第1話:邂逅 ―陽だまりと影の境界線―
【登場人物】
カイ:陽だまり探偵事務所所長。千年の地獄刑期を終えた元囚人。
ソラ:カイの双子の姉。元エリート奪衣婆。
高清水涼子:記憶喪失の元天使。神戸の令嬢。
詫間亨:涼子の保護者。最先端技術を操る科学者。
北條孝子:川崎を拠点とする「東の魔女」。
ガーディ:孝子に仕える影の執事。
クロ(シジマ):豆柴の姿をした地獄の死神。
【劇中武器・能力】
カイ:言霊(ことだま)万物の定義を書き換える根源的な力。
「拒絶(リジェクト)」で物理・概念攻撃を遮断し、「崩壊(クラッシュ)」で対象の存在定義を上書きして消滅させる。
ソラ:三途の蹴撃元奪衣婆の霊力を込めた体術。
霊体に直接干渉する青白い炎を纏い、物理無効の敵をも粉砕する。
高清水涼子:天界式・電磁ショックバトン物理破壊よりも神経伝達の焼失に特化した「論理」の武器。
青白い雷撃を放ち、敵の構成エネルギーを数式を解くように分解・消去する 。
北條孝子:地獄の千枚通し地獄の鉱石で作られた鋭利な針。
そこから放たれる紅蓮の業火は対象を内側から焼き尽くし、再生能力を阻害する 。
クロ(シジマ):魂狩りの大鎌影の中から取り出す巨大な鎌。
一閃で数百の怪物を両断し、その魂を刈り取る。
詫間亨:ナイトオウル対霊的・電子的ステルス車両。
光学迷彩、重力制御、次元解析機能を備え、後方支援の要となる。
序章:紫色の侵略
(東京湾上空・深夜) 一月の下旬、凍てつくような冬の夜空が、前触れもなく禍々しい「紫色」に染まった 。それは北極圏のオーロラのような幻想的な美しさではなく、空という皮膚が裂け、内側からドス黒い血液が滲み出したかのような不気味な光のカーテンだった 。
気象庁は「稀な太陽フレアの影響」と発表し、ネット上では天体ショーだと騒ぎが起きる 。しかし、世界の「理(ことわり)」を知る者たちだけは、それが宇宙の外側『混沌の海』からの侵略の狼煙であることを肌で感じ、震えていた 。
第一章:日常に混じるノイズ
(横浜・陽だまり探偵事務所) 石油ストーブの上で薬缶がシュンシュンと音を立てる穏やかな午後 。 所長のカイは、マグカップに注がれた珈琲の苦味を噛み締め、生きている実感を味わっていた 。
ソラ:「ちょっとカイ!悠長に珈琲飲んでる場合!?今月の光熱費、これ見てよ!」 双子の姉であり元エリート奪衣婆のソラが、電卓を叩きながら請求書の束を突きつける 。
足元で丸くなっていた豆柴のクロが、めんどくさそうに片目を開ける 。 そこへ、作業着姿の初老の男性・権田が駆け込んできた 。彼の瞳は虚ろで、顔色は土気色をしている 。
権田:「……家が……私の家が、毎晩『紫色』に染まるんです。壁のシミが……動くんだ……!」
カイとソラは顔を見合わせる。彼から漂うのは、腐った水のような霊的な「穢れ」の匂いだった 。
第二章:湾岸の異界
(川崎臨海部・権田の自宅) 夕暮れ時。巨大な工場の影に隠れるように建つ古い一軒家 。 同行した幼馴染みのひかりがタブレットを確認し、悲鳴に近い声を上げる 。
ひかり:「電磁波も重力波も異常値……。この家の中、物理法則が少しズレてるわ!」
二階の寝室の襖を開けた瞬間、空気は凍りついた 。夕闇の中、窓からの光とは無関係に、毒々しい紫色の燐光が部屋を満たしている 。壁紙の模様が蛇のように蠢き、ドス黒い液体が滲み出していた 。
カイ:「霊障じゃない……これは『侵蝕』だ。別の次元の法則が、この世界を塗り替えようとしている」
壁から盛り上がった黒い液体が、目も鼻もない不定形の怪物へと形を成し、権田に襲いかかる 。
ソラ:「させないわよッ!地獄仕込みの奪衣婆キック、味わいなさい!」 ソラの鋭い蹴りが炸裂するが、怪物の身体は「虚数」に近く、攻撃がすり抜けてしまう 。
