Q21.入所している子や卒園した人の、拒食や不眠といった悩みをどのように見てあげるのがいいかと尋ねられるのですが、施設の子供たちの心の悩みを、専門的に見て助言できる人が私の行っている施設には居ないので、先生方もどうしていいかわからなくて困っておられます。施設の先生が困ったとき、いつでも相談できるような所はないでしょうか。

A.家庭において、拒食や不眠で悩んでいる家族がいたとき、どうするでしょう。殆どの場合、専門家、つまり心療科等のクリニックに相談に行くことでしょう。施設は、如何に家庭に近づけていくかが大切なのです。それが、ノーマライゼーション的な考え方でしょうね。
 ところが、「心療科」「精神科」等の単語を聞くと拒否反応を示す家庭や児童養護施設があること、これも又、現実です。その様な場合は、児童相談所に相談することが出来ます。児童相談所には、常駐で心理療法士がいますし、精神科医も非常勤でおられる筈です。特に心理療法士の場合は、児童一人一人に担当者がおりますので、お問い合わせをすると良いでしょう。
 さて、よく聞く言葉に「関係機関との連携」と言うのがありますが、児童相談所(福祉)、学校(教育)との連携は勿論のこと、病院(医療)との連携も大切なのです。
 まず、児相との連携では、ケースワーカーを中心に連絡調整を行いますが、児童担当者は、児相の担当者を把握しており、何かあったら必ず連絡をし、時には、ケース検討会を児相にて持つこともあります。また、3ヶ月毎に自立支援まとめを提出していきます。
 学校との連携では、小学校とは月1回、中学校とは学期に1回の懇談会を定例化していきます。勿論、担当者を中心に常に学校教師との連絡調整を怠ることはありません。
 医療との連携では、児相の機能活用は勿論のこと、クリニック等を利用しているケースもあります。分からないことは、素直に専門家に助言を求める姿勢を大切にしています。
 但し、医療機関を利用する場合、保護者又は、それに代わる立場の方がいるご家庭には、ご説明し、ご理解を得るようにしておくことが必要です。

Q22.行動化(アクティングアウト)について教えて下さい。

A.行動化(アクティングアウト)を仮に動的行動化と静的行動化に分類すると、前者は、被虐待児・神経症レベル・自律神経系の問題等で現れ、泣き叫ぶ・壁叩き等の音を出す行為・自傷行為・過度の甘え表現・断りなしの外出(徘徊)・理不尽な言動等々が挙げられます。後者は、引きこもり、寡黙・緘黙、頭痛・腹痛等身体症状の訴え・昼夜逆転生活等々が挙げられます。双方に共通するのが自己指南性の未成熟であり、時には、気分のムラ(波)が目立つ場合も見られます。 
 特に前者の動的行動化は、職員の業務量或いは時間に大きく影響しています。この動的行動化については、時間や場面の法則性があれば先手の対応も可能ですが、些細な対人関係の不具合や我が儘によって発現する場合が殆どであり、時間帯に置いても夜間の発現率は高く、時には深夜まで対応に追われる場面も見られます。なぜなら、動的行動化に対して、決して、動的対応は行わず静的対応を行うからです。具体的には、静かに話す或いは説得する。隣に静かに座って静まるのを待つ。小さい子であれば、おんぶや抱っこをして、落ち着くのを待つ等々であります。

Q23.子どもが児童養護施設に入所したら、親が収入に応じてお金を納めていると聞きましたが本当ですか?

A.実は、質問内容に関しては、児童相談所の領域になります。
 この件に関しては、児童相談所としても守秘義務が生じ、児童福祉施設側には、よほどの事情が無い限り情報が流れてこないのが実情でしょう。
 また、児童福祉法より関連条項を抜粋します。
児童福祉法
第56条 第49条の2に規定する費用を国庫が支弁した場合においては、厚生労働大臣は、本人又はその扶養義務者から、都道府県知事の認定するその負担能力に応じ、その費用の全部又は一部を徴収することができる。
9 第1項から第3項まで又は第7項の規定により徴収される費用を、指定の期限内に納付しない者があるときは、第1項に規定する費用については国税の、第2項、第3項又は第6項に規定する費用については地方税の滞納処分の例により処分することができる。この場合における徴収金の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする。
第61条 児童相談所において、相談、調査及び判定に従事した者が、正当の理由なく、その職務上取り扱つたことについて知得した人の秘密を漏らしたときは、これを6箇月以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

