第5話 脚本「仕組まれた不協和音」
【登場人物】
北條孝子(17):横浜の「魔女」。自分の魂が汚されたような不快感を抱えている。
高清水凉子(17):神戸の「堕天使」。論理を乱されたことに憤っている。
ガーディ:孝子の相棒。地獄のアーカイブ情報を求めている。
詫間亨(25):凉子の相棒。天界のデータの存在に動揺する。
黒椿:『神託(オラクル)』の代行者。
【本編】
〇横浜市中区・北條家・孝子の自室(夜) 湯浴みを終え、シルクの寝間着姿の孝子が窓辺で千枚通しを見つめている。 月光を浴びた刃が鈍く光る。

孝子 「……ガーディ」

影の中からガーディが実体化する。

ガーディ 「お呼びでしょうか、お嬢様」

孝子 「あの『堕天使』……実に興味深いですわ。わたくしの『苦痛』をゴミを見るような目で眺めて。あの純粋な力をこの手で汚してみたい。その欲望が、わたくしの魂を焦がしますの」

ガーディ 「お嬢様。あの『雷』は我ら地獄の者の魂魄を根源から消滅させかねない力。危険にございます」

〇神戸市垂水区・高清水家・地下ラボラトリー 清洁な白いローブを纏った凉子が、ホログラムの戦闘データを冷徹に見つめている。

凉子 「……亨さん。この『赤い閃光』のデータ、物理法則から逸脱しすぎですわあ」

亨 「対象の魂魄に直接作用し、『苦痛』という情報だけを増幅させる呪術的兵器です。禁忌の地獄の力そのものですな」

凉子(嫌悪感も露わに) 「美しくない。あのような野蛮なモノが、わたくしと同じ『お嬢様』の仮面を被っているなんて。この世の調和に対する冒涜ですわあ」

〇(数週間後)横浜・聖黒椿女学館・教室(昼) 取り巻きの生徒たちに囲まれ、優雅に紅茶を飲む孝子。 完璧な笑顔だが、心はここにあらず。凉子との再戦だけを待ち望んでいる。

〇神戸・聖マリアンヌ女学院・音楽室(夕方) ヴァイオリンを奏でる凉子。 完璧な演奏だが、彼女の耳は最後の一音に含まれた微かな「ノイズ」を逃さない。

凉子 「……まだ美しくありませんわあ」

〇横浜・ガーディの拠点(夜) ガーディが街の霊的な異変を察知し、目を細める。

ガーディ 「おかしい。有望な若者の魂が、神隠しのように立て続けに消えている……」

〇神戸・亨の地下ラボラトリー 亨が全国の行方不明者データベースを高速で検索している。

亨 「全国で五十名以上。学業優秀、運動万能……まるで何かを『選別』しているようだ」

〇孝子の自室 / 凉子の自室(同時進行) 二人のデバイスが同時に、暗号化されたロゴを点滅させる。 『神託(オラクル)』からのメッセージが、優雅な筆記体で浮かび上がる。

『拝啓、赤き混沌(カオス)様、青き秩序(コスモス)様』

孝子 「……まあ。随分とご親切なことですわね」

凉子 「……狙いは何ですのん」

『黒幕はカルト組織「アルカディア財団」。アジトは富士山麓の旧軍地下要塞。貴殿ら二つのチームに共同で当たっていただく。成功の暁には、報酬と「地獄と天界に関する極秘アーカイブ」へのアクセス権を与えよう』

ガーディと亨が、その条件に息を呑む。

『ただし、拒否、あるいは互いに争った場合――横浜埠頭での「お遊戯」の映像データを警察、マスコミ、そしてそれぞれの学校に即時提供する』

孝子(扇子をギリと握りしめ) 「……完璧な脅迫ですわね」

凉子(怒りに顔を引きつらせ) 「……」

〇富士山麓・国道沿いの廃墟(夜) 深い霧に包まれた青木ヶ原樹海の入り口。 一台の黒いワンボックスカーが音もなく止まる。 スライドドアが開き、白い戦闘スーツの凉子が降り立つ。

凉子 「まあ、下品な森ですこと。これほど『美しくない』場所が富士の麓にあるなんて、日本の恥ですわあ」

目の前の闇が蠢き、黒いドレスコートの孝子とガーディが実体化する。

孝子(完璧なカーテシーで) 「ごきげんよう。ずいぶんと物々しいお出迎えですことね、堕天使様」

凉子 「あなた様こそ。まるで森に棲む魔女ですわあ。地獄の住人にはお似合いの舞台ですけど」

二人の視線が火花を散らす。

亨 「茶番はそこまでにしましょう。これが『アルカディア財団』地下要塞の見取り図です」

ガーディ 「ふん、紙の上のお遊びですな。この森そのものが結界。物理的な罠だけでなく、魂を惑わす霊的トラップが無数に仕掛けられています」

凉子(冷たい視線で孝子を射抜き) 「……結構ですわあ。あなたの『目』で不浄な罠を避け、わたくしの『論理』で物理セキュリティを突破する。反吐が出そうやけど、それ以外に道はないようですわあ」

孝子 「あら。ようやくご自分の無力さをお認めになりましたの?」

二人は互いへの殺意を笑顔の下に隠し、樹海の闇へと足を踏み出す。

(暗転)