第10話:侵蝕の箱庭 ―甘き腐敗の楽園―
【特殊武器・術式:都市剪定(シティ・プルーニング)】
高清水涼子 論理・電撃剪定(ロジック・エレクトロ・プルーニング)
 敵の神経系(導管)を瞬時に解析。物理的な切断ではなく、成長信号のみをピンポイントで焼き切ることで、巨大植物の機能を完全停止させる。

北條孝子 紅蓮・彼岸花(クラスター・アマリリス)
 着弾点から複数の炎の触手が開花するように広がり、周囲の有害植物のみを分子レベルで蒸発させる範囲攻撃。

カイ 言霊・虚空衝(ヴォイド・インパクト)
 正面の空間そのものを殴りつけ、不可視の衝撃波で植物の防壁に巨大な風穴を開ける。

フローラ 捕食華(プレデター・ブルーム)
 薔薇と食虫植物を合成したような巨大怪異。攻撃衝動を栄養として吸収し、再生する性質を持つ。

シーン1:英雄たちの憂鬱な日常
(陽だまり探偵事務所) 「バベルの楔」崩壊から一週間。ニュースでは「大規模な磁気嵐による集団幻覚」として事件が隠蔽され、世界は偽りの平穏を取り戻していた。 所長のカイは、今月の家賃請求書を手に机に突っ伏している。

カイ:「世界を救った報酬が家賃滞納かよ……。神様ってのは随分と渋チンだな」
ソラ(モヤシ炒めをフライパンで揺らしながら):「文句言わないの!今日は『迷いインコ』の捜索依頼が入ってるんだから!」

平和すぎる光景だが、カイと豆柴のクロは、街の空気に混じる「腐りかけの果物のような甘ったるい匂い」に警鐘を鳴らしていた。

シーン2:震源地・渋谷
(渋谷スクランブル交差点) 若者たちが行き交う交差点で、一人の女子高生が落としたスマホから、コンクリートを突き破って緑色の「蔦(つた)」が急成長する。 一瞬にして信号機を飲み込み、ビルを覆い尽くす異常植生。地面からは鮮やかな紫色の巨大な花が咲き乱れ、ピンク色の花粉を噴き上げた。

若者たち:「うわっ、すげえ!」「……あはは、幸せ……」 花粉を吸い込んだ人々は、恐怖を忘れた「とろけるような笑顔」で膝から崩れ落ちていく。それは思考能力を奪い、「幸せな家畜」に変える精神毒だった。

シーン3:それぞれの出撃
(神戸・高清水邸)

涼子は窓の外の凪いだ海を見つめていたが、亨の持ってきたデータを見るなり顔を歪める。 涼子:「美しゅうないわ。混凝土(コンクリート)を無理やり犯して、人の心を薬漬けにするなんて。……剪定(せんてい)の時間ですわ」 純白のコートを羽織り、リミッターを外したバトンを掴む。

(川崎・北條邸) テラスで紅茶を一口飲んだ孝子も、不機嫌そうにカップを置いた。 孝子:「腐った百合と消毒液を混ぜたような、『偽善』の匂いがしますわ」
ガーディ:「渋谷で大規模な植物災害が発生。住民が『幸福な夢』に囚われているようです」
孝子:「退屈しのぎに、景気よく燃やして差し上げますわ!」

シーン4:再会の交差点
(渋谷・ハチ公前広場) 蔦に覆われた広場に、三つの影が集結する。 上空から降下する「ひだまり号」、西から滑り込む「ナイトオウル」、路上を爆走してきた北條家のリムジン。

カイ:「よお。一週間ぶりか? 相変わらずろくなことが起きない街だな」
涼子:「見てください。人間を肥料扱いするなんて、論理的(ロジック)に許せませんわ」

その時、街頭ビジョンがジャックされる。紫色の髪を持つ無邪気な少女が映し出された。
フローラ:『ごきげんよう。私は「神託」の庭師、フローラ。この荒れ果てた星を、新しい秩序の花で綺麗にしてあげるわ』 大地が割れ、交差点中央から巨大な植物の怪物「捕食華」が出現する。

シーン5:不協和音の園芸作業
(バトル・クライマックス) 捕食華の触手が、花粉で動けなくなった人々を飲み込もうとする。
涼子:「『論理・電撃剪定(ロジック・エレクトロ・プルーニング)』!」 涼子のバトンから放たれた電撃の刃が、人々を傷つけることなく触手のみを根元から焼き切った。

しかし、怪物は攻撃衝動をエネルギーとして急速再生する。
孝子:「あら、面倒くさい。なら、燃やし尽くせば関係ありませんわ!」
孝子:「『紅蓮・彼岸花』!」 巨大な爆炎の彼岸花が広場に咲き、怪物の外殻を溶解させた。

カイ:「道は空けたぜ! 涼子さん!」 カイの「虚空衝」が怪物の防壁を貫通し、中心核を露出させる。

涼子:「あなたいの言う『楽園』なんて、ただの『ゴミ捨て場』ですわ!」 涼子は空中へ跳躍。バトンの出力を最大にまで高める。
涼子:「『論理・蒼穹穿孔(ロジック・スカイ・ピアッサー)』!!」 青い雷撃の槍が正確に主根の核を貫いた。植物の細胞が一瞬で沸騰し、巨体は光の粒子となって霧散した。

シーン6:エピローグ・残された種
爆風が収まり、人々が次々と正気を取り戻していく。 消えゆくビジョンの向こうで、フローラは不敵に微笑んだ。
フローラ:『種はもう、みんなの「心の隙間」に撒いたもの。……また会いましょう、乱暴な庭師さんたち』

夕暮れの渋谷。泥だらけの三人は、カフェのテラス席で一息つく。
涼子(汚れを払いながら):「不完全やからこそ、人は自分で選んだ『好き』のために足掻けるんです。……マナーのなってない子でしたわ」
カイ:「種は撒かれた、か……。なら俺たちはそれを刈り取るだけだ」

彼らが立ち去った路地の影、一粒の「紫色の種」が静かに脈動していた。

(第10話・完/第11話へ続く)