第10話 脚本「本能寺の変(ホンノウジ・リベリオン)」
【登場人物】
北條孝子(17):横浜の「魔女」。昭和の銀幕から抜け出たような古風な言葉遣い。
高清水凉子(17):神戸の「堕天使」。柔らかくも気品ある神戸お嬢様言葉。
黒椿:『神託(オラクル)』の代行者。二人を共食いさせようと画策する。
ガーディ:孝子の相棒。
詫間亨:凉子の相棒。
【本編】
〇京都・本能寺跡・中央広場(夜) かつて覇王・織田信長が散った地。現在はビルに囲まれた静かな公園だが、今宵は不吉な魔方陣が地面に浮かび、禍々しい光を放っている。 上空、隣接する高層ビルの屋上の縁に、黒い着物を纏った黒椿が月を背にして立っている。 広場の壁面には、苦悶するガーディと亨の姿が巨大なホログラムで映し出されていた。
黒椿(恍惚として二人を見下ろし) 「さあ、始めなさいな。生き残った一人だけが、その大切な家族を助けられますわ。美学か命か、お選びになるのは今ですわ!」
孝子(千枚通しを逆手に握り、瞳を赤く燃やして) 「……よろしいですわ。あなた様をここで『お稽古』することが、わたくしの家族を守る唯一の道のようですわね」
凉子(ショック棒を構え、瞳に青い雷を宿して) 「望むところですわあ。あなた様という、この世で一番美しくないノイズをここで『浄化』するのが、唯一の答えやと思いますわあ」
二人の殺意が極限まで高まり、同時に地を蹴る。 赤い閃光と青い稲妻が激突し、凄まじい衝撃波が広場を揺らした。
〇同・激闘の最中 火花が散る至近距離で、二人は互いの瞳の奥にある冷徹な計算を読み取る。
孝子(凉子にしか聞こえない低い声で) 「……堕天使様。あんな見え透いた幻に、わたくしたちの目が曇らされるとお思い?」
凉子(同じく囁くような神戸弁で) 「当たり前やわあ。あんな下品な脅迫で、わたくしの論理が捻じ曲げられるなんて、心外ですわあ」
孝子は突き出した千枚通しをわざと逸らし、背後のガーディのホログラムを貫いた。 凉子もまた、ショック棒の雷撃を亨のホログラムへと叩きつけた。
孝子・凉子(同時に上空を睨み、絶叫する) 「「邪魔ですわ(ですの)よ!!」」
映像がノイズと共に消え去る。屋上の黒椿が、初めて笑みを消した。
黒椿 「……どういうつもりかしら。家族を自分たちの手で消し去るなんて」
孝子(千枚通しの汚れを払う仕草で) 「うるさいですわ、この外道。あんなお遊びでわたくしを操れるなんて、千万年早いですわよ」
凉子(冷たく言い放ち) 「お黙りなさいな、この詐欺師。わたくしたちが争うことが敵の利益になるなら、そのゲーム盤ごとぶち壊すのが一番の論理ですわあ」
二人は背中を預け合い、同時に屋上の黒椿を見上げた。
孝子 「堕天使様。あなた様の不自由な雷、少しだけお借りしますわよ」
凉子 「地獄のネズミさん、わたくしの盾としてせいぜい役に立ちなさいな」
〇同・ビルの壁面から屋上へ 孝子が電光剣を壁に突き立て、赤い炎の足場を瞬時に作り出す。 凉子はその炎を躊躇なく蹴り上げ、重力を無視して空高く跳躍した。 黒椿が放つ「観測」による重力障壁を、孝子が地獄の闇の力で隠蔽し、中和する。
黒椿(驚愕し、自らも不可視の力を解放する) 「馬鹿な……相容れぬはずの魂が、なぜこれほど完璧に噛み合うの!?」
孝子・凉子(屋上の黒椿を挟み撃ちにし、同時に叫ぶ) 「「喰らいなさい(なさいませ)!!」」
ガーディから授かった「全てを隠蔽する闇」を宿した孝子の黒い針。 亨のラボから供給された「システムを強制停止させるバグ」を宿した凉子の純白の雷。 二つの究極の「拒絶」が黒椿の核を貫いた。
黒椿 「が……あ……っ!我が神託の……シナリオが……!!」
黒椿の体は黒い椿の花が枯れるように塵となり、京都の夜空へと霧散していった。
〇同・屋上(黎明) 夜明けの光が差し込み、静寂が戻る。 脳裏には、解放されたガーディと亨からの安堵の通信が届いていた。
孝子(乱れた振り袖を整え、石碑に腰掛けて) 「さて。邪魔者は消えましたわね。お稽古の続き、いたしますかしら?」
凉子(戦闘スーツの埃を払い、鼻で笑って) 「結構ですわあ。今日は美しくないモノを見すぎて疲れましたわ。それに、あなた様を今ここで浄化するのは、あまりにも効率が悪いですもの」
孝子(扇子で口元を隠し、楽しそうに笑う) 「まあ。わたくしも同じことを考えておりましたわ。あんな下品な観測者どもを根こそぎお掃除するまで、お預けにして差し上げますわね」
凉子が孝子に向かって、白い手袋の右手を差し出した。
凉子 「『神託』をこの世から消去するまでやわあ。わたくしと、一時的な契約を結びなさいな」
孝子は手を取る代わりに、千枚通しの先で凉子の掌に軽く触れた。
孝子 「ええ、よろしいでしょう。その契約、乗って差し上げますわ」
東の魔女と西の堕天使。 かつて憎み合った二羽の鴉が、共通の敵を狩るための「最悪の共犯者」となった瞬間だった。
(暗転)