第7話:極北のゲート、凍てつく陸路の死闘
【登場人物】
カイ:所長。自身の「起源」にまつわる悪夢に苛まれる。
ひかり:旅の司令塔。食糧と行程の管理に奔走する。
エル:カイに寄り添う少女。カイの心の痛みを感じ取る。
高清水涼子:雪上装甲車のドライバー。会社を失い、かえってハイテンション。
北條孝子:寒さに震える魔女。文句を言いつつも新兵器を披露する。
詫間亨:移動要塞のシステム管理担当。
ウリエル:天界「力天使(パワー)」級。カイを地獄へ捨てた張本人。
〇 シベリア北部・永久凍土(昼)
(映像) 北緯60度以北、視界のすべてが白に染まる極寒の地 。 猛吹雪の中、轟音を立てて爆走する巨大な鉄の塊――全地形対応型雪上装甲車「ホワイト・マンモス号」 。 六つの巨大なタイヤと走行用ベルト、戦車並みの複合装甲を備えた移動要塞が、雪煙を上げて進む 。
〇 ホワイト・マンモス号・車内
断熱システムと魔術炉がフル稼働しているが、隙間風のような冷気が漂う 。 北條孝子は最高級の魔術生成ファーにくるまり、ガタガタと震えている 。
孝子「……寒いですわ!! どうなっていますの、この鉄の塊は! 北條の家訓に『寒さと貧乏とインスタント食品は敵』とありますのよ! 」
涼子「(厚手のダウンジャケットを着込み、ハンドルを握る)文句言わんといてください! 外はマイナス40度、猛吹雪の真っ只中ですえ! 」
孝子「ガーディ、ホットチョコレートを。温度は完璧な95度で。それと、この揺れを止める魔法をかけなさい 」
ガーディ(声)『御意。ですが、路面状況への魔法干渉は酔いの原因となりますので推奨されません 』
後部座席では、カイ、エル、クロが身を寄せ合って「カイ団子」状態で暖を取っている 。
カイ「へっ、魔女様も寒さには勝てねえか。地獄の『寒冷地獄(コキュートス)』に比べりゃ、こんなのそよ風だぜ 」
ひかり「(エルのマフラーを巻き直しながら)強がらないの。鼻の頭が真っ赤よ、カイ 。……あと500キロ。明日の夜明けには『オーロラ・ゲート』に到達するわ 」
〇 雪原(午後)
(映像) 突如、雪原の向こうから複数の熱源が接近。 それは体長3メートルを超える、銀色の金属装甲に覆われた巨大な狼の群れだった 。 天界のナノマシン汚染により変異した「天使化」野生動物である 。
亨「警告! 右舷前方より熱源反応多数! 生体と機械が混ざってる……『天使化』した変異生物だ! 」 (効果音) ドォォォン!! と先頭の狼が装甲車に体当たり。車体が大きく揺れる 。
涼子「ひゃっはー! 汚物は消毒ですわー! 」 (映像) 涼子がコンソールの赤いボタンを押すと、屋根から「魔導ガトリング砲」がせり上がる 。 圧縮された火炎弾が連射され、狼たちが次々と炎に包まれる 。
エル「(窓越しに狼を睨み、左目の黒を輝かせる)……お座り 」 (演出) ズンッ、という重圧。車体に取り付いていた狼たちが、見えない重力に押し潰されて雪原へ叩き落とされる 。鎌倉での特訓による「拒絶」フィールドの応用だ 。
〇 岩陰・野営地(夜)
猛吹雪を避けるため、巨大な岩陰に停車 。 車内の魔術暖炉を囲み、一同は缶詰のシチューと硬いパンで夕食を摂る 。 カイは一人、運転席の窓から極夜の闇を見つめていた 。
カイ(M)「……ここに来たことがある 」 (演出) カイの視界が歪み、フラッシュバックが走る 。 裸足で雪の上を歩かされる感覚、重い鎖の音。そして自分を見下ろす赤い鎧の天使 。
エル「(背後からカイの手を包み)……カイの中、泣いてる。黒い渦が、『帰りたい』って言ってる 」
カイ「……そうかよ。俺たちは『里帰り』ってわけだ。随分と寒々しい故郷だがな 」
〇 雪原(深夜)
(演出) 突如、猛吹雪がピタリと止む 。 外気温がマイナス40度からプラス20度へと急上昇し、周囲の雪が一瞬で蒸発して蒸気が立ち込める 。
亨「外気温が急上昇……!? プラス20度!? 」
カイ「降りるぞ! ここにいたら蒸し焼きにされる! 」
一行が泥濘(ぬかるみ)と化した大地へ飛び出すと、装甲車の上に「彼」が降り立っていた 。 真紅の鎧、燃え盛る四枚の翼、巨大な炎の剣。放たれる熱気が氷河を溶かしていく 。
ウリエル『……久しぶりだな、廃棄物「ゼロ」。地獄の底で朽ち果てたと思っていたが、ノコノコと帰ってくるとはな 』
涼子「ウリエル……! 『神の炎』の異名を持つ、天界最強の武闘派ですわ! 」
カイ(M)「思い出した。俺を『ゴミ』と呼んで、地獄へ突き落とした張本人だ 」 カイは右手のガントレットを握りしめ、漆黒の虚無を立ち昇らせる 。
カイ「俺を捨てたのが、てめえで良かったぜ。千年前のゴミの分別、やり直しさせてやるよ。燃えるゴミは、てめえだ! 」
(M) 激しいオーケストラ。 極北の夜空に、揺らめくオーロラと激突する虚無の火花が散る。
(第7話 完)