第7話 脚本「甘き日常、忍び寄る深淵」
【登場人物】 カイ(17歳・高校2年生) ソラ(17歳・高校2年生) ひかり(17歳・高校2年生) クロ(シジマ・豆柴の姿) 神崎(塾の特別進路指導カウンセラー・死神の協力者) ヤミ(死神統括官) ナレーション
○進受ゼミナール・自習室(夕方) (整然と並ぶデスク。受験を控えた生徒たちのペンが走る音と、時折漏れる溜息だけが響く張り詰めた空気。夕日が窓から差し込み、長い影を床に落としている。) (カイ、ソラ、ひかりの三人はいつものように隣り合った席に座り、参考書に向き合っている。ソラの足元では、クロが静かに目を閉じ、周囲の気配を探っている。)
ひかり 「カイくん、ここ……この数学の問題、ちょっと教えてくれないかな?」
(ひかりが小声で囁き、ノートをカイの方へ寄せる。カイが覗き込むと、ひかりの髪からふわりとシャンプーの香りが漂う。カイの心臓が、地獄の記憶さえも霞むほど温かい鼓動を打つ。)
カイ 「ああ、ここはね……この公式を先に当てはめるんだ。」
(カイの指先がひかりのノートの上で動く。ひかりはその数式ではなく、問題を解説するカイの真剣な横顔を見つめている。)
ソラ 「(少し離れた席で呆れたように)まったく、じれったいんだから。さっさとくっつけばいいのにね。」
クロ 「(心の中で欠伸をしながら)まあ、見てる分には面白いがな。」
(平和で、どこか甘酸っぱい日常。だがその裏側で、不穏な影が着実に忍び寄っていた。)
○塾の廊下 (数人の生徒がひそひそと噂話をしている。その中心には、最近急激に成績を上げ、難関私立「帝都学院大学」への推薦枠を獲得した生徒がいる。)
生徒A 「あいつ、神崎先生のカウンセリングを受けてから別人のようだよな。」
生徒B 「でも、その代わりに高額な寄付金と、帰ってこられない海外研修への参加が条件だって噂だよ……。」
(その様子を、ソラは鋭い感覚で捉えていた。彼女の魂は、カウンセリングルームから漏れ出す、不自然に淀んだ死神の気配を敏感に察知していた。)
○ひかりの部屋(夜) (薄暗い部屋で、ひかりが複数のモニターを並べ、高速でタイピングしている。彼女は独学で身につけた情報収集能力で、塾の不審な金の流れを追っていた。)
ひかり 「(モノローグ)神崎という男、経歴が不自然すぎるわ。推薦と引き換えにサインさせている『海外特別研修』……これ、行き先が紛争地域の隣国じゃない。」
(ひかりの顔に緊張が走る。画面には、行方不明になった若者たちのリストと、背後に見え隠れする国際的人身売買シンジケートの影が映し出されていた。)
ひかり 「カイくんたちに伝えなきゃ。これは死神たちが人間の欲と弱さを利用して、地上に新たな地獄を作ろうとしているんだわ!」
○夜の街路(数日後) (塾からの帰り道。ひかりは一人、街灯の少ない夜道を急いでいた。不意に、後方からライトを消した黒いワゴン車が音もなく近づく。)
ひかり 「……!?」
(逃げ出す間もなく、数人の男たちが車から飛び出し、ひかりの口を塞ぐ。彼女の抵抗は虚しく、無理やり車内へと引きずり込まれた。)
○アパート・カイの部屋 (カイが勉強机に向かっていると、置かれたスマートフォンが震える。非通知の電話だ。)
カイ 「……もしもし。」
男の声 「(歪んだ音声)相沢ひかりは預かった。助けたければ、一人で来い。場所は湾岸地区の第7倉庫だ。警察に知らせれば、女の命はない。」
(電話が切れ、カイの全身から血の気が引いていく。掌が氷のように冷たくなる。)
ソラ 「(部屋に入ってきて)カイ、どうしたの!?顔色が……。」
カイ 「……ひかりが、攫われた。僕を狙った罠だ。」
(カイの瞳から色が消え、千年の地獄の冷徹さが蘇る。止めるソラを振り切り、彼は一人で夜の街へ駆け出した。)
○湾岸地区・第7倉庫(深夜) (潮騒と錆びた鉄の匂いが混じる倉庫。カイが重い扉を開けると、そこには椅子に縛り付けられたひかりがいた。)
神崎 「よく来たな、極上の商品候補くん。お前も一緒に、絶望の海へ送ってやろう。」
(神崎の背後には、地獄の番人たちの異形の影が揺らめいている。さらに天井の闇から、死神統括官ヤミが姿を現した。)
ヤミ 「カイ、お前の弱点はその女だ。大切なものを守れない無力感こそが、魂を最も美しく壊す。」
(神崎がひかりの首筋にナイフを突き立てる。カイの動きが止まり、彼の内の「空虚」が暴走しかける。)
ひかり 「(叫ぶように)カイくん!私を信じて!」
(ひかりの揺るぎない信頼の瞳が、カイの魂に光を差す。カイの中で「空虚」と「言霊」が一つに融け合い、現実を書き換える新たな力が覚醒した。)
カイ 「(静寂の中に響く声)……世界は、かくあるべし。お前たちの不浄な欲望を、この場から『無かったこと』にする。」
(カイから放たれた不可視の波紋が倉庫を包む。番人たちの力は霧散し、構成員たちは自らの目的を忘れた抜け殻のように立ち尽くした。)
○海岸沿いの防波堤(明け方) (事件は解決し、救出されたひかりとカイが、昇り始めた朝日を見つめている。)
カイ 「ごめん、ひかり。僕がもっと強ければ、こんな思いをさせずに済んだのに。」
ひかり 「ううん。カイくんが来てくれた、それだけで十分だよ。」
(二人の唇が自然に重なる。それは潮の香りと涙の味がする、初めてのキスだった。)
カイ 「(モノローグ)この温もりを、僕が死ぬまで守り抜く。たとえ、どんな神が僕たちの未来を邪魔しようとしても。」
○スタッフロール (エンディング曲「陽だまりのパズル」が流れ始める。平和に戻った塾の自習室。空席になった神崎のデスクの上に、一輪の向日葵が置かれているカット。)
(第8話予告) カイ 「ようやく掴んだ幸せ。でも、神々はそれを許してはくれないのか。」
ソラ 「学校全体が、何か変な壁に包まれてる!これ、結界だよ!」
ヤミ 「選抜試験を始めよう。生き残れるのは、ただ一握りだ。」
ナレーション 「次回、ネザーワールド・リヴァイヴ。第8話『虚無の覚醒と学び舎の悪夢』。地獄と化したキャンパスで、絆が試される。」