Q24.児童養護施設に於ける子どもと保護者の係わりについて教えてください。

A.現代の児童養護施設では、血縁関係が0の児童は確かに減少傾向にあります。しかし、保護者の行方不明、虐待家庭分離等で、血縁関係があっても関わりがないに等しい児童は、存在します。その様な、特殊な環境を除くと殆どの場合、家族とのコンタクトは成立しています。但し、そのコンタクトの量的質的状況は、家族の愛の持ち方で左右されているのが現実です。時には、児童の財産管理が絡み、愛ではなく財産が目的で関わりを継続している例も数少ない事例として挙げられることでしょう。
 家庭復帰の為の措置解除も勿論あります。施設運営としては、児童が措置解除されると運営費に大きく響くので大変ですが、私どもの所では、家庭復帰可能な児童は、積極的にその旨、児童相談所に報告いたします。何故なら、児童は、社会の基本である家庭で育つのが一番だと思っているからです。
 行方不明だった実親が突然、所在が明らかになることがあります。それは、殆どの場合は、親自らが姿を現すのですが、時には、追跡調査によって判明することもあります。まず、親に子どもと会う気持ちがあるかどうか意思確認をし、その次ぎに、子ども本人に、会う気持ちがあるかどうかの意思確認をします。双方の意志が合致したとき、面会の段取りへと進めます。この様な事例も児童養護施設の現場では、希ではありますが、あることも事実です。
 私は、高校生に「児童養護施設から社会に出て行く君たちは、不利な状況にあります。まず、保護者の庇護がないため、社員寮のある会社を選択しなければいけないため就職戦線においての選択肢が狭まってしまいます。社会で起きる様々な困難に対して、一人で乗り切っていかなければなりません。」など、現実的な話しをあえてします。それは、社会に旅立ったとき、自分の人生を自ら切り開いて欲しいとの期待があるからです。劣等感や喪失感などの(ー)要因を(+)思考へと転換するきっかけを施設職員は、提供する必要があるのです。
 制度が未成熟だから、子どもたちは、不幸な目にあっているのではとの短絡的な見方は、非常に危険です。こどもたちは、今、そこに生きているのです。要は、その子供たちを育んでいる環境に、子供たちを愛している大人達がどれだけいて、どれだけ愛を与えているかに架かっています。

Q25.こどもたちにとって必要なことは何ですか。

A.こどもたちにとって一番必要なことは「愛」です。大人達がどれだけこどもたちを愛し、愛を注げるかが大切なのです。その事を通して、こどもたちは大人達を信じることができ、心や情緒の安定へと繋がっていくのです。
 支援者の意識の持ち方として、英語のラブからギリシャ語のアガペーへと昇華出来れば最高です。ちなみにアガペーとは、「無条件の無私の愛」「与えつづける愛」「見返りを求めない愛」などと解釈できると思います。これは、仏教で言う「慈愛」と共通するものがあります。 自分の意志や思いを発言する力を育むことは、とても大切なことです。受動的ではなく能動的に自分の立場や生き方を構築していくことが求められます。それが、可能となるようチャンスを与えていくことが大人達の役割でしょうね。

Q26.虐待が本当に行われたか調査、情報収集する仕事に興味があります。子供たちが児童養護施設に来る前の過程で行うことだと思うのですが、もしご存知でしたらお教えいただけないでしょうか。何という職種なのかもわかりません。 ソーシャルワーカーの仕事の一部なのでしょうか?

A.虐待が本当に行われたか調査、情報収集する仕事として、法的に認められている上、給料が支給されるのは、管理人の知る限り、児童相談所職員が、それに該当すると思われます。
 児童相談所の概要は以下の通りです。
業務内容:相談、措置部門、判定指導部門、一時保護部門、総務部門
主な職種:児童福祉司、相談員、査察指導員、書記、心理判定員、セラピスト、医師、保健婦(士)、脳波検査技師、理学療法士(PT)、栄養士、事務職員
就職採用:通常は、公務員の一般行政職として採用されたのちに配属されるか、定期異動によって配置が決まります。
 また、関連法を参考までに抜粋いたします。
児童虐待の防止等に関する法律
(立入調査等)
第九条 都道府県知事は、児童虐待が行われているおそれがあると認めるときは、児童委員又は児童の福祉に関する事務に従事する職員をして、児童の住所又は居所に立ち入り、必要な調査又は質問をさせることができる。この場合においては、その身分を証明する証票を携帯させなければならない。
2 前項の規定による児童委員又は児童の福祉に関する事務に従事する職員の立入り及び調査又は質問は、児童福祉法第二十九条の規定による児童委員又は児童の福祉に関する事務に従事する吏員の立入り及び調査又は質問とみなして、同法第六十二条第一号の規定を適用する。
児童福祉法
第29条 都道府県知事は、前条の規定による措置をとるため、必要があると認めるときは、児童委員又は児童の福祉に関する事務に従事する吏員をして、児童の住所若しくは居所又は児童の従業する場所に立ち入り、必要な調査又は質問をさせることができる。この場合においては、その身分を証明する証票を携帯させなければならない。
第62条 次の各号のいずれかに該当する者は、20万円以下の罰金に処する。
1.正当の理由がないのに、第29条の規定による児童委員若しくは児童の福祉に関する事務に従事する吏員の職務の執行を拒み、妨け、若しくは忌避し、又はその質問に対して答弁をせず、若しくは虚偽の答弁をし、又は児童に答弁をさせず、若しくは虚偽の答弁をさせた者

