では、とても大切な役割を担っていることになります。
だからこそ、自分の立てた献立を子どもたちがどんな心持ちで食べているのか、時々、確認することも大切ですね。

Q.私はここの施設の入所を希望しています。虐待ではありません。でも、できるだけ早くそちらに入所したいと思います。都合のいいときにでもお返事ください。

A.まず、聖母愛児園を選んでくれてありがとうございます。
さて、聖母愛児園への入所希望ですが、福祉の仕組みで児童養護施設が直接、お受け入れすることは出来ないことになっています。ですから、お近くの児童相談所に、まず電話で相談してください。勿論、直接、相談に行っても大丈夫です。児童相談所のケースワーカーさんが、話を聞いてくれますので、ありのままを相談すれば、何か解決策を導き出してくれると思います。
どの様な事情があるのか分かりませんが、出来る限り早めに児童相談所に相談してくださいね。

■ 一寸、考えてみよう!

Q.子どもたちは、不幸、可哀想、辛い思いをしている?

A.そうではありません。
日本全国の子どもたち、誰もが児童養護施設で生活する可能性を秘めています。
例えば、両親が不慮の事故でお亡くなりになったとき、母子家庭で、経済的に立ちゆかなくなったとき、親の離婚、借金、ギャンブル等で養育不可能になったとき等、人生、何が起こるか、誰も未来を予測することは出来ないからです。
現在、児童養護施設で生活している子どもたちは、様々な理由から、たまたま、人生の一部の時間を児童養護施設で過ごしているだけなのです。
ですから、子どもたちは、一人一人、特別な存在ですが、それは、全ての子どもたちに言えることであり、児童養護施設の子どもたちが更に特別と言うことではありません。極めて、普通の子どもたちです。

Q.子どもたちに何か、問題がある?

A.この問いは、よく聞くフレーズですが、もの凄い勘違いです。
「子どもに問題がある」と言う視点は、子ども側に原因があると責任転嫁をしています。
原因は、全て、子どもを取り巻く環境、つまりは、大人達にあります。
問題があるとすれば、それは、大人にあるのであって、子どもたちにはないのです。
子どもたちの引きこもり、社会不適応、不良行為、暴力、性犯罪等々、様々な非社会的、反社会的行動は、その子が育つ環境によってに引き起こされる場合が多く、事件を起こした少年・少女達も、違う環境で育っていたら、違った人生になっただろうと容易に予測できます。

Q.幼児がトイレではなく、家の中でおしっこをします。何度、注意しても繰り返します。どうしたら良いですか?

A.「トイレ以外でおしっこをする」と言う事象に対しては、善悪の区別を教育するために「叱る」事は、必要です。但し、それで終わっては、専門性がありません。まず、おしっこをする原因を探ります。その原因が、
①精神的な疾患なのか?
②自閉的傾向のこだわりなのか?
③甘えの表現なのか?
①の場合は、勿論、医師の診断が必要になりますので、診療を受ける段取りをとります。 ②の場合は、自閉症の専門書は、たくさんありますので、専門書を幾つか調べ、対応策を導き出していきます。そして、取り組みを行い、それでも改善が見込めない場合は、心療内科等への診療を試みます。
③の場合は、職員がチームとして、対応策を構築していきます。担当者だけでは、解決できない場合が殆どだからです。基本的信頼関係が未成熟の場合、甘えの表現が偏ってしまう場合が多々あり、基本的信頼関係の修復をどの様な形で行っていくのか、ディスカッションしていくことが専門家として求められます。ディスカッションでは、ブレーンストーミング、KJ法、福祉QC的手法等を用いれば良いでしょう。
チームとしての対応とは、例えば、叱る人とフォローする人(担当者がベスト)の役割分担を行う事等が挙げられます。

Q.予算はどの様にして作成するのですか?

