第10話 脚本「天逆鉾の神意、絶望の連鎖」
【登場人物】
カイ(19歳・大学生・「空虚」と「言霊」の力を宿す青年)・ソラ(19歳・大学生・元奪衣婆の魂を持つ少女)・ひかり(19歳・大学生・事態を冷静に分析する知恵袋)・クロ(元死神シジマ・不屈の番犬)・鬼塚(大学の新学長・その正体はスサノオ)・死神教官たち(感情の欠落した不気味な教師陣)・学生たち・ナレーション

○帝都学院大学・メインキャンパス(昼) (抜けるような青空。キャンパス内には若さゆえの活気が溢れ、新入生を勧誘するサークルの立て看板が並び、学生たちが談笑しながら歩いている。カイ、ソラ、ひかりの三人もまた、講義の合間の穏やかな時間を楽しんでいた。) (ベンチに座り、ひかりが持参した水筒のコーヒーを飲むカイ。その隣でソラはスマートフォンの画面を見ながら笑っている。足元ではクロが春の陽光を浴びて目を細め、静かに尾を振っている。)

カイ 「……ようやく、普通の大学生としての日々が始まった気がするよ。」

(カイが穏やかに微笑む。その瞳には、かつての地獄の苦痛や死神との死闘の影はなく、ただ平和な日常の光が宿っている。)

ソラ 「もう、あんな怖い思いは御免だよね。これからは試験とレポートに追われる、普通の生活を楽しも!。」

(快活に立ち上がるソラ。だがその瞬間、キャンパスの中央にそびえる時計塔の鐘が、これまで聞いたこともないような不気味な音色で響き渡った。)

○大学・大講堂(午後) (緊急に全学生が集められた講堂。数百人の学生がざわつく中、壇上に一人の男が姿を現す。新学長・鬼塚だ。) (彼の背後には、感情の欠落した能面のような顔をした新任教授たちが、衛兵のように整然と並んでいる。)

鬼塚 「静粛に。帝都学院大学の未来ある若者たちよ。私は本日この時を以て、この学び舎を真のエリート育成機関へと再定義する。」

(鬼塚の声は朗々としており、聴衆の心を掴む巧みな弁舌の中に、抗いがたい威圧感と神がかり的な魔力が宿っている。)

鬼塚 「この不確かな世を生き抜くために必要なのは、甘い協調ではない。他者を圧倒する強さ、そして絶対的な秩序だ!。」

(その演説に、一部の学生たちが熱狂の声を上げる。だが、講堂の隅に座るカイたちの表情は硬い。)

ひかり 「(震える声で)……おかしいわ。彼の言葉、選民思想を巧妙に植え付けている。まるで独裁国家の教育理念よ。」

ソラ 「……千里眼が暴れてる。あの男の影から、ドロドロとした黒い闇……憎悪のようなものが流れ込んでくるのが見えるわ。」

クロ(心の声) 「(念話)小僧、気を引き締めろ。奴の気配は人間のそれではない。……黒き学び舎の、あの救いようのない傲慢な神の臭いだ!。」

○大学・講義室(数日後) (大学の風景は、鬼塚の就任とともに急速に変貌を遂げていった。) (法学の講義では、正義ではなく、法の網を潜り抜けて他者をいかに合法的に支配するかが説かれている。) (心理学の講義は、人の心の弱さを正確に突き、洗脳によって意のままに操るための技術解説へと変わっている。)

(トレーニングルームでは、学生たちが死神教官の監視下で、肉体の限界を超えた不可解な負荷を強いられている。)

カイ 「(モノローグ)キャンパスから『自由』が消えていく。代わりに満ちているのは、他者を敵とみなす、殺伐とした熱気だけだ。」

○ひかりのアパート(夜) (暗い部屋。ひかりが複数のモニターを並べ、大学の内部サーバーから得たデータを高速で解析している。)

ひかり 「……わかったわ。新任教授たちの経歴はすべて偽造……いいえ、過去が存在しないのよ。彼らの正体は、冥府から召喚された死神教官たちだわ。」

(背後でデータを見ていたカイとソラが息を呑む。)

ひかり 「鬼塚の正体は、おそらくスサノオ。彼はこの大学そのものを、地上に再現された『黒き学び舎』……死神養成校へと変えようとしているのよ!。」

クロ(心の声) 「(念話)……奴の狙いは、人間の魂を極限まで追い詰め、良心を摩耗させることだ。ここはもう学び舎ではない。魂の実験場だ。」

○大学・グラウンド(朝) (鬼塚の就任から一週間後。全学生がグラウンドに招集される。) (壇上の鬼塚が、朝日を背にして酷薄な笑みを浮かべる。)

鬼塚 「諸君、最終選抜の開始を宣言する。これから一週間、この敷地内で生き残りを賭けた試練に挑んでもらう!。」

(鬼塚が手を天に掲げると、大学全体を覆い尽くす巨大な半透明のドーム状の結界が展開される。)

鬼塚 「食料も水も限られている。他者を蹴落とし、尊厳を奪い、最後に私の足元まで辿り着いた者だけが、新世界の使徒となる資格を得る!。」

(パニックに陥った学生たちが校門に押し寄せるが、不可視の壁に弾き返され、地面に叩きつけられる。)

鬼塚 「安心したまえ。この選抜においてはいかなる行為も許可する。……たとえそれが、隣にいる者の命を奪うことであってもな!。」

(その一言が、学生たちの理性の枷を完全に外した。) (飢えと恐怖、そしてスサノオの放つ狂気の波動に支配された若者たちが、手近な備品を武器にして殺し合いを始める。)

○グラウンド・中央 (阿鼻叫喚の地獄絵図と化したキャンパスの中央で、カイ、ソラ、ひかり、そしてクロが背中合わせに陣取る。)

ソラ 「(念動力を手に纏わせ、唇を噛む)やるしかないんだね……。私たちの日常を、こんな神様の勝手な遊びで壊させない!。」

カイ 「……ああ。スサノオ。お前の作ったこの偽りの地獄、僕たちの絆ですべて無に帰してやる。」

(カイの瞳には、一切の迷いのない、漆黒の決意が宿っていた。二歳、七歳、十一歳、十七歳……これまでのすべての戦いが、この一瞬に集約されていく。)

ナレーション 「神々の遊戯盤と化した大学。少年が選ぶのは、秩序の再生か、それともすべてを拒絶する虚無か。最悪の七日間が、いま幕を開ける。」

○スタッフロール (エンディング曲「陽だまりのパズル」が流れ始める。) (かつて笑い合った学食、共に歩いた並木道が、結界の闇に沈んでいくカット。)

(第11話予告) カイ 「僕の力が逆流している……!?これが神の武器、『天逆鉾』の神意か。」

ソラ 「カイ!自分を失わないで!。」

天照 「……もはや猶予はありません。禁断の裁きを。」

ナレーション 「次回、ネザーワールド・リヴァイヴ。第11話『天逆鉾の神意』。死の直前、一筋の光が時を巻き戻す。」