第3話:緋色の蹂躙 ―東の魔女の目覚め―
【主要キャラクター・武器能力】
北條孝子 地獄の千枚通し
地獄の鉱石から削り出された、孝子の愛用する極細の凶器 。掌から実体化させ、地獄の業火を媒介させる触媒となる 。
北條孝子 拒絶の火(フレア・ウォール)
扇子を一振りすることで展開される炎の壁 。物理的な攻撃を蒸発させ、接近を拒む防御結界 。
北條孝子 千本椿(せんぼんつばき)・乱れ咲き
空中に無数の炎の針を生成し、豪雨のごとく降らせる広範囲攻撃 。一本一本が正確に敵の「核」を貫き、内側から爆破する 。
北條孝子 昇華(サブリメーション)
自身の身体を一時的に紅蓮の炎そのものへと変える回避・攻撃一体の術 。あらゆる物理的質量を無効化し、周囲を火柱で包む 。
ガーディ 影の魔術
執事ガーディが操る、影を用いた移動および防御術 。リムジンのタイヤを影でコーティングし、空間の断裂を跳躍させることも可能 。
シーン1:私立聖黒椿女学館・サロン
一月の終わり 。放課後の優雅なサロンには、平和という名の緩慢な毒が満ちていた 。高い天井、磨き上げられた床、柔らかな陽光 。 令嬢たちが週末のオペラやパティスリーの話題で小鳥のようにさえずっている 。
北條孝子:「……ええ、どちらも魅力的ですわね」 完璧な微笑みを浮かべて答える孝子だが、その瞳の奥は氷河のように冷え切っている 。
(モノローグ):つまらない。紅茶の香りも、焼き菓子の甘さも、今のわたくしには色褪せた灰色の砂のように感じられる 。
孝子の指先がソーサーの縁をなぞる。脳裏にあるのは伊勢での戦い、背中合わせに立ったあの忌まわしい堕天使(高清水涼子)の青い雷光 。 血管が沸騰するようなあ的高揚感に比べれば、今の日常は死んでいるも同然だった 。
孝子:「今日は早めに失礼いたしますわ。……空気が、澱(よど)んでおりますもの」 拒絶の意志を纏って立ち上がる。令嬢たちはその威圧感(オーラ)に気圧され、見送るしかなかった 。
シーン2:北條邸・壊された庭園
川崎の屋敷へ戻った孝子を待っていたのは、無残な光景だった 。 冬に咲き誇るはずの薔薇は黒く変色して溶け落ち、地面からはアスファルトを突き破って灰色の菌糸が広がっている 。鼻をつく腐敗臭が漂う 。
ガーディ:「お帰りなさいませ、お嬢様。……『外』からの侵蝕にございます」 影から現れた執事の顔は、いつになく険しい 。 その時、庭の噴水が沸騰し、紫色の粘液の中から「肉塊の怪物」が這い出してきた 。皮膚はなく、剥き出しの筋肉と無数の眼球が全身を覆う異形 。
孝子:「……あら。やっと、退屈しのぎになりそうなお客様がいらしたようですわね」 孝子の右手に、地獄の鉱石で作られた「千枚通し」が黒い光と共に実体化する 。
シーン3:蹂躙のダンス
肉塊の怪物が跳躍し、孝子に襲いかかる 。 孝子:「美しくありませんわ」 最小限の動きで回避し、すれ違いざまに千枚通しを怪物の脇腹へ突き立てる 。 ただの刺突ではない。千枚通しから「地獄の業火」を直接流し込み、内側から肉を焼き焦がしていく 。
怪物はのたうち回り、肉を膨張させて再生しようとするが、孝子の炎はその再生能力さえも阻害する 。 孝子:「ええ、痛いでしょうね。……でも、それが生きているということですわよ?」 まるで舞踏会でステップを踏むように、怪物の周囲を優雅に歩く孝子 。足元には赤い魔法陣が展開し、火の粉が舞い上がる 。
しかし、怪物の反応はただの断末魔に過ぎず、孝子の心は晴れない 。
