第2話:地上の不協和音、機動智天使(ケルビム)強襲!
【登場人物】
カイ:所長。自身の「虚無」のルーツをエルに見出し始める。
ひかり:冷静な司令塔。エルの正体に戦慄する。
エル:自らを「失敗作」と呼ぶ少女。圧倒的な消去の力を持つ。
高清水涼子:神戸からジェットで強行突破してきた「自称・エルの母」。
詫間亨:50キロの解析機材を運ぶ苦労人エンジニア。
北條孝子(モニター出演):鎌倉から遠隔狙撃魔術を放つ魔女。
ソラ:家庭的な元奪衣婆。
クロ:エルの枕にされる死に神豆柴。
機動智天使(ケルビム):天界からの非情な刺客。

〇陽だまり探偵事務所・内部(夕刻)
事務所の中央は、詫間亨が持ち込んだポータブル解析機が唸りを上げる即席のラボと化している 。 モニターには複雑な二重螺旋構造の図 。

亨「驚いたな……。彼女のDNA、正確には『霊的因子(スピリチュアル・ゲノム)』の半分は、涼子さんの堕天前データと酷似している 。だけど、もう半分は…… 」
カイ「……俺と同じ、『虚無の因子』か? 」
亨「ああ。後天的じゃない、最初から組み込まれているんだ 。これは設計された命……生体兵器のプロトタイプかもしれない 」

涼子、エルの翼の付け根にある痛々しい手術痕に触れる 。
涼子「……酷いことしはる。こんな小さな体に、どれだけの負荷をかけたら気が済みますの…… 」

エル、ゆっくりと瞼を開ける 。
エル「……敵性反応、なし。……環境、安全 」
カイ「お前、名前は? 」 エル「個体識別番号、L-002。コードネーム、エル 。私は、最後の失敗作。だから、捨てられた 」
カイ、無骨な手でエルの銀髪をくしゃりと撫でる 。
カイ「なら、ここがお似合いだ。ここは世間からはみ出した『余り物』の溜まり場なんだよ 。今日からお前はウチの新人だ 」

(効果音) ぐううぅ~~……と、エルの腹の虫が盛大に鳴る 。

エル「……エネルギー残量、低下。活動限界 」
孝子『(モニター越しに)あら、相変わらず底辺の生活をしてらっしゃいますのね 。ガーディ、例のものを 』

事務所のベランダに、黒塗りの高級ドローンが着陸 。 中には桐の箱に入った有名ホテルの最高級オムライス弁当 。

エル、オムライスを一口食べる 。 エルの瞳がパァッと輝く 。
エル「……おいしい。データの味じゃない。あったかい 」 涼子、エルの口元のケチャップをハンカチで拭う 。
涼子「天使も人間も、美味しいもん食べてる顔が一番美しゅうおますな 」

〇同・ベランダ(深夜)
新宿の夜景を見下ろすカイ、ひかり、涼子、亨 。

涼子「天界の内側で何かが起きてますわ。千年前の大断絶以来、沈黙してた連中が動き出そうとしてる 」
ひかり「エルの翼の傷……あれは彼女自身が巨大なシステムの『鍵』である証拠に見えたわ 」
カイ「守れるかな、俺たちで 」
ひかり「守るのよ。世界中を敵に回しても依頼人を守り抜く。それが陽だまり探偵事務所のモットーでしょ? 」

(警報音) 亨のタブレットが不快な警告音を鳴らす 。 モニターに、新宿上空に急出現した無数の「赤い点」 。

ひかり「天界の斥候(スカウト)だわ。もう嗅ぎつけられた! 」 カイ、缶コーヒーの空き缶を握りつぶし、虚無のオーラを立ち昇らせる 。
カイ「挨拶もなしかよ。躾のなってねえ『客』には、お引き取り願おうか! 」

