第6話:欺瞞の回廊 ―鏡合わせの理想郷―
【詳細武器・術式:深層意識の共鳴】
カイ 言霊・解呪(リリース)
 対象の魂に直接「光」を流し込み、負の定義や呪縛を内側から弾け飛ばす。プログラム化された模倣体に対し、定義の矛盾を突いて強制終了させる 。

高清水涼子 論理・存在証明(ロジック・アイデンティティ)
「不完全な自分」こそが真実であるという強い確信をエネルギーに変換する。過去の理想の幻影をノイズとして処理し、現実の自己を固定化する絶対的な認識防壁 。

北條孝子 紅蓮・焦熱地獄(バーニング・プライド)
 自身の「罪」と「傲慢さ」を肯定し、それを燃料として爆発的な業火を放つ。周囲の精神汚染や幻覚を、その苛烈な自己主張によって焼き払う 。

ソラ 強制成仏(強制終了)
 卒塔婆を用いて、実体のない霊体やプログラム体に物理攻撃ではない「成仏(システムの強制シャットダウン)」を叩き込む 。

シーン1:日常という名の皮膜
(陽だまり探偵事務所・翌朝) 「バベルの楔」の出現から一夜。関東地方は抜けるような冬の晴天に恵まれていた 。ニュースでは昨夜の現象を「大規模な太陽フレアによる磁気嵐」と報じ、川崎の惨状も「ガス爆発」として処理されている 。

カイ(コーヒーを啜りながら窓の外を見つめ):「……平和なもんだな。世界が半分あっち側に持っていかれそうになってるのに」 カイの目には、認識阻害の結界に守られた巨大な黒い結晶の塔が、天を突き刺す墓標のように見えていた 。

ひかり(モニターを指差し):「あと72時間よ。それまでにあの塔を止めないと、関東エリアは完全に『混沌の海』の一部として上書き保存(オーバーライド)されちゃう」
カイ:「カップラーメンができるのを待つよりは長いが、世界を救うには短すぎるな。……行くぞ、退去勧告を突きつけにな」

シーン2:三つの鍵
(多摩川河口・バベルの楔 前) 正午、黒い巨塔の門の前に、三つの勢力が吸い寄せられるように集結した 。 孝子:「あら、あなた様たちも物好きですわね」
涼子:「偶然ですわ……と言いたいところですけど、必然のようですわね」

扉には三つの「窪み」がある。炎、雷、そして空の円環 。 亨:「我々を『選別』するためのテストです。協力する意志があるかどうかを試している」 三人は不本意ながらも窪みに手をかざす。カイの「言霊」、孝子の「業火」、涼子の「雷光」が混ざり合い、重低音と共に巨大な扉が左右にスライドして開いた 。

シーン3:狂気のエッシャー空間
(塔の内部・第1層「欺瞞の回廊」) 一歩踏み入れた先は、空間認識能力を嘲笑うような狂気の世界だった 。床が壁になり、壁が天井へとねじれ、重力が不均一に狂っている 。

涼子:「空間座標がめちゃくちゃですわ。まるで酔っ払いの見た悪夢の中に放り込まれたみたいです」 周囲の壁から水銀のように滑らかな「鏡」がせり出し、三人を取り囲む 。そこに映し出されたのは、現在の姿ではなかった。

シーン4:あり得たかもしれない幸福
(回廊・精神攻撃の連鎖) 涼子の鏡には、純白の翼を持ち、戦いも憎しみもない天界で竪琴を弾く「理想の自分」が映る 。 鏡の涼子:『戻っておいで、涼子。地上は不潔で、非論理的。ここなら永遠に美しいままでいられる……』

孝子の鏡には、血の匂いなど微塵もしないティータイムで、友人と談笑する「普通の少女」としての自分が 。
鏡の孝子:『もう頑張らなくていいのよ、孝子ちゃん。普通の幸せが一番暖かいの……』

カイの鏡には、地獄に落ちる前の、名前も顔も忘れてしまった「人間だった頃の家族との食卓」が映し出された 。 甘美な毒のような幻影が、彼らの思考を麻痺させ、鏡の中へと引きずり込もうとする 。

シーン5:自己の肯定と「拒絶」

孝子(低く、地を這うような声で):「……ふふ、ふふふふふっ。ふざけないで頂戴」 孝子が鏡の中の「笑顔の少女」を軽蔑の眼差しで見つめる。右手に赤黒い炎が宿る 。 パリーンッ! 孝子:「普通の幸せ?そんな退屈な地獄、死んでも御免ですわ!わたくしは北條孝子、鮮血の中にこそ美を見出す女。あんな腑抜けた顔に戻るものですか!」

涼子(ショックバトンを起動させ):「今のわたくしが穢れている、ですって?……笑わせんといて。わたくしは、計算法(ロジック)通りにいかない『ノイズだらけの今』を愛してますねん!」 バチチッ!と青い雷撃が「完璧な天使」の像を溶かしていく 。
涼子:「『論理・存在証明(ロジック・アイデンティティ)』!」

カイ(鏡に中指を立てて):「俺の人生、勝手にハッピーエンドにされてたまるかよ。過去は捨てるもんじゃない、背負うもんだ」 カイの言霊『拒絶(リジケクト)』が、鏡を空間ごと消滅させた 。

シーン6:殺意に基づいた信頼
(回廊・激闘) 罠を拒絶された回廊が震動し、砕けた鏡の破片が三体の「ガラスの模倣体(ミラー・シェイド)」を形成した 。それは彼らの「悪夢」の実体化であり、彼らの術式を完コピして襲いかかる 。

ソラがガラスのカイの重力波に押しつぶされる 。その死角から放たれたガラスの孝子の炎を、本物の孝子が相殺する 。
孝子:「チッ。邪魔ですわよ、雑種」 カイ:「……助かったよ、お嬢様」

三つの勢力は言葉を交わさずとも、互いの実力と癖を熟知した動きで陣形を組んだ 。殺し合いの中で培われた「不吉な理解」が、完璧な連携を生む 。

涼子:「見えましたわ、あなた方の計算式の穴が!」 涼子が敵の演算速度の遅れを突き、バトンの出力を最大にする 。
カイ・孝子・涼子(同時に地を蹴る):「「「ッ!!」」」

カイの『崩壊』、孝子の『千本椿・乱舞』、涼子の『最大雷撃』が炸裂し、三体のガラス人形は砂となって崩れ落ちた 。

シーン7:螺旋の先へ
(回廊・出口) 歪んでいた空間が正常に戻り、上層へと続く螺旋階段が現れた 。
涼子:「学習機能は生きてるみたいですわ。次からはわたくしたちの連携パターンも読まれるかもしれません」 カイ(階段を見上げて):「読ませてやればいい。俺たちの連携は、データで予測できるほど甘いもんじゃないからな」

三人の不協和音は、より強く、深く共鳴し始めていた。 彼らが背負うそれぞれの「罪」を量る、第2層の審判が待っているとも知らずに――。

(第6話・完/第7話へ続く)