第11話:奈落の底の神々、あるいは忘れられた真実
【登場人物】
カイ:所長。オリジナルのアズラエルと対面し、自らの存在意義を見出す 。
ひかり:事務員。精神世界へのダイブを外側から守り抜く 。
エル:自らも「失敗作」として作られた悲しみを超え、ルミナに寄り添う 。
高清水涼子:親友ルミナの孤独を知り、その重荷を共に背負う決意をする 。
北條孝子:魔女。天界の隠蔽された歴史に触れ、冷徹に事態を見守る 。
アズラエル:封印監獄に囚われた「最古の虚無」。カイのオリジナル 。
ルミナ:天界の女王。宇宙の滅亡を恐れるあまり、世界を「硝子の檻」に閉じ込めた 。
〇天界・第6.5階層「封印監獄」
(演出) 急落下したエレベーターが激しい衝撃と共に着底する 。 非常灯の赤い光だけが点滅し、天井からは無数のケーブルや鎖が垂れ下がっている 。 磨き上げられた上層階とは対照的に、黒い汚水が床を濡らす「天界の墓場」である 。
涼子「(ドレスを払いながら)なんて乱暴な……。わたくしの美学に反しますわ」
エル「(鼻をつまみ)……臭い。腐った、機械の匂い 」
孝子「(鬼火で周囲を照らし)ここは歴史から抹消された『失敗作』や、女王に不都合な遺物を閉じ込める場所ですわね 」
壁の培養カプセルには、顔のない天使や機電融合に失敗した怪物が標本のように浮いている 。
〇監獄・最深部への回廊
鎖を引きずる音が響き、ボロボロの拘束衣を纏った老人が現れる 。
老人「歴史とは勝者が書き換えるものだ。わしはルミナの前任者……かつての『秩序の王』だよ 」
ひかり「(驚愕して)先代の王……! 記録では平和的に退位したはずじゃ……」
老人「(カイを凝視し)ほう……お主、あやつ(アズラエル)の因子を持っているな 」
老人に導かれ、一行は最深部の祭壇へ。そこには光の杭で貫かれ、黒い鎖で空間に縫い付けられた漆黒の翼を持つ男、アズラエルがいた 。
アズラエル『来たか……我が分身(コピー)よ 』
カイ「(ガントレットを構え)てめえが俺のオリジナルか」
アズラエル『ルミナは、永遠を求めた自分にとっての「死」と「終焉」の体現者である我を恐れ、封印した。そして、我の細胞から貴様ら(カイとエル)を作り出したのだ。「虚無」を制御し、フィルターとして利用するために 』
〇アズラエルの見せる幻視
アズラエルの翼が広がり、空間に数千年前の記憶が投影される 。 若き日のルミナが、宇宙の果てから迫る「大いなる濾過(グレート・フィルター)」――文明を喰らい尽くす「概念的な無」を観測し、恐怖に震える姿 。
映像のルミナ『嫌よ! 世界が、あなたが死んじゃうのが怖いの! 時間を止めて、死んだふりをしてでも……この星を隠して守る! 』
カイ「……(呟く)世界を守るために、世界を殺す。究極の愛だが、迷惑な話だ 」
アズラエル『苦しみ、老い、死にゆく世界。いっそ檻の中で眠る方が幸せではないか? 』
カイ「(ニカッと笑い)俺の家族が『明日何を食べようか』って悩んでる顔は、何よりも面白いんだよ。永遠の眠り? そんな退屈なモン、俺が食い破ってやる! 」
アズラエルは哄笑し、自らの胸から杭を引き抜くと、黒い光の球をカイに託す 。
アズラエル『行け、若き虚無よ。ルミナの悪夢を終わらせてやれ 』
〇第7階層・中枢制御室(メイン・サーバー)
一行はアズラエルの力で開かれた道を通って王宮へ突入。中心部にはルミナの心の防壁である巨大な黒い石板(モノリス)が鎮座している 。
涼子「これ、物理的な扉やない……。ルミナの『心の壁』そのものです 」
亨(通信)『ダイブするしかないね。僕がハッキングで「裏口」を開ける。中での精神的な死は、現実の死に直結する。それでも行くかい? 』
涼子「親友の悩み相談に、命くらい賭けなくてどうしますの 」
カイ、涼子、エルがケーブルを接続し、ルミナの精神世界へダイブする 。
〇ルミナの精神世界「電脳の海」
数字の波が揺らめき、割れた鏡の破片が浮遊するモノクロの世界 。 底へ潜ると、燃え上がる地球と絶望的な未来シミュレーションの前に、泣きながら計算式を書き続ける幼いルミナがいた 。
映像のルミナ『足りない……もっと完璧な檻を作らなきゃ……みんな死んじゃう……! 』
彼女を守るように、精神の防衛システム「理性の番人」が出現し、負の歴史を刃として放つ 。
カイ「(蒼黒いオーラを噴き上げ)確定した未来なんて、してねえよ。俺たちが今この瞬間に作るもんだ! 『冥王・未来改竄(プルート・リライト)』!! 」
カイが番人を打ち砕き、涼子がルミナの元へ歩み寄る 。
〇和解
涼子は震えるルミナを後ろから強く抱きしめる 。
涼子「バカやねぇ……。そんな怖いモン、一人で見んでもええのに 」
ルミナ『(涙を溢れさせ)ラジエル……! 怖かったよぉ……! 』
涼子「完璧じゃなくていい。今日という日を一緒に笑い合えるなら、それで十分やないの 」
ルミナの泣き声と共に絶望の海が温かい光に包まれ、彼女は本来の女王の姿を取り戻す 。
ルミナ『ありがとう、ラジエル。私、もう一度……信じてみるわ 』
(演出) 視界がホワイトアウトし、中枢制御室に戻る三人 。 目の前の黒いモノリスが左右に割れ、黄金のエレベーターが最上階の玉座へと姿を現す 。
(第11話 完)