第11話 脚本「時を遡る裁き、二度目の奇跡」
【登場人物】
カイ(19歳・「空虚」と「言霊」の力を宿す青年)・ソラ(19歳・奪衣婆の魂を持つ戦う少女)・ひかり(19歳・事態を冷静に分析する知恵袋)・クロ(元死神シジマ・不屈の番犬)・マドウ(死神の衣を纏った冷酷な執行者)・矢倉(狂気に染まったかつての友人)・鬼塚(スサノオの分身・絶望を嘲笑う者)・天照皇大神(高天原を統べる最高神)・ナレーション
○帝都学院大学・図書館・一階(夜) (照明の消えた重苦しい館内。非常灯の鈍い赤が、折り重なるように積み上げられた書架のバリケードを不気味に照らし出している。外からは、叩きつけるような雨音を切り裂く破壊音と、理性を失った学生たちの怒号が絶え間なく聞こえてくる。) (ひかりは震える手でノートパソコンのキーボードを叩き、大学内の監視カメラ映像と霊的周波数の解析を続けている。彼女の額からは、極度の緊張と恐怖による汗が滴り落ちている。)
ひかり 「……解析結果が出たわ。学内放送から流れているのは、地獄の番人たちの『不協和音』……。みんな、脳の扁桃体を直接刺激されて、原始的な恐怖と攻撃性を暴走させられているのよ……!」
(バリケードのすぐ向こう側から、聞き慣れた声が響く。だが、その声にはかつての穏やかさは微塵もなく、飢えた獣のような響きがある。)
矢倉(VO) 「カイ!ソラ!そこにいるんだろ!。開けろよ!。俺たちは腹が減ってるんだ!。お前たちだけ、安全な場所に隠れているなんて許さないぞ!」
(激しい衝撃。消火器や鉄パイプで扉が叩かれ、図書館の強化ガラスに蜘蛛の巣状の亀裂が走る。)
ソラ 「(拳を握りしめ、唇を噛む)……矢倉くん……。あんなに仲が良かったサークル仲間なのに……。千里眼で視える彼らの魂は、もうドロドロとした死神の霧に飲み込まれてるわ……!」
(カイは暗闇の中、静かに、しかし断固とした所作で立ち上がる。彼の瞳には、一切の光を拒絶し、すべてを飲み込むような深淵なる漆黒が宿っている。)
カイ 「ソラ、ひかり、クロ。……君たちはここから動かないでくれ。矢倉くんたちを傷つけるわけにはいかない。……僕が、この理不尽な地獄を止めてくる。」
○図書館・エントランスホール (バリケードが凄まじい衝撃音と共に崩落し、数百冊の書籍が雪崩のように床へ散らばる。破壊された入り口から、狂気に目を血走らせた数十人の学生が、鉄パイプや瓦礫を手に同時になだれ込んでくる。)
矢倉 「見つけたぞ、カイ!。お前さえ……お前さえいなければ、俺たちは神の使徒として選ばれたはずなんだ!」
(矢倉が振り下ろした鉄パイプが空を切り、カイの頭上へと迫る。だがカイは微動だにせず、ただ静かに目を閉じる。)
カイ 「……世界は、かくあるべし。……君たちの心に植え付けられた、偽りの狂気。それを、この場から『無かったこと』にする。」
(カイが目を開けた瞬間、漆黒の波紋がエントランスホール全体を静かに侵食していく。波紋に触れた学生たちは、一瞬にして憑き物が落ちたように表情を失い、そのまま床に崩れ落ちて深い眠りについた。)
○図書館・奥の間 (静寂が戻ったホールに、乾いた拍手の音が響く。天井近くの闇から、漆黒の死神の衣を纏った冷酷な執行者・マドウが音もなく舞い降りる。)
マドウ 「ククク……。見事なものだ、カイ。人間の器でありながら、神の理に干渉し、改変するとはな……。だが、その『優しさ』が貴様の命取りになる。」
(マドウが懐から、禍々しい紫色の光を放つ一本の矛を取り出す。それはスサノオから与えられた神の武具『天逆鉾』の写しであった。)