Q27.日本の社会において公に定義されている「暴力」があるのでしょうか?

A.日本の社会において公に定義されている「暴力」としては、「日本国憲法、第3章 国民の権利及び義務」に反する行為が、それに当たると思います。そして、そこから派生する各種法律によって、公に具体的に定義されているわけです。
 と言うのが一般的な回答です。管理人としては、物理的・精神的に対象を傷つける行為が暴力と思います。対象とは、人は、勿論のこと、動植物や物質全般が含まれ、勿論、自傷行為も暴力の事象の一つと捉えています。しかし、こどもたちに、小難しい話をしても理解や解釈の相違で誤解曲解を招きがちですので、「人が人を傷つけない」「自分がされて嫌なことは他人にしない」と言うことを常に伝えています。勿論、物を大切にすることや動植物を大切にすることも日常生活の中で伝えるよう心がけています。
 「暴力」…これは、「言葉」或いは「表現」と表した方が適切でしょうか?しかし、人間の行動や心の中を全て表現することは困難でしょう。ましてや、意識や自我、超自我など深層心理の領域を表現することは、更に困難でしょう。だから学問として「哲学」が存在するのではないでしょうか?「何故、人を殺してはいけないのか?」この問いかけに対して、様々な人々が回答を表現していますが、絶対的納得を得られないのが、現実なのです。つまり、数学や物理の様に「定義づけ」出来ない。これこそが人間の営みなのではないでしょうか。それを無理矢理定義づけようとしているのが「倫理観」でしょう。管理人は、職員育成の中で職員達に伝えていることの一つに「感覚を身につけましょう」と言うのがあります。こどもたちと生活をする中で「言葉」では「表現」出来ない事象が次から次へと舞い込んできます。その時、必要なことは「研ぎ澄まされた感覚」なのです。この様に書くと、とても難しく感じますが、要は、自然体でこどもたちと接することが重要なのです。「暴力」と比例する言葉として「善悪の区別」も挙げられますし、「何が善くて何が悪いのか」これについても、きっと絶対的納得を得られる回答は、なかなか得られないことでしょうね。それでも、管理人は、いつも「美しきこと善きこと」を求めて生きています。人間の営みは「摩訶不思議」、だから人生は面白いのではないでしょうか。
 数学や物理の定義は、唯一の答えを導き出す早道になりますが、人間の営みの一つ一つを定義付けると言うことになると、そこには絶対的な答えはなく、只、統計学的な「定義」が導き出されるだけではないでしょうか。「これは暴力だ」と「表現する人が多い」から「それは暴力なんだ」、正に民主主義の構図そのものです。「定義」そこには危険性が隠されていることも充分認識した上で、勉学を進めて下さいね。

Q28.卒論目的のアンケートなどは一般的になかなか実施できないのが現状なのでしょうか?

