第4話 脚本「混沌の埠頭、激突」
【登場人物】
北條孝子(17):地獄の力を振るう「東の魔女」 。電光剣(赤い炎)を操る。
高清水凉子(17):天界の力を振るう「西の堕天使」。電流鞭(青い雷)を操る。
ガーディ:孝子の相棒。元・地獄の番人。超視力を持つ。
詫間亨(25):凉子の相棒。天才発明家。遠隔で技術支援を行う。
【本編】
〇横浜港・本牧埠頭・廃倉庫内部(夜) 月明かりが天窓から差し込み、二人の少女を舞台の上の演者のように照らし出している。 周囲には、感電し炭化した男たちと、赤い炎に焼かれ悶絶する男たちが転がっている。
凉子 「地獄から迷い出た、美しくないネズミのようですわね」
孝子(楽しそうに喉を鳴らして) 「あらあら、手厳しいご挨拶。ですが、その『ネズミ』にあなた様の美しいパーティー会場を荒らされてしまいましたこと、お詫び申し上げますわ」
凉子(冷淡に) 「お詫びなど不要ですわあ。どうせあなた様も、この醜いゴミ共と一緒に、わたくしが『浄化』いたしますもの」
孝子(千枚通しを指先で回し) 「わたくし、あなた様のような『清い』方を、地獄のやり方で『お稽古』してさしあげるのが大好きですのよ」
言葉が途切れた瞬間、孝子の姿がふっと消える。 人間の動体視力を超えた速度で凉子の左側面へ回り込む。
孝子 「まずはそのお綺麗な耳から、地獄の音色を聞かせてさしあげますわ!」
千枚通しが凉子の鼓膜を狙って突き出されるが、凉子は一歩も動かず左手のショック棒で背後を突く。 金属同士が激突する甲高い音。
孝子 「まあ!なぜ反応できましたの?」
凉子 「あなたの動き、すべて『聴こえて』おりましたわあ。その下品な地獄の力、わたくしの『論理(テクノロジー)』の前ではただの野蛮な暴力ですわねえ」
孝子の攻撃が加速する。針の雨のような連撃を、凉子は最小限の動きで捌き切る。 地獄の混沌(本能)と天界の秩序(論理)が激しく衝突する。
〇本牧埠頭・ガントリークレーン(夜) 倉庫の外。鉄骨の影に同化しているガーディ。その目は上空のドローンを捉えている。
ガーディ 「天の輩は、このような『玩具』に頼らねば何もできぬか」
ガーディが「影の針」を放ち、ドローンを霊的にショートさせ次々と墜落させる。
〇神戸・詫間亨の地下ラボ モニターにノイズが走り、亨がいら立たしげに舌打ちする。
亨 「厄介な霊的センサーだ。……そこだ!」
亨は軍事衛星の高周波レーダーを作動させ、空間の歪みからガーディの座標を特定する。
亨 「凉子様。敵サポート役の位置を送信します。奴は我々の想像以上に『視えすぎて』います」
〇廃倉庫内部 数十合の打ち合いの末、二人は同時に距離を取る。
孝子 「あなた様のような『清い』方が、これほどの殺意を隠し持っていたとは。わたくし、少し興奮してまいりましたわ」
凉子 「あなた様こそ。その下品な殺気を、よくもまあ可愛らしいお顔で隠し通せるものですわあ。その歪み、反吐が出ますわあ」
孝子がケースから日本刀の柄を取り出す。赤い炎の刃が迸る――「電光剣」。
孝子 「その『秩序』で固められた魂ごと、ジワジワと灼き尽くしてさしあげますわ!」
凉子も金属製の鞭を一振りする。青い電流を纏う――「電流鞭」。
凉子 「わたくしの『雷(いかづち)』で、その穢れごと浄化して差し上げなあきませんわあ!」
地獄の炎と天の雷が中央で激突する。 凄まじい爆発。コンテナが吹き飛び、倉庫の壁が崩落し始める。 互いの瞳には、恍惚とした狂気と冷徹な論理が宿っている。
不意に、二人の耳にそれぞれの相棒からの通信が入る。
亨(通信) 『凉子様、撤退を!警察のSATがこの埠頭を完全に包囲しつつあります!』
ガーディ(通信) 『お嬢様!人間どもの実力部隊が五分以内に突入します!』
孝子(忌々しそうに炎を消して) 「せっかくこれからというところでしたのに。水を差されましたわね」
凉子(電流鞭を収め) 「結構ですわあ。美しくないモノと、これ以上同じ空気を吸いたくもありませんもの」
二人は互いに背を向ける。
孝子 「今日のお稽古はここまでにしてさしあげますわ。次に会う時はその綺麗な魂を泣き叫ぶまで可愛がってさしあげますわね」
凉子 「ごきげんよう、地獄のネズミさん。次は塵一つ残さず浄化いたしますわあ」
孝子は影の通路へ、凉子は夜の海へと消えていく。 放置されたコンテナの中には、人身売買の被害者たちが取り残されている。だが二人は彼らに一度も目を向けない。彼女たちの正義は、弱者を救うためのものではないからだ。
数分後、SATが突入。彼らが見たのは、壊滅した組織と、二つの神話が衝突したような不可解な破壊の痕跡だけだった。
(暗転)