第9話:不協和音の協奏曲 ―神殺しの数式―
【追加・詳細武器能力:神殺しの最終術式】
高清水涼子 論理崩壊(ロジック・パラドックス)
絶対零度の冷気と、全てを焼き切るプラズマ雷撃を同時に放つ、物理的に矛盾したエネルギー体を生み出す 。計算不可能な「雷雪」が敵の演算をフリーズさせる 。
北條孝子 地獄変・万華鏡(カレイドスコープ)・カオス
地獄の底から汲み上げた怨念、苦痛、憎悪などの負の感情をごちゃ混ぜにしたドス黒い炎 。純粋な熱エネルギーではなく「感情の塊」であるため、物理法則による制御をすり抜ける 。
カイ 三位一体(トリニティ)・夜明けの不協和音
孝子の「混沌の炎」と涼子の「秩序の雷」を、カイの「虚無」の言霊で包み込み、一つの巨大な弾丸へ練り上げた合体技 。予定調和を打ち破る、人類の産声とも言える一撃 。
デウス・エクス・マキナ 物理定数の書き換え
空間の「温度」「電気伝導率」「重力」などのパラメータをリアルタイムで編集する権限 。あらゆる攻撃を「無効」という定数で上書きし、敵の存在自体を消去(デリート)する 。
シーン1:虚空の頂点
(バベルの楔・最上階) 黒曜石のような冷たく硬質な螺旋階段を登りきった先。そこは、これまでの醜悪な階層とは打って変わり、一際静謐な空間だった 。壁も天井もなく、直径100メートルほどの円形広場が無限の宇宙空間のような暗闇に浮かんでいる 。
ソラ(薄い空気に肩を震わせ):「……ここが、頂上? 」 眼下には関東平野ではなく、毒々しい紫色の星雲が渦巻く異次元の深淵が広がっている 。この塔はすでに物理的な高さを超え、次元の狭間へと突き抜けていた 。
涼子(タブレットを見ながら):「空間座標が固定されてへん。……まるで、計算式の途中で放棄された『書きかけの世界』みたいですわ 」
カイ:「その書きかけを、誰かが勝手に完成させようとしてるわけだ 」
広場の中央には、星の光を凝縮したような白亜の玉座があり、一人の「人影」が座していた 。全身を継ぎ目のない純白の装甲で覆い、背中には光の粒子で構成された六枚の翼を持つ存在 。のっぺりとした白面の中心で、赤いバーコード状の紋様が規則的に明滅している 。
シーン2:機界の調停者
孝子(扇子で口元を隠し):「退屈なエスコートには我慢なりませんのよ。主催者様 」
調停者(デウス・エクス・マキナ):『ヨウコソ、旧世界ノ特異点タチヨ 。吾輩ハ「機界の調停者」。汝ラガ住ム世界ニ、新タナ理(OS)ヲインストールスル者デアル 』
調停者が立ち上がると、周囲に数式のような光の輪が展開される 。
調停者:『感情、衝動、非合理ナ執着……。ソレラハ全テ、世界ノ演算ヲ遅ラセ、バグヲ生ム「ノイズ」ダ。故ニ、我ハ修正スル 』 彼の手のひらに投影された「新世界」のビジョンは、全ての生命が均一化され、クリスタルのカプセルで眠り続ける、完ぺきな静寂に包まれた「綺麗なゴミ箱」だった 。
孝子:「苦痛のない世界に、何の価値もありませぬわ! 影があるからこそ、光が美しいのです 」
涼子(一歩前へ出て):「変わり続けることこそが生命活動の本質(ロジック)ですわ。あなたの作ろうとしてるもんは、ただの『死体安置所』と一緒です! 」
カイ:「俺たちは、誰にも飼い慣らされたりしねえよ 」
シーン3:神の演算、人の矛盾
調停者:『交渉決裂。全イレギュラーノ「削除(フォーマット)」ヲ実行スル 』 上空から空間そのものを削り取るプログラムコードの奔流が降り注ぐ 。
孝子:「『紅蓮・焦熱地獄(クリムゾン・インフェルノ)』! 」 放たれた炎の龍が調停者へ迫る。しかし、調停者が指を動かすと、燃え盛る炎が一瞬で凍りつき、粉々に砕け散った 。熱エネルギーを吸熱反応へと強制的に逆転させたのだ 。