A.予算作成にあたっては、
①収入予測を立てる
措置費収入、法外費収入、寄付金収入等の予測を行います。特に、民間給与改善費については、職員の平均勤続年数によって、その比率が決定されますので、それも事前に予測して計算します。また、宿舎利用料収入等、その他の収入も予測します。
②支出予測を立てる
年間給与支出の計算を行ったり、学費支出、業務委託費や損害保険料等の支出を計算します。また、現場に最も関わりのある事業費支出を予算化していきます。子どもたちに直接関わりある費用です。
③収支予測分析
全ての数字が揃ったら、資金収支予測分析を行い、もう一度、全ての数字を見直します。そのチェックが完了し、資金収支当初予算書の完成となります。

Q.児童養護施設で里親希望の受付をしてもらえますか。

A.児童養護施設は、国からの措置費(税金)支弁によって運営されています。措置権者が都道府県知事又は政令指定都市の場合は、市長となります。施設長は、親権者代行の役割となるわけです。
つまり、児童養護施設には、里親に出したり、養子縁組に出したりする権限はなく、措置委託を受けている状況なのです。
もし、里親や養子縁組の話がある場合は、児童相談所が窓口となり調整をします。
従って、児童養護施設は、受け身の状態になるのですが、里親や養子縁組の話が舞い込んでくることは、極々希なことでしょう。
さて、日本に於いて、里親制度は、その制度が存在していることを知らない人の方が多いくらいです。
ましてや、養子縁組ともなると、どの様な手続きが必要なのかを理解している人は、もの凄く限られた人々でしょう。
昭和30年代頃までは、里親、精神里親、養子縁組等も、結構あったようですが、平成の現代に於いては、沈静化しています。
①両親共にいない子どもが殆どいなくなったこと。
②費用等が掛かる場合、人身売買と勘違いされる。
③遺産等で財産がある場合、後見人制度が活用される。(良い面)
④養育費用の援助体制が貧弱であること。
⑤家の間取りに余裕のある家庭が少ないこと。
等々が挙げられますが、時は、平成の世になっても、昔ながらの「家」「血」の感覚は、残っているようで、自分の「家」に、他人を入れると言うことに抵抗を感じる人がいるのではないでしょうか。

Q.42歳になる離婚経験有りの会社員です。現在は、4LDKの一戸建てを購入し、実母と二人で暮らしています。養子縁組は可能でしょうか。

A.里親について、または里親になりたい、養子縁組などの相談は、児童相談所が受け付けています。
どちらの自治体の方か、分かりませんのでご自分の自治体の児童相談所を電話帳やインターネットでお探し下さい。
相談をされたら適切な回答を得られると思いますが、民法上、養親となるには、25歳以上の配偶者のある者(夫婦の一方が25歳以上であれば、他方は20歳以上でよい)で、夫婦ともに養親となることが必要である(第817条の3、第817条の4)。となっていますので、今回のケースは、大変困難な状況と考えられます。とにかく、一度、専門の相談機関(児童相談所)に問い合わせしてください。

Q.ボランティアに興味があります。何か出来ることはないでしょうか。

A.現在の聖母愛児園でのボランティア活動の現状については、多数のボランティアの皆様が活動しています。
例えば、美容師さんが、子どもたちの散髪をなさったり、書道の先生が書道を教えていただいたり、学生さんが家庭教師をされたりなどなどです。
最近のボランティアお受け入れ状況は、建物の改築工事が始まっていることもあり、現在、お受け入れを控えさせていただいています。
さて、昔々の「ボランティア」は「奉仕の精神」と言う精神的な部分を重視していたと思いますが、阪神大震災以降は、「自分の能力を提供しよう」との方向へ移行してきているような印象を受けます。阪神大震災時、若者たちが阪神地区に駆けつけ、自分のできることを探し、兎にも角にも体を動かしていました。その若者たちの姿を見て感じたのが、「奉仕」ではなく「自分の力を使おう」との純粋な想いでした。
NPO団体についても、活動の初めから順風満帆にスタートするわけではないでしょう。たくさんたくさん啓発活動を行って、少しずつ認められていっているのです。
児童虐待やDVなど負の状況が社会の課題として浮き彫りになってきている昨今、制度的にも少しずつ進化をしていますが、制度は社会の動きになかなか追いつかないものです。
そこで、即戦力として課題に向かえるのは「ボランティア」ではないでしょうか。次第に混沌化していく日本社会、それを正常化に向けていくのは、他ならぬ「ボランティア」の純粋な力でしょうね。
自分に何が出来るのか、相手は、何を求めているのだろうか。などを自分なりに、調べてみては、如何でしょうか。
インターネット上には、様々な福祉施設が調べられますし、たくさんのボランティア団体も存在します。そこには、掲示板もあることでしょう。掲示板に書き込むことによって適切な回答や助言を受けることもあります。
是非、福祉への理解を深め、ボランティア活動されることを期待しています。