A.アンケートに対する回答協力は、施設によって方針が違うと思います。しかし、依頼する側は、以下の点を配慮するべきでしょう。
①こどもの人権について考えること。自分の知らない内に自分の情報が自分の知らない人に渡ると言う不快感。子どもたちの施設での生活そのものが子どもたちにとってプライバシー情報なのです。
②施設職員の業務負担に繋がらないか。職員は、子どもたちへの支援に集中すべきであって、それを1次的仕事とすると、書類作成や環境整備等々が2次的仕事になります。そして、アンケート回答等は、3次的仕事となります。
③誠意を持って、依頼する。誠意とは定義づけられるものではありません。如何に相手に誠意として伝わるかが大切なのです。
 従って、国内とか海外とかの範疇のレベルではなく、アンケート調査を実施する側のポリシーとモラルが問われるわけです。
 この様な事例があります。某大学の学生さんが職員へのアンケート調査を実施したいとの申し出をしてきました。その目的や調査結果をどう生かすのかが不鮮明であり、正式な依頼書もなかったためお断り申し上げました。次は、正式な依頼書を持って担当講師と一緒に更に依頼に来られました。依頼書の内容がアピール度が低く、論文の進捗状況も簡略すぎていたため、お断りしました。この学生さんは、諦めないで、更に改訂依頼書と論文の進捗状況を丁寧に書き直し、その上、調査の主題とその結果から何を学びたいのかの調査趣旨を明確にまとめたものを持って来られました。勿論、快く調査を承諾し、回答職員に学生さんの誠意を伝え、記入協力をお願いしました。調査対象が児童ではなく職員の児童支援に対しての内容であったことも付記します。
 兎に角、一番大切なことは、①に対しての配慮なのです。「卒論制作のために調査したい」と言う安易な調査依頼は避けて下さい。子どもたちには、人権があり人格があります。そのことを充分に念頭に置いて、調査依頼をして下さいね。
 2週間から1ヶ月程度、短期集中型のボランティア活動を申し出たら如何でしょう。施設内の雑用(環境整備等)や職員業務補助などなど、どこの施設でも人手は欲しいくらいだと思いますよ。ボランティア活動を通して、職員さんとのコミュニケーションをとりながら情報収集していくのがベストだと思います。そうすることによって、職員さんたちも親近感や信頼感を覚え、「この人にだったら情報を伝えてもいいな」と言う気持ちになったらチャンスです。その時初めて、生の本音の情報を得ることができるでしょうね。特にケース資料等は、確実に信用できる方にしか開示しませんので。と言うことで、一過性のアンケート調査では得ることが不可能な飾らない生の情報を得るには、そこの施設の役に立つ働きかけを行うことが一番の早道でしょうね。

Q29.昭和22年の児童福祉法の改正で孤児院が養護施設に変わったと聞きましたが,(児童)福祉の世界から「孤児」ということばもこの時から消えたのでしょうか。

A.広辞苑によると
孤児…両親を失った幼児。身寄りのない子。
*中国残留孤児、戦災孤児など、幼少期に肉親と死別したり行方がわからなくなった場合に使用されることが多い。ただ、現在でも発展途上国の児童福祉施設を孤児院と表現されていることも事実である。
遺児…親の死後に遺った子。忘れ形見。
*交通遺児が代表的な使い方であろう。この言葉には、年齢的な制約がなく、中高生に対しても表現できると言うメリットがあり現代社会では、孤児より遺児を使用することが多いような印象である。
 児童福祉の世界から「孤児」と言う単語が消えたわけではないでしょう。阪神大震災の復興支援の中でも「震災による遺児や孤児をケアします。」などの表現がありましたので、只、管理人の中では、死語の部類に入ります。現代社会の児童養護施設では、両親も親類縁者もいない天涯孤独な児童は少なくなっている傾向にあり「孤児」と言う表現を使う機会も殆どなく、何よりも使うメリットがどこにも見当たらないからです。

Q30.「韓国孤児への支援プログラムについての研究」(仮題)に取り組んでいます。現場ではどういうケアが必要なのかを韓国の特殊性を加味しながら考えていこうとしています。

A.1988年当時は、牛乳パックに子どもの写真を掲載し、家族の行方を捜すという米国譲りのシステムを取り入れていました。(まだ、棄児も社会問題になっていました。)また、国際養子縁組(児童売買の要素も残留していた)システムも健在でした。是非、その様な過去も調査分析されたらどうでしょうか?

