第6話 脚本「虚無の咆哮、廃工場の決戦」
【登場人物】
カイ(11歳・千年の地獄を耐えた魂の少年)・ソラ(11歳・奪衣婆の魂を持つ快活な少女)・ひかり(11歳・鋭い洞察力を持つ幼なじみ)・シジマ(クロ・豆柴の姿をした元死神の守護者)・死神(ヤミの精鋭部隊の一体・冷酷な執行者) 高山献太(亜空間に囚われたクラスメイト)・ナレーション
○廃工場・二階廊下(深夜) (トタン屋根を叩く激しい雨音 。古びた工場の廊下は湿り気を帯び、窓から差し込む稲光が、埃の舞う空気と錆びた鉄骨を不気味に浮かび上がらせる。) (カイ、ソラ、ひかりの三人が、一列になって慎重に進む。足元では豆柴のクロが、低い姿勢で周囲を警戒している。)
ソラ 「(額に汗を浮かべ、目を閉じて集中する)……こっち。この階段の奥にある、一番大きな部屋。そこから、献太くんの魂の反応がする……! 」
(ソラの瞳が、かつての奪衣婆としての力が漏れ出すように、周期的に淡い光を放つ。)
ソラ 「(鋭く手を出し、カイの胸を押さえる)待って!動かないで、カイ! 」
(カイが足を止める。ソラが指し示した三歩先の床板は、周囲と変わらぬように見えるが……。)
ソラ 「念動力の反響でわかる……そこ、床板が完全に腐ってる 。不用意に踏み込めば、一階まで真っ逆さまだよ。」
ひかり 「(震える手で懐中電灯を向け)……本当だ。よく見ると、支えの鉄骨が折れてる……。ありがとう、ソラちゃん。」
カイ 「(冷たい視線で奈落を見つめ)……単なる劣化じゃない。僕たちを阻むために、意図的に放置された罠だ。……行くぞ。敵はすぐそこにいる。」
(一行は慎重に腐った床を飛び越え、最奥にそびえる重厚な鉄の扉の前に辿り着く。扉の隙間からは、絶望的なほど冷たく、肌を刺すような死神の霊気が脈打つように漏れ出していた。)
○廃工場・最奥の部屋前 (カイが重い鉄の扉のノブに手をかけようとした、その瞬間。背後の闇が質量を持ったように揺らぎ、空間が歪む。)
死神(VO) 「ククク……。よくここまで辿り着いたな、地獄のバグども。」
(墓石を爪で引っ掻くような、耳障りで不快な声が響き渡る 。漆黒の衣を翻し、身の丈を超える巨大な鎌を携えた死神が、天井近くの闇から音もなく舞い降りた。)
死神 「だが、遊びはここまでだ。ヤミ様の命により、お前たちの魂、ここで一欠片も残さず狩り取ってくれるわ! 」
(死神が鎌を一閃させる。凄まじい殺気の波動に、ひかりが悲鳴を上げてその場にへたり込む。)
ソラ 「(二人を庇うように前に踏み出し)勝手なこと言わないで!私たちの居場所を、あんたたちなんかに壊させない! 」
(ソラが両手を突き出し、全霊の念動力を放つ。物理的な圧力となって死神を押し潰そうとするが、死神は空いた片手でその圧力を易々と弾き飛ばした。)
死神 「無駄だ、奪衣婆の娘よ 。子供の器に収まった程度の力など、我ら死神の摂理の前では児戯に等しい。」
ソラ 「(唇を噛み締め、膝を震わせる)くっ……!まだ、足りないっていうの……!? 」
(その時、一行の足元で控えていたクロが、凄まじい咆哮を上げた 。三分間の変身能力を解放し、豆柴の体はみるみる膨れ上がり、鋼のような剛毛と巨大な牙を持つ、鎧猪の姿へと変貌を遂げる。)
シジマ(鎧猪の姿) 「グオオオオオオッ!! 」
(シジマが床を蹴り、弾丸のような速さで死神へと突進する。その圧倒的な質量の衝撃に、死神も嘲笑を消し、後方へ大きく飛び退いて距離を取る。)
死神 「ほう、面白い余興だ 。冥府の落ちこぼれが、畜生の姿で必死に足掻くか。」
○鉄の扉前・乱戦 (シジマと死神が廊下で激しい攻防を繰り広げる。鎌の刃が火花を散らし、シジマの鋼の皮膚を削る。) (その間に、ひかりは恐怖を必死に抑え込み、ノートパソコンを開いて周囲の霊的周波数を分析し始めた。)
ひかり 「(モノローグ)あの死神……シジマさんの攻撃をいなしながらも、絶対に鉄の扉の前から離れようとしない。……時々、扉の奥に意識を向けてる。」
ひかり 「(鋭く叫ぶ)カイくん、ソラちゃん!あの扉に術式が集中してる! 献太くんを閉じ込めている力と、死神の力の源が連動してるんだわ!あの扉を破壊すれば、死神の守りも崩れるはず! 」
ソラ 「わかった!クロ、そのまま抑えてて! 」
(ソラが鉄の扉に向かい、全ての意識を一点に集束させる 。だが、死神が施した強力な呪術の結界が、扉の表面で黒い火花を散らし、ソラの念動力をことごとく無効化していく。)
死神 「無駄だと言っているだろう! 」