■ 事例研究です。

事例の概要
ここでは、母子家庭の子どもに現れた課題状況が、母親の複雑な心理と関連し、また母親へのアプローチが保育所機能の発展につながった事例を取り上げます。 最初に課題になったのは、五歳になる長男太郎の保育所での不適応であった。太郎は一般的な家庭に生まれ母は専業主婦であり一人太郎の育児を担っていた。父親は毎晩飲み歩いて遅く帰宅し、母親との会話もほどほどに寝床についていた。休日は接待ゴルフに、飲みにという状態で、太郎に関心を向けなかった。それどころか酒に酔い、小さい太郎に説教をしたり時には体罰を加えていた。父親のそのような態度に絶えかね、太郎の両親は三歳のとき離婚をした。以後、太郎と母はアパートに転居し、二人暮らしをしている。母は就労し、太郎は昼間保育所にあずけられることになる。
太郎は保育所へは通うが、送りの母親を後追いし、泣きすがる。保育士と母が時間をかけてなだめることでようやく園に入る毎日。保育所内での生活はおどおどして落ち着きがなく、活動に熱中できない。また他の子に近よらず、集団活動を嫌がるようで、同年齢の子どもからも孤立している。しかし、保育者には依存的で、独占しようとするので、周りの子どもたちから反感をかう。さらに、突然、「ママ、ママ」と呼び出したり、「おうちに帰りたい」と泣き出したりする。その度に、保育士は太郎とかかわることになり、集団への配慮が届かなくなる。
というものです。この課題点と、解決策について教えていただきたいです。

アドバイス
今回の事例では特に対人関係が大きなチェックポイントになっています。
大体1歳から1歳半を乳児期と仮定した場合、この事例では、殆ど母親が一人で子育てをしています。従って、基本的信頼関係の形成を損ねる要因は少なかったと予測できます。しかし、父親がこの時期に於いても酒癖が悪く、それを母親に向けていたのであれば、母乳を与える母親が情緒的に不安定になり、それが子どもに影響を与えることは避けられなかったことでしょう。
1歳半から3歳位を幼児前期と仮定した場合、発達的には、絶対的信頼を寄せる母親から、父親へと対人関係を拡げていきます。また、トイレットトレーニング等を通して、自律性を育んでいくことでしょう。そして、話すことも始まり、意志を表現する中で、疑惑や恥を感じ取っていきます。この事例では、この時期に父親からの虐待が表面化していますので、発達段階で最も阻害を受けた時期となります。
従って、事例のお子さんは、対人関係を拡げていくことに対して、まだまだ学習不足の状態と言えます。
母親へと視点を変えると、子育て技術を助言してくれる存在があったのかどうかが不明確です。本来、子育ては、母親一人が担うのではなく、家族や近所の人たちが共に担っていくものでした。しかし、現代社会に於いて核家族化が進み、まだ子育て技術が未熟な母親達が一人で担っていく状況にあります。この事例の場合も一番身近な支援者である父親が支援を放棄している状況では、母親の精神的プレッシャーが増大するばかりであり、育児ノイローゼーも顕著に現れたことでしょう。それをケアする存在があったのかどうかも大きなチェックポイントです。母親が情緒的に不安定な状態になれば、それは、子どもに直通で影響してしまいます。
虐待は、子どもの発達に大きな影響を与えることは間違いない事実です。本来であれば、虐待の要因を修復していく作業が必要なのですが、この事例の場合、離婚を通して虐待の要因を切り離す選択をしています。これはこれで当然の結果でしょう。しかし、虐待によって阻害された発達段階や心の傷は、癒す或いは修復していくことが重要です。
今回の事例のお子さんは、何を表現しているのでしょう。まず、そこから捉えていくことが大切です。絶対的な信頼を寄せる母親から離される「不安」、100%自分を守ってくれる人たちなのか「不信」、何故、母親と離れなければいけないのか「疑惑」、これらの思いが幼い心の中で複雑に絡み合い、とても苦しい状況にあり、様々な行動特性を表現していることでしょう。
これを解決してあげることは、とても、根気のいる作業であり時間を要することです。
①母親と過ごす時間を通して、発達段階における自律性を育て、自発性へと発展させていく取り組みを行う。これは、一人遊びをさせていくことも大切なのです。しかし、TVに任せてはいけません。ままごとの道具とか積み木とか、お絵描きの道具とか、子ども自身が想像力を働かせて遊べ、その上、手先を使うような玩具が最も効果的なのです。
②保育園へ迎えに行く時間を絶対に厳守する。これは、子どもに目標を与えることに繋がります。しかし、特に遅れて迎えに行った場合、裏切り感に繋がります。
③母親と保育者が信頼関係を持つ。絶対的信頼の母親が信頼している人であれば子どもも安心して、その人に自分を委ねることが出来ることでしょう。
④保育者は、母親の相談相手になること。日々の業務の中で特定の保護者と関わる時間は、少ないことでしょう。それでも子どもを迎えに来られたとき、5分間だけでも世間話をしたりすることが大切でしょう。