Q31.児童養護施設で勤めたいと真剣に考えています。しかし、どのような就職活動をしたらいいのかわからず悩んでいます。

A.夢を追いかけることは大切なことです。私も昼間はアルバイトをしながら夜、学校に行き、食パン2枚が一日の食事と言う過酷な生活を学生時代していましたが、児童福祉の仕事に就きたいとの夢を追いかけていましたので、耐えることができました。お陰で、年中脚気の状態でした。只、どんなに苦しい生活でも、日本茶だけは、100g1000円の物を買って飲んでいました。それは、気持ちまで貧しくなりたくなかったからです。
 さて、就職活動ですが、
①福祉人材バンクに登録する。これは、県社会福祉協議会の一部門としてあります。
②学校の就職課から常に情報を収集する。
③児童福祉施設に見学に行き、施設長さんに履歴書を渡しておく。
④コネクションが、もしあれば、利用する。
 児童福祉施設の場合、就職活動は難しい状況にあります。それは、雇用する側もぎりぎりまで、職員の補充が必要になるかどうかわからないからです。就業規則で、退職願は、1ヶ月前までに提出すればよいことになっている事業所が多く、補充の有無が明確になるのは、3月になるからです。また、男性の離職率は女性のそれと比べて低く、更に狭き門となります。また、年度途中で急に退職する職員がでると、その時点で求人を行いますので、就職のチャンスが何月に出てくるのか予測がつきません。そういう意味では、運も大切な要素なのです。
 ④は、認めていないところが増えています。しかし、特に、地方都市の児童福祉施設では、まだまだ、コネクション(こね)による採用は、根強く残っています。
 条件として、現在では、社会福祉士の資格所得を履歴書に記載した方が、少しでも採用の確率は高くなるでしょうね。また、普通自動車免許も必要でしょう。採用とは、人材が足らなくなったから行うもので、職場としては、少しでも早く即戦力になってくれるよう望むわけです。児童の通院等で自動車免許が即、業務として必要になるわけです。
 夢(目標)を追い続けてください。くじけたり躓いても立ち上がり、追い続ける根性が必要です。そして、その根性の根となるのが、子どもたちへの愛です。愛がなければ、児童福祉で働く資格はないといっても良いでしょう。
 安月給で、労働時間もファジイで自分の青春を子どもたちに捧げるくらいの覚悟が必要です。また、短気では勤まりません、個性の一つとして、人をイライラさせるフェロモンを出している子どもがいることも事実です。短気では、施設内虐待へと繋がってしまいます。そう言った意味では、人間修養も大切です。

Q32.乳児院から児童養護施設に措置変更されたお子さんを受け入れる時、気をつけていることはありますか?

A. 乳児院からの措置変更で児童養護施設に入所した児童は、愛着の持って行き場に混乱し、様々な行動パターンを表すことが多い。それは、大人との信頼関係や新しい場面への耐性が、まだ未成熟であるが故の混乱であろう。
 そのため、先輩担当保育士の皆さんは、入所してから暫くの間、長いときには何ヶ月も自分との信頼関係構築の為に、休みの日も一緒に過ごす等の取り組みを行って来られています。ここには、就業時間を超えた、愛情或いは児童福祉への意欲・責任感・使命感等が裏打ちされていることでしょう。
 さて、子どもたちの柔軟性は、大人の予測を遙かに超えています。「ついこの間までくっついていたのに、今では目を離すと何をしでかしているか分からないわ。」と、いつの間にか、興味・冒険心等が芽生えてきている子どもたちの姿に遭遇します。また、信頼関係も副担当保育士や年長の子どもたちへと拡がっていきます。
 その様な子どもたちの成長による変化予測を考慮に入れながら、児童支援計画を立て、目標に向かって段階的に子育て支援を進めていくことが大切です。
 子どもの情況に振り回されるのではなく、如何に子どもたちがよりよい成長を遂げられるかを念頭に置き、時には、大人がコントロールし、時には、子どもの自由表現を認めながら子育てを進めていきましょう。
 子どもは、何故泣くのか?簡単です。不快だから泣くのです。その「不快」の原因を共感し、時には取り除き、時には耐えさせるなど、臨機応変の対応が求められます。
 気をつけなければいけないのは、「泣いている」→「大変だ、どうしましょう」→「とにかく、泣きやんで欲しい」→「泣いているから他のことは何も出来ない」、この様なパターンに陥らないようにすることでしょう。
 まずは、「今、あなたを(危険から)守っているのは、私なのよ」と子どもに分かってもらう働きかけが大切です。また、周囲の子どもたちの理解と協力も大切な要素の一つです。相乗効果によってホーム全体が「甘え表出状態」になると、生活が落ち着かなくなりますので、「新しい子は、とても不安なのよ。だから暫くは、例えば1ヶ月位は、みんなで新しい子を優しく見守っていきましょうね。この子が園の生活に慣れるまでは、みんなより少しお姉さんは多く関わると思うけれど、ちょっとだけ我慢してね。」など、一緒に生活をしているみんなが家族の一員として、新しい家族を迎え入れる優しい気持ちを引き出せるよう語りかけることも重要でしょうね。