孝子:「つまらないわ。消えなさい、ゴミ屑。……『紅蓮葬送(プロミネン・エンド)』!」 千枚通しを怪物の心臓部へ無造作に突き刺すと、一瞬で炎が爆発し、怪物を炭化させて塵へと変えた 。
シーン4:紫の招待状
日が落ち、夜の帳が下りる空が異様な変化を見せた 。西の空から毒々しい紫色の光のカーテンが広がり、星々を飲み込んでいく 。
ガーディ:「『混沌の海』からの侵略が始まりましたな。……あの光の源には、より凶悪な『歪み』が渦巻いております」
孝子:「戻る?冗談をおっしゃらないで」 孝子は不敵に口元を吊り上げた 。獲物を見つけた猛獣のような、獰猛で華やかな笑み 。 彼女の鼻腔が硫黄とオゾン、そして微かな「青い」気配を捉える 。
孝子:「来ているのですわね。……あの方も」 制服を脱ぎ捨て、漆黒のドレスコートを纏う 。それは地獄の女王に相応しい、戦闘の装束だった 。
孝子:「最高級の『舞踏会』になりそうですわ」
シーン5:地獄の産業道路
漆黒の高級リムジンが、川崎の産業道路を疾走する 。車内にはバッハの『G線上のアリア』が流れ、芳醇な紅茶の香りが漂う「動く貴賓室」 。 だが窓の外は、街路樹が紫色の炎に包まれ、大型トラックが逆さまに浮遊する地獄絵図だった 。
ガーディ:「前方に空間断裂。……跳びます」 ガーディが影の魔力でタイヤをコーティングし、数トンの鉄塊を重力を無視して浮遊させた 。
孝子:「退屈なアトラクションですわ。もっと骨のある障害はありませんの?」 紅茶を一滴も零さず、優雅に脚を組む孝子 。
シーン6:鋼鉄の墓場と「千本椿」
臨海工業地帯の入り口。配管や鉄骨、廃棄されたコンテナが融合した高さ十メートルを超える「壁」が道を塞いでいた 。 その前には、金属と肉が融合したサイボーグのような異形たちが群がっている 。
孝子:「わたくしの車を『餌』だと言いましたの?」 ハイヒールの音を響かせ、孝子は一人で怪物の群れへと歩き出す 。 四足歩行の金属獣が爪を立てて襲いかかるが、孝子は扇子を一振りした。
孝子:「『拒絶の火(フレア・ウォール)』」 出現した炎の壁に触れた瞬間、金属獣は爆発四散した 。
孝子:「さあ、まとめていらっしゃい。……『千本椿(せんぼんつばき)・乱れ咲き』!」 孝子が指を鳴らすと、空中に無数の「炎の針」が出現し、豪雨となって降り注いだ 。一本一本が正確に怪物の「核」を貫き、工業地帯を一瞬にして爆炎の渦へと変えた 。 狂ったように笑いながら、炎の中でステップを踏む孝子 。
孝子:「脆い!遅い!美しくない!」
最後に残った巨大なゴーレムが鉄拳を振り下ろすが、孝子の身体は紅蓮の炎と化した。
孝子:「『昇華(サブリメーション)』!」 巨大な火柱が立ち上がり、ゴーレムを蒸発させた 。溶けたバリケードの先に、多摩川の河口が見える 。
シーン7:不協和音の予感
孝子:「お待たせ、ガーディ。……雑草刈りをした気分ですわ」 車に戻った孝子の表情には、若干の苛立ちが滲んでいた。雑魚相手では満足できない 。 しかし、窓を開けた瞬間、熱気の中に冷たく澄んだ空気が流れ込んだ 。
孝子:「ふふっ……やはり、来ていましたのね」 西からの「天界」の波動、そして南から近づく、虚無と温かさが混在した不思議な気配 。
孝子:「役者は揃いましたわ。行きましょう、ガーディ。あの懐かしい『不協和音』を、もう一度奏でるために」
東の魔女は真紅のルージュを引き、すべての道が交わる多摩川河口、埋め立て地の最深部へとリムジンを加速させた 。
(第3話・完/第4話へ続く)