この様な事例は、現代社会に於いて、特に珍しくない事例と言えます。しかし、絶対的な解答は存在しません。ケース・バイ・ケースなのです。従って、今回は、解答ではなく、一つの方向性を助言したに過ぎません。この助言から、どのような見解を導き出していくかが重要でしょう。乳幼児期における発達心理の本を読んだり、母子手帳を調べたり等、自分なりに学びを拡げていきましょう。

■ Q&Aです。(夢を追いかけて…)

Q. 虐待された子供や親のない子を助けたいと思います。でも資格が何もなく学校に行くにも親に迷惑がかかり行けません。やっぱり資格は絶対に必要なのでしょうか?まわりから資格がなくても働いてる子がいると聞くのですが・・・

A. 結論は、資格が必要です。
様々な個性や特性を持った子どもたちが混在している現在、その子どもたちと関わる職員には、最低限の専門的知識が求められます。それは、子どもたちへの理解に繋がるからです。
「虐待された子供や親のない子を助けたいと思います。」と表現されていますが、あなたは、そんな子どもたちの事を理解できますか?
子どもたちは、各々の環境で様々な体験を重ね、そして、個性や特性を現しています。それは、多種多様であり、全ての子どもたちを理解することは、不可能なのです。それを補うのが専門的知識になるわけです。
「学校に行くにも親に迷惑がかかり行けません。」
世の中には、困難を自分の努力で克服し、夢を実現した人々は、たくさんいます。知り合いの一人は、「高校を卒業し独立し、自力で生活し2部の学校に通いました。朝食と夕食は食パン1枚づつ、昼食抜きで、一週間に2度、学食で160円のカレーを食べるのが大きな楽しみだったことも、今では、良い思い出になっています。」と語っていました。
福祉の仕事をしたいと願っているのは、親ですか、それともあなたですか、自分の夢は自分で勝ち取ってください。自分の夢に対して、親の援助を受けようとする姿勢は、只の甘えでしかありません。
一寸厳しいコメントになりましたが、子どもたちは、生きています。そんな子どもたちに生半可な気持ちで向き合って欲しくないのです。誠心誠意子どもたちに向き合うためには、まず、自分も努力を惜しまないない姿勢が必要ですね。
「まわりから資格がなくても働いてる子がいると聞くのですが・・・」
情報の真意がわかりません。基本的に、無資格者を雇用していると、都道府県の指導監査の指摘事項として挙げられます。
例えば、あなたは、無免許のお医者さんに出会ったことがありますか、児童福祉施設は、福祉の専門機関であり、そこで働く職員は、専門家です。そして、それを証明するのが、資格であり免許であるのです。私の知り合いの一人は、30歳まで一般企業で働き、その後、福祉の専門大学に入学し、卒業し、社会福祉士の資格をとり、現在、福祉で働いています。
まだまだ若いあなたは、充分自分の夢を追いかけることができると思います。「虐待された子供や親のない子を助けたいと思います。」それが、本当に自分の夢なのか、熟慮し、自分の方向性を導き出して下さい。そして、自分自身で決めたら、夢に向かって困難な道のりを乗り切って下さいね。