Q33.小舎制の児童養護施設における保育士の働きを教えてください。

A.家庭的養護が小舎制の長所であり、保育士は母親の代替的役割を担っています。しかし、母親との役割の差異は明らかです。
①母親は、例えば、17歳の子どもの子育てをするにあたり、17年間の母親修行期間がある。つまり、子どもの成長と共に母親も成長していくのである。しかし、児童養護施設の保育士は、短期間で、2歳から18歳までの子育て技術を習得しなければいけない。それを「専門性」の一言で片づけられてしまう。
②現在の一般家庭での子育ては、1~3名程度であるが、小舎制では、約10名の子育てを常に担わなければならない。10名の居住スペースの掃除、10名の洗濯、1?名の食事作り、これだけでも大変な状況である。
③児童養護施設には、様々なタイプの子どもたちが入所してくる。それぞれの個性に応じて、ケース・バイ・ケースで専門性を持って対応しなければならない。「短気は損気」人間性の修養も求められる。
④社会福祉施設として、保健衛生管理を確実に行わなければならない。居住スペース、子どもの身体等、常に気を配らなければいけない項目はたくさんある。
⑤専門家として、各種記録を記載しなければならない。時には、事例発表等の機会も訪れる。また、研修会等の参加も求められる。
⑥各種行事の企画・実施、環境整備、関係機関との連携、地域との連携、学校との協調等、子育てに関わる間接的な関係も保たなければならない。
 ここまで、列記しただけでも、母親との役割負担の差異は明らかです。つまり、母親以上のことをやっているのが、小舎制の保育士なのです。

Q34.ボランティアっていう概念がない人にとって、子どもと遊ぶボランティアっていう事自体が理解できないようで。ボランティアってこんなに理解してもらえないことなんでしょうか?こんなに難しいことなんでしょうか・・・?

A.さて、昔々の「ボランティア」は「奉仕の精神」と言う精神的な部分を重視していたと思いますが、阪神大震災以降は、「自分の能力を提供しよう」との方向へ移行してきているような印象を受けるのは管理人だけでしょうか。当時、管理人は神戸で生活していて、阪神大震災当日は、第二子の出産予定日でした。(この時の状況を「生き方的生活」内の「誕生前」に記しています)阪神大震災時、若者たちが阪神地区に駆けつけ、自分のできることを探し、兎にも角にも体を動かしていました。その若者たちの姿を見て感じたのが、「奉仕」ではなく「自分の力を使おう」との純粋な想いでした。
 NPO団体についても、活動の初めから順風満帆にスタートするわけではないでしょう。たくさんたくさん啓発活動を行って、少しずつ認められていっているのです。
 自分のポリシーは、自分の存在の証です。そのことを自己覚知できれば、自ずと自分の歩むべき道が導きだせるでしょう。
 児童虐待やDVなど負の状況が社会の課題として浮き彫りになってきている昨今、制度的にも少しずつ進化をしていますが、制度は社会の動きになかなか追いつかないものです。そこで、即戦力として課題に向かえるのは「ボランティア」ではないでしょうか。次第に混沌化していく日本社会、それを正常化に向けていくのは、他ならぬ「ボランティア」の純粋な力でしょうね。
 「井の中の蛙大海を知らず」のことわざ通りにならないように見聞を広めることは、とても大切な姿勢です。それが視点の柔軟性や対応の応用力へと繋がっていきます。
 是非、様々な経験を、どんどんチャレンジしていってくださいね。また、素直に疑問を持つこと。これも大切なことです。疑問を持ってこそ解決していこうとの方向性が出てきます。それが、福祉の向上へと繋がっていくからです。常に疑問を持つ姿勢、時には理解し、時には反発を覚え、時には改革を目指す。それが、こどもたちへの利益に繋がれば最高のことですね。

Q35.児童養護施設で働きたいと考えてるのですが、保育士の資格とカウンセラーの資格っぽいのがあれば働くことができるのでしょうか?