マドウ 「この矛は、あらゆる理を逆転させ、捻じ曲げる。貴様が放つ『無』の力……それを貴様自身へと流し込んだ時、その魂がどう砕け散るか……特等席で見せてみろ!」
(マドウが矛を突き出す。異変を察知したソラが悲鳴を上げながら、カイを庇うように割って入る。)
ソラ 「やめて!。カイに……私の弟に触らせない!!」
(ソラの全霊を込めた念動力が放たれるが、天逆鉾の矛先がその力を瞬時に吸収し、倍の威力でソラ自身の肉体へと跳ね返した。ソラの肩を鋭い痛みが貫き、彼女は鮮血を撒き散らして床へ沈む。)
カイ 「ソラ!!」
(姉の負傷に激昂したカイの背後から、黒いオーラが爆発的に膨れ上がる。だが、それこそがマドウが待ち望んでいた瞬間であった。)
マドウ 「今だ!。死ね、カイ!!」
(マドウが天逆鉾をカイの胸元へと突き立てる。カイが放った絶大な虚無のエネルギーが、矛を媒介にして彼自身の魂へと逆流を開始した。カイの細胞の一つ一つが、自らの強大すぎる力によって内側から崩壊していく。)
カイ 「(言葉にならない絶叫)あ……あああああああああああああああああっ!!」
(カイの意識が暗転する。彼が守ろうとした日常、ひかりの笑顔、ソラの温もり、すべてが「無」へと還元されていく絶望感が彼を包む。)
○高天原・神殿の深奥 (神鏡に映し出される、敗北し、命の灯火が消えゆく少年たちの姿。天照皇大神は、頬を一筋の涙が伝うのを感じる。)
天照 「……もはや、猶予はありません。……禁断の裁き、『時遡行』を……。わが魂のすべてを賭して、この失われた時間を、過ちが始まる前の始原へと還しましょう。」
(天照が八咫鏡を自らの胸に当てると、彼女の神々しい姿が眩い光の粒子となって崩壊を始めた。その光は時間を逆流させ、絡まり合った因果の糸を力強く巻き戻していく。)
○図書館・一階(数時間前) (激しい閃光が走り、気づくとカイは再び図書館の冷たい床に膝をついていた。視覚が明瞭になり、音の世界が戻ってくる。) (目の前には、まだ傷を負っていない無事なソラと、キーボードを叩くひかりの背中がある。)
カイ 「(肩を上下させ、荒い息をつきながら)……今のは……?。夢じゃない……。僕たちは……一度……完全に死んだのか……?」
(カイの瞳に、敗北の記憶と、それを覆すための新たな決意が同時に宿る。彼の魂には、これから起こる悲劇のすべてが焼き付いていた。)
ひかり 「カイくん……?。急にどうしたの?。顔色が真っ青よ。」
カイ 「(ひかりの手を強く握りしめ)……ひかり、ソラ、聞いてくれ。……これから何が起きるか、僕には分かっている。……今度こそ、誰も死なせない。」
(カイの手の温もりが、ひかりの不安を打ち消すように伝わる。絶望の未来を知る少年は、二度目の奇跡に向けて立ち上がった。)
ナレーション 「最悪の結末を書き換えるため、少年は二度目の生を駆け抜ける。運命の逆行、その先に待つのは、真実の陽だまりか、それともさらなる深淵か。」
○スタッフロール (エンディング曲「陽だまりのパズル」が静かに流れ始める。巻き戻っていく時計の針と、強い意志を宿したカイの鋭い瞳が重なり合う、緊迫した演出。)
(第12話予告) カイ 「スサノオ。お前が作ったこの歪んだ理、僕たちの絆ですべて消し去ってやる。」
ソラ 「未来が分かってるなら、もう怖いものなんてないよ!今度こそ、全力で行くから!」
ひかり 「最後の選択。……神様になんてならなくていい。私は、あなたと一緒に歩きたいの。」
ナレーション 「次回、ネザーワールド・リヴァイヴ。最終話『陽だまりの誓いを君と』。愛する者たちのために、少年は神を超えてゆく。」