〇戦闘開始
(破壊音) バリンッ!!と窓ガラスが内側に弾け飛ぶ。三体の「機動智天使(ケルビム)」が侵入 。 セラミックの装甲、四本の腕、赤いセンサーアイ 。

ケルビム『――ターゲット確認。排除行動(エリミネート)ヲ開始スル 』

カイ、漆黒のオーラを纏った右拳を叩き込む 。
カイ「『冥王・鉄槌(プルート・ハンマー)』!! 」 (効果音) ドガァッ!!と重い衝撃音が響くが、手応えが「滑る」 。
ケルビム『――物理衝撃、位相ズラシニヨリ無効化 』
カイ「硬ってぇ……! ゴムまりみたいに衝撃を流しやがる! 」
亨「装甲表面に『位相転換フィールド』が張られてるんだ! 」

涼子、特注の「スタン・ロッド」を展開して割って入る 。
涼子「亨さん、解析コード送信! 装甲の隙間を狙いますえ! 」
亨「了解! 0.3秒後、左脇腹の装甲密度が低下する! 」
涼子「そこですわ! 『論理・回路ショート(ロジック・バースト)』!! 」

(電撃音) ケルビムが火花を散らして膝をつく 。
涼子「カイさん! こいつらには『力』より『理屈』が効きますえ! 」

天井を這う三体目のケルビムに、床の魔法陣が呼応して発光 。
孝子『おイタが過ぎますわね。「紅蓮・串刺し刑(インペイルメント)」! 』 (火柱) 床から噴出した炎の槍がケルビムを貫き、爆発させる 。

〇事務所の外(夜)
窓から外を見たカイが絶句する 。 夜空を埋め尽くす、数百体の機動智天使の群れ 。 後方には巨大な指揮官機 。

指揮官機『ジェノサイド・モード起動。範囲、半径500メートル 』
カイ「撃つ気かよ!? 下には人がいるんだぞ! 」

指揮官機の砲門が純白の熱線を放つ 。 カイ、虚無の盾を展開し、自らを盾にして前に飛び出す 。 カイ「くそぉぉぉッ!! 」

その時、カイの背後からエルが飛び出す 。 エルの左目の「黒」が、底なしの深淵のように拡大 。 背中の翼がバリバリと音を立てて広がり、墨汁のような漆黒へ染まる 。

エル「……だめ。私の家を、壊すな。……消えちゃえ 」

(音の消失) ヒュン、という音と共に、エルの小さな掌の前に「極小のブラックホール」が生まれる 。 放たれた熱線、そして夜空を埋め尽くしていた数百体の機動智天使たちが、一瞬にして「消失」した 。 爆発もない。ただ、空間の一部がクッキーの型抜きのように綺麗にくり抜かれ、巨大な「無」の円形が空に浮かぶ 。

〇事務所・瓦礫の山
エルの力で構造材を失ったビルが悲鳴を上げ、崩落を始める 。 カイ、意識を失ったエルを抱きかかえて階段を駆け下りる 。 ひかりが金庫を掴み、涼子が亨を引きずり出し、間一髪で脱出 。 背後で「陽だまり探偵事務所」が入っていたビルが轟音と共に崩壊する 。

カイ「……俺の、城が…… 」 涼子のリムジンが目の前に滑り込んでくる 。
涼子「感傷に浸ってる暇はおまへん! 次はもっとデカいのが来ますえ! 」
孝子『鎌倉へいらっしゃい。北條の結界内なら多少は時間が稼げますわ 』
ひかり「陽だまり探偵事務所、一時移転よ! 次の拠点は鎌倉! 」

〇リムジン車内
西へと疾走する車内。亨がエルのバイタルをチェックする 。

涼子「あの子の力……あれは『存在抹消(イレイズ)』。神の領域の力ですわ 」 カイ、エルの冷たい手を握りしめる 。
カイ「神の力を持つ失敗作、か。……行くぞ、鎌倉へ。そこからが本当の戦いだ 」

夜の甲州街道を、不協和音の絆を乗せたリムジンが切り裂いていく 。

(第2話 完)