A.「カウンセラーの資格っぽいのがあれば」が理解できません。心理療法士のこと?もし、心理療法士であれば、心理学系の大学に進学し、更に大学院へ進む必要があります。その上で、臨床心理士の資格受験をすることになりますので、一寸大変ですよ。就労としては、児童養護施設では、まだまだ非常勤雇用の形態が主流ですので、正職員を目指すのであれば、保育士が確実でしょう。
 保育士であれば、保育士資格が絶対必要です。もっと言えば、保育士資格がないと保育士として働けません。児童指導員であれば、小学校以上の教員免許があれば大丈夫です。
 現代は、男女同権と謳われていますが、それでも性別での有利不利はあります。保育士であれば女性が圧倒的に就労に有利ですし、児童指導員は、男性が就労に有利です。他の職種として心理療法士、管理栄養士、書記等があり、各々、職種に応じた任用資格が必要です。

Q36.勉強の都合上、短い間になるかもしれませんが、宿泊をしながらのボランティアが出来ませんか?また、このような条件で可能なところがありましたら、教えてくれませんか?

A.勿論、短期的なボランティア活動も受け付けています。そのような活動方法は可能です。
 但し、私たちは、何よりも子どもたちの利益を優先します。私たち小舎制は、出来うる限り家庭生活に近づけるよう努力を惜しんでいませんが、そう考えると、表現は悪いのですが「全然分からない相手」を子どもたちに近づけるわけにはいけません。従って、ボランティア活動をお受けする前に、必ず面談をさせていただきます。その席でボランティア活動上の条件を確認し、その上で「活動するか否か」を判断していただくようにしています。時には、面談により、活動を拒否させていただく場合も少なからずあります。それは、全て、子どもたちの利益を最優先しているから故のことで、その旨、ご理解をお願いしているのです。
 さて、まず、ご自分の人物評価をして貰う意味でも、お近くの児童養護施設に訪問し、ご自分の活動をアピールし、OK!を頂くのが一番の早道と思います。
 私たちは子どもたちの子育てを担っています。電話やお手紙で初対面の方が活動の申し入れをされた場合、「はい、どうぞ」とご回答出来ない心内を是非、ご理解下さい。

Q37.乳児院や児童養護施設でボランティアを募集していたりするのですが、短期間でもいいのでしてみたい!!と思っているのですが高校生ではやはり無理なのでしょうか??

A.市町村によっては、「ナイストライ事業」と言って、中学生を対象に事業所にて4日間体験実習すると言うプログラムがあります。小学生では、「総合学習の時間」を利用して、事業所に訪問するプログラムを採用している学校もあります。高校でも、ボランティア活動を推奨している学校もあります。
 但し、これらは、日本中の学校が取り組んでいるわけではありません。
 さて、高校生の場合、前述した学校のプログラムの一環として活動するのが基本でしょうね。単独で活動する場合は、施設側がポスター等で募集をしている場合でしょう。例えば、バザーやお祭りなどの行事にスポット的に募集するパターンもあります。
 児童養護施設によっては、高校生のボランティアは原則として受けていない所があります。それは何故か?高校生も園で生活しているからです。園で生活している高校生の立場を考えると、そうせざるを得ないのです。子どもたちにとってボランティアの方でも自分の生活スペースを脅かす「他人は他人なのです」、それも同世代となると、どうでしょう。「自分が逆の立場だったら」と考えてみて下さいね。
 福祉の種別によっては、高校生ボランティアを受け付けている場合もありますので、最寄りの福祉施設にお問い合わせしてみたら如何でしょう。何事もチャレンジ精神が必要です。まず、アクションを起こしましょう。
 最寄りの乳児院にボランティア出来るかどうか、問い合わせてみてくださいね。

Q38.将来的に(随分先のことですが)兄弟や仲間と一緒に小さい養護院をやりたいと思っているのですが、そこで経営をする立場になったりした場合何か特別な資格が要るのでしょうか?

A.まず、「養護院」と言う施設種別はありません。たぶん「児童養護施設」のことでしょう。さて、福祉施設は、個人で運営することは出来ません。社会福祉法人と呼ばれている法人格でないと運営できないわけです。その法人を設立するためには、ある程度の社会的信頼、そして、資産が必要です。次に福祉施設を設立することになりますが、都道府県の認可が下りないと、措置費が支弁されません。無認可の場合は、利用者から利用料を徴収したりがあり、これは、児童福祉の場合は、殆ど不可能です。
 従って、兎にも角にもお金ですね。すごく大まかな概算をはじき出すと、
 施設建築費…児童定員50名として、安く見積もって4億円
   国庫補助申請が成功すれば、その内の2/3の補助が出ます。
   つまり、残り1/3が自己資金となりますので、1億4千万円
 土地    …これがないと建築できません。これは、場所によって幾らかかるのか見当もつきません。これを仮に1億円とします。
 備品揃える…これが、大体4千万円程度でしょう。
 何だかんだと3億円は必要でしょうね。但し、これは、もの凄く安く見積もっていますので、実際は、もっともっとかかりますよ。
 資格は、まず、法人格を取得する場合は、「信用」でしょうね。次に、施設長になる場合は、勿論、施設長資格が必要ですよ。

