第6話 脚本「富士の樹海、死の迷宮」
【登場人物】
北條孝子(17):地獄の力を受け継ぐ「東の魔女」。赤い炎の電光剣を操る。
高清水凉子(17):天界から堕ちた「西の堕天使」。青い雷の電流鞭を操る。
ガーディ:孝子の相棒。地獄の番人。霊的な罠を見抜く「目」を持つ。
詫間亨(25):凉子の相棒。天才発明家。物理的な罠を解析する。
【本編】
〇富士山麓・青木ヶ原樹海(深夜) 月光さえも届かない鬱蒼とした森。 方位磁石もGPSも効かない磁鉄鉱の迷宮を、二人の少女が進んでいる。 先頭を行く凉子の伊達眼鏡には、熱源と電波からマッピングされたグリッドが表示されている。

亨(通信) 「前方五十メートル。三時の方向に高圧電流線。五時の方向に感圧式地雷。気をつけて、凉子様」

凉子 「承知いたしましたわあ。こんな下品な罠、わたくしの舞踏の邪魔にもなりませんわあ」

凉子はダンスを踊るようなステップで、目に見えない致死の罠を音もなくすり抜けていく。 その数メートル後ろを、孝子が悠然と歩いている。

ガーディ(念話) 「お嬢様。左手、木の幹の陰に『嘆き』の呪詛が。右手、苔の下に『誘い』の結界が。魂魄に直接作用する、悪趣味な代物にございます」

孝子 「まあ、面倒ですこと」

孝子は千枚通しを取り出し、呪詛が仕掛けられた幹に軽く突き立てる。 ジュウウウッ、と霊的な結界が焼き切られていく。 不意に、孝子が足を止める。

孝子 「ガーディ。今、何かの気配が……」

ガーディ 「はっ。間違いございませぬ。同族の匂い……しかし我らとは質の異なる『地獄の番人』の気配にございます」

凉子もまた、足を止めて眉をひそめる。

凉子 「亨さん。今、補聴器が未知の周波数帯をキャッチしましたわあ。空間そのものが泣き叫んでるみたいやけど……」

亨(通信) 『警戒を!それは恐らく、地獄の番人。天使養成校のデータにあった、冥府の秩序を司る高位の霊的存在です。なぜ財団にそんなモノが……』

孝子(赤い瞳を輝かせ) 「ますます、面白くなってまいりましたわ」

凉子(青い瞳を冷たく光らせ) 「美しくないモノは、すべて浄化するまでですわあ」

〇旧軍地下要塞・入り口 樹海の最深部に現れた、苔むした鋼鉄の扉。 最新鋭の電子ロックと、禍々しい霊気を放つ呪詛の三重守護。

凉子 「亨さん」

亨 「御意に。解除コードを送信します」

凉子がキーパッドを叩き、電子ロックを無力化する。

孝子 「ガーディ」

孝子が千枚通しを突き立て、扉を覆う呪詛を霧散させる。 仕上げにガーディが影の手を伸ばし、内側の重いカンヌキを粘土のようにねじ曲げて破壊した。

ギイイイ……と重い音を立て、コンクリートの通路が開かれる。

〇地下要塞・大ホール 通路の先には、武装した十数名の警備員が待ち構えていた。

警備員 「曲者だ!撃て!」

銃弾の雨が降り注ぐが、凉子が先に動く。 踊るようなステップで弾丸をかいくぐり、青い電流鞭を振るう。

凉子 「美しくありませんわあ。天の雷、受け取りなさいな!」

バチバチバチッ! 警備員たちは悲鳴を上げる間もなく炭化し、黒焦げのオブジェと化す。 完璧な、一瞬の「浄化」。

孝子 「あら。せっかくのお稽古の相手を横取りするなんて、マナー違反ですわよ」

凉子が仕留め損ねた最後の一人の背後に、いつの間にか孝子が立っている。 男が振り返るより早く、千枚通しが延髄を貫く。

男 「ぎ……っ……あ……!」

男は即死せず、全身の神経を焼かれる苦痛に悶え、白目を剥いてゆっくりと崩れ落ちる。

孝子 「ほら。やはりこちらの『お稽古』の方が、心が躍りますでしょう?」

凉子(本気で顔を歪め) 「反吐が出ますわあ。わたくし、あなた様と同じ空気を吸っているだけで気分が悪くなりますの」

孝子 「まあ、奇遇ですこと。わたくしも、あなた様の偽善に満ちた『秩序』の匂いには吐き気がいたしますわ」

互いへの嫌悪を隠そうともしない。 だが、美しき秩序の「雷」と、残忍なる混沌の「炎」は、確実に敵を殲滅しながら要塞の奥へと突き進んでいく。

〇地下要塞・最深部・巨大ドーム 二人がたどり着いたのは、巨大な講堂だった。 そこには武装した兵士ではなく、数百人の少年少女が、無機質な制服を纏い、祈るように座っていた。 彼らの瞳には、何の光も宿っていない。

壇上には、純白のローブを纏った男――“予言者”キジマが、両手を広げて立っていた。

キジマ 「ようこそいらっしゃいました。『赤き混沌』の使徒よ。そして『青き秩序』の堕天使よ」

孝子 「なっ……!?」

凉子 「わたくしたちの正体を……知ってはりますの?」

キジマ 「驚くことはありません。貴女がたをここへ導いたのは、我らが崇拝する『神託(オラクル)』なのですから」

キジマが不敵に微笑み、指をパチンと鳴らす。 その瞬間、座っていた数百人の子供たちが一斉に立ち上がり、冷たい戦闘的な光を瞳に宿した。

キジマ 「さあ、始めましょう。混沌と秩序のデュエットか、新世界の合唱か。生き残った方が、真の『正義』です!」

数百人の洗脳された子供たちが、地獄の番人の力をその身に宿し、獣のような動きで二人の少女へ襲いかかる。

(暗転)