第3話:古都の鉄要塞、魔女の書庫に眠る禁忌
【登場人物】
カイ:所長。自身の過去と向き合い始める。
ひかり:司令塔。人間としての無力感と向き合う。
エル:徐々に感情を見せ始める「廃棄対象」の少女。
高清水涼子:エルの「母親」の座を狙う元天使。
北條孝子:鎌倉を統べる「東の魔女」。冷徹なリアリスト。
詫間亨:魔術と科学の融合に興奮するエンジニア。
ソラ:一団の炊事・洗濯を支える癒やし枠。
クロ:エルの「お母様(?)」に任命された死に神犬。
ガブリエル・ゼノ:天界の「美徳」の騎士。冷酷な執行者。

〇 鎌倉・山道(深夜)
月明かりに照らされた険しい山道を、涼子のリムジンが猛スピードで駆け上がる。 背後には遠く新宿の空が、エルの力で「削り取られた」異様な夜景が小さくなっていく。

〇 北條邸・正門前
巨大な檜の門構え。背後の山肌すら取り込んだ広大な敷地。 戦国時代の城塞を思わせるその威容に、車から降りた一行は圧倒される。

涼子「……広すぎますわ、これ。相変わらず嫌味なほど金持ちですな、孝子さん 」
孝子「(門の前で待ち構え、扇子を広げる)ようこそ、わたくしの箱庭へ。穴の空いた雑居ビルよりは、幾分マシな寝床を提供してさしあげますわ 」
カイ「(眠るエルを抱き抱え)要塞だな、こりゃ。家賃は高そうだが、頑丈なのはありがてぇ 」
孝子「当然です。……ガーディ、お客様の部屋と新しい服の用意を。それと、わたくしのお風呂もね 」

〇 北條邸・大広間(深夜)
畳の香りが漂う静謐な広間。豪華な懐石風の夜食が並んでいる。 一同、浴衣姿に着替え、長旅の疲れを癒やしている。

涼子「(特製の茶碗蒸しをエルの口元へ)エルちゃん、あ~ん。北條の料理人が腕によりをかけましたのよ(わたくしが作ってないけど) 」 エル、浴衣姿でパクリと食べる。
エル「……おいしい 」
涼子「(鼻息を荒くして)ところでエルちゃん。カイさんのことを『お父様』て呼びましたよね? ならば! お母様も必要やと思いませんこと? さぁ、呼んでみて。『涼子ママ』と! 」 エル、じっと涼子を見つめ、スッと視線をそらす。 エル、畳の上で丸まっているクロの元へハイハイで移動し、そのモフモフに顔を埋める。
エル「……ふわふわ。あったかい。……この子、好き。……お母様? 」
涼子「(畳に突っ伏して)なんでやねーーん!! わたくしの母性は犬以下ですの!? 」
カイ「(日本酒を煽りながら)ま、クロは面倒見がいいからな。頼むぜ、お母様 」
クロ「(字幕)ワンッ(ふざけんな!……ま、悪い気はしねえけどよ) 」

ひかり、部屋の隅でその様子を見つめ、小さくため息をつく。
孝子「(隣に現れ)ため息つくと幸せ逃げますわよ、ひかりさん。凡人には凡人の戦い方がありますわ。あのバカ犬(カイ)の手綱を握れるのは、あなただけですもの 」

〇 地下書庫「北條の記憶(アーカイブ)」
厳重な封印が施された鉄扉の向こう。壁一面に古文書や石板が並ぶ巨大な空間。 中央の台座にはホログラムの地球儀が投影されている。

孝子「ここは千年前、『大断絶』の時代からわが一族が集め続けてきた『空』に関する記録のすべてですわ 」
カイ「大断絶…… 」
孝子「千年前、地上と天界・冥界は繋がっていました。しかし、あなたの力の源泉……『虚無』の暴走が原因となり、世界は三つに分断されたと言われています 」
カイ「(自分の手を見つめ)俺の、暴走…… 」
孝子「北條家は代々、『空の番人』として空から災いが降ってくる日に備えてきました。……エルさんの座標を解析した結果、彼女は正規のゲートを通ったのではありません。『壁』を無理やり突き破って放り出されたのです 」
涼子「天界の内側で、何かが起きていますわね…… 」

〇 屋敷・露天風呂
竹林と満月が浮かぶ幻想的な空間。 ソラがエルの背中を流しているが、その肌に刻まれた無数の傷跡に手が止まる。

ひかり「……その、傷 」 背中、腕、足に、実験を繰り返された証しである引き攣れた手術痕 。
エル「……痛い。でも、我慢した。泣くと、失敗作だと言われるから 」
ソラ「(エルを後ろから抱きしめ)我慢しなくていいのよ。ここは実験室じゃないんだから 」
涼子「(お湯で顔を洗い、涙を隠しながら)……許せまへん。ルミナ、あなたは何をしてしまったんですの…… 」

〇 屋敷・庭園(深夜)
カイ、テラスで煙草をふかしている。 亨がタブレットを持って駆け寄る。

亨「カイくん。エルの記憶メモリに、天界への入り口を示唆する座標が残ってた。……北極圏だ 」
カイ「北極か。……寒そうだな 」

(効果音) パリーン!! と、北條邸全体を覆っていた多重防御陣が砕け散る。

ガーディ(声)「多重防御陣が突破されました! 上空より敵性体、急速接近! 」

夜空に一筋の光が走り、隕石のように庭園の中央に激突。枯山水を吹き飛ばす。 土煙の中から現れたのは、白銀の鎧に六枚の光の翼を持つ天使。 身の丈ほどの巨大な大剣を携え、絶対零度の瞳で一行を睥睨する。

天使「吾輩は、『美徳(ヴァーチュ)』の騎士、ガブリエル・ゼノ。天界の法に従い、汚染物質を浄化する 」
涼子「美徳の騎士……! 以前の雑魚とは格が違いますえ! 」
カイ「(虚無を纏い、前に出る)へっ。あいにく、ここは銭湯の帰りなんでな。湯冷めしない程度に、遊んでやるよ! 」

カイの拳が漆黒に染まり、ガブリエルの大剣が純白の輝きを放つ。 激突の衝撃波が、鎌倉の静寂を無惨に引き裂いた。

(第3話 完)