Q39.進路のことについて親からの理解がなかなかもらえません。「有名私立中学、高校を出て福祉のような仕事につくのはどうか。」みたいなことを言われショックを受けてしまいました。やはり親の意見が正しいのでしょうか?世間からするとおかしい。と周りに言われかなり落ち込んでいます。

A.「福祉のような仕事につくのはどうか。」とは、その道で働いている方々に対して、失礼ですよね。
 確かに「有名私立中学、高校」に子どもを通学させるのは、親の甲斐性でしょう。そのことについては、子どもとして、親に感謝しなければいけません。管理人も二人の子どもがいますが、確かに親として、子どもに対して期待を持っています。しかし、大切なことは、その期待を強要しないことでしょう。
 「やはり親の意見が正しいのでしょうか??」、親には、親の人生があり、その人生から出てくる言葉です。正しいと思います。只、冒頭で述べているとおり、特定の職種に対して差別或いは区別をする発言は、いただけませんね。
 さて、あなたの人生は、誰のものですか?自分の人生は、自分で切り開くものです。友人・先輩・先生・親等々から助言を受けることや求めることもあるでしょう。しかし、結局、決断をするのは自分なのです。そして、決断したら、例え、周囲が何を言おうと微動だにしないことでしょう。
 「一度決断したら変えたらいけないの」、そんなことはありません。決断しても、その後に自分自身が人生経験を得たり、新しい情報を得たり、納得のいく助言を受けたりなど、人生には、様々なことが起こるからです。
 ところで、福祉の仕事は、これから確実に雇用が伸びていく職種です。現代社会では、大企業でも倒産する世の中です。また、特に企業は景気の動向が賃金に影響します。しかし、福祉の仕事は、賃金が高いとは言えませんが、確実に支給されると言う大きな利点があります。勿論、社会的貢献度、やりがい、常に学びの時、専門職、特に保育士は、国家資格です等々、素晴らしい利点が多いのです。
 自信と誇りを持って「福祉の道を選びました。」と言っても良いのではないでしょうか。

Q40.育ちの都合から、私は精神が不安定な人間です。周りの人と同じように、恵まれない子供たちを「可哀想」とは思えません。子供が好きなわけでもありません。ただ、私と同じような思いをする子供が増えて欲しくないから、児童養護施設を希望しました。子供が好きではない、こういう考えの人間は実践現場では受け入れられませんか?

A.個人的見解は、「子どもたちを愛することが出来ない人」は、児童福祉で働くべきではないと思っています。「子どもたちが施設に措置される」その事実は大人たちへの不信感に繋がりますし、自分自身に対しての劣等感に繋がるパターンも多々あります。特に虐待を受けた場合、不信感や劣等感に陥ることは顕著でしょう。では、それらの状況を癒すのは、何でしょう。「愛されている」「認められている」「必要とされている」などなどではないでしょうか。具体的には、「誉められる」「真剣に叱ってくれる」「共に泣いてくれる」「共に喜んでくれる」などなどでしょう。
 まず「恵まれない子供」との表現は、そのこと自体が子供より自分を上位に置いています。どんな境遇に居ようと、子どもたち一人一人に尊ばれるべき人格があるのです。他人の主観で「恵まれない」と決めつけられては、たまったものではありません。はっきり言って失礼です。
 次に「可哀想」ですが、あなたが逆の立場で、自分が他人から「可哀想」と思われていたら、どんな心持ちになることでしょう。子どもたちの立場として考えると「哀れみ」や「同情」など要らないのです。必要なのは「理解」なのです。
 「私と同じような思いをする子供が増えて欲しくないから」「子供が好きではない」、すごく自己中心的な表現です。そこに相手に対する思いやりは見えません。福祉の根本に、相手を思いやる気持ちがなければ、只の偽善になってしまいます。
 あなたがどんな育ち方をしていようと、子どもたちにとっては何の関わりもないことです。児童養護施設に置いては、「今、そこにいる子ども」が大切であり全てなのです。
 随分辛口の助言ですが、あなたなりの何かの想いがあって、福祉系大学に進学したのだろうと推察しますので、是非、福祉について、もう一度、考察を試みて下さい。