第12話 脚本「夜明けの不協和音」
【登場人物】
北條孝子(17):地獄の力を振るう少女。宿敵の自己犠牲を目の当たりにし、心に変化が生じる。
高清水凉子(17):天界の力を振るう少女。自らの美学を貫くため、究極の選択を下す。
ガーディ:孝子の相棒。冥府の王から温情を賜る。
詫間亨:凉子の相棒。記憶を失った凉子を支える決意をする。
閻魔大王:冥府を統べる王。
カイ・ソラ・ひかり:「陽だまり探偵事務所」の面々。
【本編】
〇虚無の庭園・中心核(異次元) 「神託」が作り出した赤と青の螺旋エネルギーが臨界点に達し、空間そのものが自壊を始めている。 中心で対峙する孝子と凉子。
孝子 「……もう、ヤケクソですわ!堕天使様!その腰の短剣を抜きなさいな!」
凉子 「……何を考えてはりますのん?」
孝子 「いいから早く!わたくしの魂ごと、この忌まわしい炎をあなた様の『月』で切り裂くのですわ!」
孝子は自らの胸に千枚通しを突き立てようとする。自爆に近い賭け。 だが、凉子は首を横に振る。
凉子 「……美しくありませんわあ。でも、あなた様の非論理、今だけは信じて差し上げますわあ」
凉子は孝子を斬らず、自らの胸に「月詠の刃」を深々と突き立てた。
孝子 「なっ、何を……何をなさるの!?」
凉子(吐血しながらも不敵に微笑み) 「わたくしは、わたくしの美学に従いますわあ。あなた様を斬るんやなくて、わたくしの魂に宿った『穢れ』ごと、この融合の連鎖を浄化して断ち切りますわ!」
凉子の体から絶対的な拒絶の光が溢れ出し、「神託」が構築した法則を内側から破壊していく。
凉子(最後の力を振り絞り) 「……さあ、行きなさいな!地獄のネズミさん!奴の核を、あなた様の針で貫きはるんですわあ!」
孝子(涙を浮かべたような光に突き動かされ) 「ええ……ええ!やってやりますわ!あなた様の死に様、地獄の果てまで見届けて差し上げますわ!」
孝子は「闇」を宿した千枚通しと「拒絶」の刃を交差させ、神託の核へと飛び込んだ。
孝子 「『黒(こく)』!!『白(びゃく)』!!!」
究極の否定の力が神託の核で爆縮を起こす。神託は断末魔の叫びと共に塵となり、次元の亀裂は完全に閉じた。
〇虚無の庭園・跡地 崩壊する灰色の世界。 孝子が膝をついている。凉子の姿はどこにもなく、ただ彼女の短剣が墓標のように突き刺さっていた。
孝子(空虚な声で) 「……終わった……のですか……?」
天から冥府の闇の光が差し込む。閻魔大王の声が響く。
閻魔大王 「よくやった、我が子よ。其方らが守ろうとしたのは、我ら神々が見失いかけていた尊き光であった。罪は功をもって相殺しよう」
闇の光が孝子とガーディを包み込み、現実世界へと引き戻す。
〇横浜・病院の一室(三日後) 孝子が目を覚ます。傍らにはガーディが座っている。
孝子 「……あの女は?堕天使はどうなりましたの?」
ガーディ 「分かりませぬ。虚無の庭園から魂を回収することは叶いませんでした……」
孝子は何も言わず、窓の外を眺める。胸の奥に刺さった棘のような痛みを自覚しながら。
〇神戸・高清水家・庭園(冬) 一変して、穏やかな日差し。 記憶と力を失い、ただの人間となった凉子が亨とキャッチボールをしている。
丘の上からその様子を盗み見る孝子。
孝子 「フン、見事に牙を抜かれましたわね。あんなつまらない顔、興味ありませんわ」
孝子は吐き捨てるように言いながらも、その背中は小さく震えていた。
〇帰路の新幹線・車内 孝子がふとポケットを探ると、一枚の小さな紙切れが出てきた。 凉子が好んで食べていたマドレーヌの包み紙。バターの甘い香りが微かに残っている。
孝子(自嘲気味に微笑み) 「……まあ。たまには甘いものも、悪くありませんわね」
孝子はその包み紙を、大切そうに手帳の間に挟んだ。
〇東京郊外・陽だまり探偵事務所(夜) 薪ストーブが燃える事務所。 カイ、ソラ、ひかり、そしてクロが集まっている。
ひかり 「ねえカイ。最近、横浜と神戸で不自然な霊的ノイズが観測されてるわ。半年前に起きた関ヶ原の抗争……あれが引き金になっているみたい」
ソラ 「地獄の匂いとも、神様の匂いとも違う、ヌルヌルした嫌な感じがするんだよね」
カイ(窓の外の夜空を見上げ) 「……得体の知れない何かが、この世界の境界線を侵食し始めてる気がする。ひかり、調査を続けよう。何か嫌な予感がするんだ」
宇宙の深淵。かつて「神託」が存在した裂け目で、新たな「目」が静かに開かれた。 それは孝子と凉子、そしてカイという新たな「駒」を冷酷に捉えていた。
(物語は、まだ、終わらない――)
(暗転)