カイ:「存在の定義を書き換える。貴様は『怪物』ではない。ただの『塵』だ。……『崩壊(クラッシュ)』!」 カイの放った言霊が空間をガラスのように砕き、強制的に存在を定義し直された怪物は、紫色の結晶を残して蒸発した 。
だが、窓の外を見れば、多摩川河口付近の空が、さらに濃密な紫色に発光し始めていた 。
第三章:それぞれの覚醒
(神戸・高清水邸) 豪華な音楽室で、記憶を失った元天使・涼子は悪夢にうなされていた 。夢の中で彼女は白い翼を持ち、青い雷の鞭を手に、赤い炎を纏う黒衣の少女と対峙している 。
涼子:「亨さん……空が、泣いとうわ。あの光、何かが間違(まちが)うてます」 迎えに来た科学者の亨に対し、涼子は無意識にヴァイオリンケースに隠された特注のショックバトンを掴む 。彼女の魂に刻まれた「秩序」への渇望が、あの光を「美しくないノイズ」だと断じていた 。
(川崎・北條邸) 一方で、北條家の当主・孝子はテラスで冷ややかな笑みを浮かべていた 。 孝子:「下品な色ですこと。まるで安物のペンキをぶちまけたようですわ」 執事のガーディが影から現れ、以前遭遇した「神託」よりも濃密な混沌の気配を報告する 。孝子の手の中で、地獄の業火を宿す千枚通しが赤く脈打っていた 。
第四章:境界線上の遭遇
(多摩川河口・埋め立て地) 紫色のオーロラが最も強く降り注ぎ、空間そのものが蜃気楼のように歪む特異点 。 最初に到着した陽だまり探偵事務所の面々の前に、黒い塊――「混沌の種子」が這い出す 。
カイが言霊を紡ごうとした瞬間、闇夜を切り裂く一本の「針」が怪物を貫き、赤い炎が燃え上がった 。 積み上げられたコンテナの上に、黒いドレスコートを翻す孝子が立っている 。
孝子:「ごきげんよう、奇妙な『同業者』の方々」
そこへ、音もなく滑り込んできた漆黒のステルス車両から、白いコートの涼子と白衣の亨が降り立つ 。 記憶はないはずの涼子の視線が、孝子に吸い寄せられた 。
孝子:「あらあら……どこの迷子の小鳥かと思えば。随分と腑抜けた顔になりましたこと、堕天使様」
「陽だまり」「混沌」「秩序」。三つの勢力が対峙し、一触即発の緊張が走る 。
第五章:不協和音の協奏曲
(アクション・クライマックス) その一瞬の隙を突き、空間の裂け目が一気に拡大した。ビル一棟を握りつぶせるほどの巨大な「腕」が出現し、三つのグループを圧殺しようと振り下ろされる 。
カイ:「『拒絶(リジェクト)』!」 カイの言霊が不可視の障壁となり、巨大な衝撃を受け止める。
孝子:「舞いなさい、紅蓮!」 孝子の千枚通しから放たれた地獄の業火が、腕の筋肉組織を焼き焦がしていく。
涼子:「そこやわ!」 涼子が振るったショックバトンから、完璧な「論理」の一撃である青白い雷撃が奔る 。敵の神経伝達を焼き切り、防御の薄い一点を粉砕した 。
三つの異なる力が一点で交錯し、巨大な腕は光の粒子となって消滅した 。
第六章:宣戦布告
静寂が戻った埋め立て地。三人は互いの力を見せつけられ、警戒の中で再び対峙する 。 孝子:「なかなか、良い『不協和音(ディスコード)』でしたわね」
その時、吹き飛ばしたはずのオーロラが再び渦を巻き、人の形を成して降りてきた 。黒いスーツを着た、目も鼻もない**「顔のない男たち」**だ 。
顔のない男:『歓迎しよう、イレギュラーたちよ。これより、第三次選別を開始する。勝者には新世界の神となる権利を。敗者には永遠の虚無を』
それは、平穏を求めるカイにとっても、退屈を嫌う孝子にとっても、自分を探す涼子にとっても、看過できない挑発だった 。
カイ:「上等だ。地獄の底まで付き合ってやるよ」 孝子:「わたくしの『お稽古』の時間ですわ」 涼子:「美しゅうないわ。あなた方ごときが、わたくしたちを『選別』するやなんて」
陽だまりと、混沌と、秩序。 異なる物語を歩んできた神殺しの英雄たちによる、最悪で最強の狂宴が、今幕を開ける―― 。
(第1話・完/第2話へ続く)