Q.児童福祉施設を設立したいのですが、どのような手続きが必要ですか。

A.①法人を設立する。②児童養護施設を設置認可させる。③児童養護施設の運営が軌道に乗ったら小規模児童養護施設や分園型自活訓練事業への申請を行う。と言うことで、数年がかりのプロジェクトになります。  県と交渉するためには、これから行う事業の「必要性」「有効性」についてのレポートが最低限必要でしょう。その為には、様々な調査が必要です。 ①都道府県(地元)の児童数 ②児童養護施設の数と措置状況。定員が満たされているのか、暫定定員の児童養護施設がないのか等。 ③児童相談所の相談件数とそれに対する処遇効果。本来は、児童養護施設への措置が適当なのに児童養護施設数が不足しているため、他の処遇をしているという件数の数値。 ④児童相談所から推薦状を書いて頂ければベストです。 ⑤市町村の家庭状況動静。保健婦や民生児童委員は現場の最前列で家庭状況を見ています。各市町村の福祉課や社会福祉協議会に郵送(勿論足を運ぶのが一番です。)でアンケート調査をし集計をする。 ⑥各都道府県の社会福祉協議会内の一組織として児童養護施設協議会がありますが、そちらへの打診。これは、現存する児童養護施設からすれば、新規に児童養護施設ができると言うことは、すなわち措置児童の取り合いが激化することになり、単純に運営上のライバルが増えると言うことですので、歓迎できない状況なのです。その心情的な部分をやわらげておく必要があります。  最低限、以上の調査や人間関係作りを行い、それを分厚いレポートとしてまとめ上げ、必要部数準備し、都道府県(地元)との交渉に臨むことが必要です。  次は、建物と言うことになりますが、大体、50名定員の建物を造るとなると、 ①建物本体 3億円~4億円 ②備品関係 3千万円~5千万円 ③申請書類等への収入印紙、競争入札等の準備、設計料、その他諸々の諸費用で 1000万円 ④建設準備委員として一人雇用するとなると、年俸契約で500万円(勿論、経験年数や能力等の査定が必要です。)  大まかではありますが、これくらいは、必要でしょうね。但し、国庫補助にしろ日本財団にしろ、補助をしてくれるのは、建物本体分だけです。 ①国庫補助の場合、プロジェクト費用総額の3/4を国と県が1/2づつ負担し、残り1/4が自己負担と言うことになります。 ②日本財団の場合、3/4を日本財団が無償で提供し、残り1/4が自己負担と言うことになります。但し、日本全国から膨大な量の申し込みがありますので、その中から選出されなければなりません。 ③さて、1/4の自己資金については、あれば良いのですが、ない場合は、福祉医療機構から借金をしたり等の工面が必要になります。  情緒障害児短期治療施設設立に向けては下記調査項目も必要でしょう。 ①調査項目に都道府県(地元)の不登校状況、被虐待児状況、情緒的不安定要素を持っている児童状況等が必要です。その為には、県義務教育課、教育センターや精神福祉センター等から情報を入手することが挙げられます。 ②建設予定地、地域住民への啓発。地域から建設反対の声が挙がってしまうと、プロジェクトはあっという間に頓挫してしまいます。 ③精神科医、心理療法士、看護婦等、児童養護施設にはない職種の人材確保が求められます。 ④公教育を保証していくために、県義務教育課や町の教育委員会と調整をしていくことが大切です。 等々が挙げられます。  プロジェクトを達成するためには、土地や資金は、勿論のことですが、交渉力や書類作成能力、判断力、想像力、柔軟性、忍耐力等々の総合力が必要不可欠となります。その上で時間との勝負になるわけです。1年や2年で達成したらラッキーであり場合によっては数年かかる事を覚悟できるかどうか、資金が持つかどうかも、プロジェクトスタート時に見当しなければいけない重要事項でしょうね。