(死神がシジマの牙を鎌の柄で強引に押し込み、その隙に、空中で鎌を回転させてカイへと投げつけた 。死を告げる銀色の旋風が、動けないカイの喉元へと肉薄する。)
ソラ 「カイーーーーッ!! 」
(ソラの悲鳴が廃工場を震わせる。その瞬間、彼女の体からこれまでの制御を完全に逸脱した、荘厳で、しかし暴力的なまでの光の奔流が溢れ出した。)
ソラ 「(魂のリミッターを破壊する咆哮)カイに……私の弟に……触るなああああああああ!! 」
(ソラの感情に呼応した念動力の衝撃波が、円状に広がって空間を粉砕する 。飛来した鎌は軌道を曲げられて壁に突き刺さり、死神自身も抗いがたい衝撃に吹き飛ばされ、鉄筋コンクリートの壁に叩きつけられた。)
死神 「ぐ、あああ……!? 馬鹿な、奪衣婆の力がこれほどまでの出力を出すなど……人間の肉体が持たないはずだぞ……!? 」
○カイの精神世界・業火の記憶 (衝撃波の余波を受け、カイの意識は急速に冷え込み、暗い奈落の底へと引きずり込まれていく。) (目の前に広がるのは、かつて彼が千年の間、一秒の休みもなく耐え続けてきた地獄の光景そのものだった。)
カイ 「(モノローグ)また、この場所か……。忘れたかった。捨て去りたかった記憶。 でも、僕が地上で得た『優しさ』や『温もり』を守るためには……この千年の苦しみを、力に変えるしかないのか……。」
(カイの魂に、凝縮された苦痛の断片が、鋭い刃となって流れ込む。彼の小さな体から、黒いオーラが陽炎のように立ち上がり、工場の空気を凍りつかせる。)
カイ 「(人間のものではない、深淵からの絶叫)あああ……ああああああああああああっ!! 」
(それは憎悪や怒りを超えた、あまりにも純粋で、濃密な「苦痛」そのもののエネルギーだった。)
○廃工場・決着の瞬間 (壁から身を起こした死神は、変貌したカイの姿を見て、初めて本能的な恐怖に身を震わせた。)
死神 「な、なんだ……この魂の格は……!? お前は……一体何者だ……! 」
(カイから溢れ出した黒いオーラが、死神の精神へと直接侵食を開始する。死神は、カイが経験した地獄の苦しみのわずか百万分の一を追体験させられ、その存在の根幹が崩壊し始める。)
死神 「ぐぎゃああああああああっ!! やめろ!私の頭の中に、地獄の記憶を流し込むな!! 私が……秩序の番人である私が……恐怖を……!? 」
(誇り高き死神が、理解不能な絶望に支配され、その場に膝をついて呻く。)
ひかり 「ソラちゃん、今よ!呪術の結び目が切れたわ! 」
ソラ 「(歯を食いしばり、全ての力を右手に込める)……消えなさい!! 」
(ソラの念動力が鉄の扉を粉砕し、内側へと吹き飛ばした。部屋の中では、魔方陣のような光の檻の中で、虚ろな目をした高山献太が浮かんでいた。)
シジマ(鎧猪の姿) 「(最期の突進)これで、終わりだぁぁ!! 」
(変身の限界を迎える直前のシジマが、死神を工場の外壁ごと突き破って吹き飛ばす。死神は霧散しながら捨て台詞を残し、夜の闇に消えた。)
○公園・夕暮れ(数日後) (夕日に染まるいつもの公園。献太は無事に保護され、街を騒がせた事件は「子供の家出」として終結を見た。) (ベンチに座るカイ、ソラ、ひかり、そして足元で誇らしげに尻尾を振るクロ。)
ひかり 「ねえ、これからも大変なことが起きると思う。でも私、もっと知識を蓄えて、二人の一番の味方になるからね。」
ソラ 「ひかり……。ありがとう。ひかりがいてくれなきゃ、扉は壊せなかった。」
(カイだけが、静かに空を見上げている 。彼の脳裏には、先ほど見た地獄の残像と、自分の内に眠る「無」の力の恐怖が消えずに残っていた。)
カイ 「(独り言)……まだ、何も終わっていない。 戦いは始まったばかりなんだ。僕たちが選んだこの日常を、守り抜くまでは。」
(カイの瞳には、かつての地獄の囚人でも、ただの子供でもない、自らの運命に抗う一人の戦士の光が宿っていた。)
○スタッフロール (エンディング曲「陽だまりのパズル」が流れる。夕暮れの公園で笑い合う四人の背中が、遠ざかるカメラワークと共に映し出される。)
(第7話予告) カイ 「高校生になった僕たちは、また新しい『日常』の中にいた。」
ソラ 「ねえカイ、受験勉強の合間に、変な噂を聞いたんだけど。」
ひかり 「帝都学院大学への推薦……そして行方不明になる生徒たち。これ、絶対におかしいわ。」
ナレーション 「次回、ネザーワールド・リヴァイヴ。第7話『甘き日常と深淵の取引』。日常に溶け込む、新たな絶望の罠 。」