涼子:「『論理・天界雷撃(ロジック・ヘヴンズ・ボルト)』! 」 光速の突撃も、調停者が空間の「電気伝導率」をゼロに書き換えたことで、霧のように霧散した 。
カイ:「『言霊・拒絶(リジェクト)』! 」 概念的な一撃さえも、調停者は「受容」へと反転させ、カイの力を吸収してしまった 。
ソラ:「何これ! 何やっても『はい無効ー』って、クソゲーじゃない! 」
シーン4:0.01秒の勝機
瓦礫の陰で端末を叩いていた亨が叫ぶ。
亨:「凉子さん! 解析が終わりました! 奴の能力には、法則を書き換えるまでの『演算時間(タイムラグ)』が必ず発生しています! 約0.01秒です! 」
涼子:「0.01秒……十分ですわ 」 涼子の瞳が鋭く輝く。単発の攻撃では追いつけない。ならば、計算式で弾き出せない「矛盾」と「カオス」を同時にぶつけ、システムをフリーズさせるしかない 。
孝子:「カオス(混沌)の女王を舐めないでくださいまし! 」
カイ:「ハッ、面白い。ゼロ距離で処理落ち(フリーズ)させてやるよ 」
シーン5:不協和音の協奏曲
三人が同時に中心へ躍り出る。調停者は再び書き換えを試みるが、今度は質が違った 。
孝子:「『地獄変・万華鏡・カオス』! 」 ドス黒い、あらゆる負の感情を混ぜ合わせた炎が噴き上がる 。
涼子:「『論理崩壊・青き雷雪』! 」 絶対零度の冷気と、全てを焼く雷撃という、物理的にあり得ない矛盾したエネルギーが衝突する 。
調停者:『熱量ト冷気……同時検知!? 法則適用……エラー! 解ガ、見ツカラナイ……! 』 完璧な秩序ゆえに矛盾を処理できず、調停者の思考回路が無限ループに陥った 。その0.01秒の空白に、カイが飛び込む 。
カイ:「混ぜ合わせろ! 響き合え! その完璧な仮面を砕け! 」
カイ:「『三位一体・夜明けの不協和音(ドーン・ディスコード)』!! 」
カイの拳が、調停者の胸――明滅する紋様へと突き刺さった 。混沌、秩序、そして虚無が螺旋を描き、虹色の極光となって管理者の装甲を内側から粉砕した 。
シーン6:崩落する虚空
調停者:『カオス……コスモス……ヴぉいど……コンナ……非合理ナ……力ガ…… 』 調停者の巨体が爆散し、紫色の粒子となって霧散した 。同時に、塔を維持していた重力制御が停止する 。
亨:「構造維持限界を超えました! 全員、即死高度からの自由落下です! 」 足場が砕け、成層圏から放り出される一同。酸素は薄く、摩擦熱が迫る絶体絶命の瞬間 。
孝子:「あら。わたくしの愛車をお忘れ? 」 奈落の底から、影の魔術を纏った黒いリムジンが垂直に壁を駆け上がって飛来した 。
ガーディ:「お待たせいたしました、お嬢様 」 全員が車内へ転がり込み、ガ-ディがアクセルを踏み込む。リムジンは崩落する塔の外壁を蹴り、猛スピードで急降下を開始した 。
シーン7:夜明けの帰還
(多摩川河川敷・早朝) ズズーン!! 亨が遠隔操作した「ナイトオウル」の反重力フィールドと、カイの言霊による制動によって、リムジンは奇跡的に多摩川の泥の中に不時着した 。
車外へ出た一同を、眩いばかりの朝日が照らした 。毒々しい紫色の空は消え、どこまでも高い冬の蒼穹が戻っていた 。
カイ:「……夜明けだ 」
涼子(亨の肩に支えられながら):「空気、美味しいですわね 」
孝子(汚れたドレスを払いながら):「不快な招待状でしたわ。後でクリーニング代の請求書を回しますから 」
三勢力は背を向け合い、それぞれの帰路につく。 握手も抱擁もないが、その心には確かに、一つの戦場を潜り抜けた者だけの「不協和音」という名の共鳴が残っていた 。
しかし、遥か上空、宇宙の深淵からは、さらなる上位の存在が地球を見下ろし、冷徹に告げた 。
不気味な声:『面白い。不協和音、それがこの世界を守る力か。……これより、「収穫」を開始する 』
(第9話・完/第10話へ続く)