第11話 脚本「聖域のレクイエム」
【登場人物】
北條孝子(17):地獄の力を宿す少女。昭和の気品を漂わせる古風な物言い。
高清水凉子(17):天界から堕ちた少女。柔らかい神戸お嬢様言葉を話す。
ガーディ:孝子の相棒。元・地獄の番人。
詫間亨(25):凉子の相棒。天才発明家。
天照皇大神:伊勢神宮に座す最高神。二人に世界の危機を告げる。
月読命:天照の代理として二人を導く月の神。
【本編】
〇伊勢志摩国立公園・原生林(深夜) 深い闇に沈む森の中、詫間亨が凉子のために開発したステルス車両が潜んでいる 。 車内には、白い戦闘スーツに身を包んだ高清水凉子と、ホログラム地図を操作する亨の姿がある。

亨 「内宮を覆う結界の解析が完了しました 。純粋な神気で構成された絶対防御フィールドです 。物理的な突破は不可能ですが、唯一、五十鈴川の水脈と結界が交差する地点だけエネルギー密度が低い 」

凉子 「……ふふ、あそこの『穴』からなら、わたくしの力でこっそり通り抜けられそうですわあ 」

通信機から北條孝子の声が割り込む。彼らは紀伊山地の隠れ家から通信している。

孝子 「そのルート、わたくしも使わせていただきますわ 。あなた様が開けた穴を、後から通らせていただくのが一番効率的でしょう? 」

凉子(眉をひそめ) 「断固拒否いたしますわあ 。不浄な『混沌』が、わたくしの開けた聖なる道を汚すなんて許せませんわあ 」

ガーディ(念話) 「亨殿の解析には、一点見落としがございます 。その水脈は神域の穢れを浄化して流す『神罰の奔流』でもありますぞ 。堕天使とて、無防備に触れればただでは済みませぬ 」

孝子 「まあ、さすがはガーディ。頼りになりますわ 」

ガーディ 「ご提案がございます 。わたくしが『穢れ』を増幅させて一時的に穴を広げます 。お嬢様はその奔流を逆流して侵入なさり、凉子様は直後の浄化による『凪』を突いて、清浄なまま神域へお入りなさい 」

凉子 「……論理的やわあ 。ええわ、そのプランで行きましょう。でも地獄のネズミさん、余計な『お掃除』はしはらんといてくださいね 」

孝子 「あらあら、心配性ですこと 。わたくしはただ、静かに散策を楽しむだけでございますわ 」

〇五十鈴川・結界境界点(午前二時) ガーディが川面に影の手を差し伸べ、死者の怨念を呼び起こす。 川面が墨汁のような黒い瘴気に満たされ、結界が反応して輝きを増す。 浄化の奔流が「穴」を穿った瞬間、孝子が黒い魚のように飛び込んだ。 続いて訪れた一瞬の「凪」を突き、凉子が白い閃光となって侵入に成功する。

〇伊勢神宮・内宮の森 二人は数千年の祈りが積もった荘厳な森に降り立つ。 そこへ鹿の角や鳥の翼を持つ「神使」たちが、侵入者を排除せんと殺到する。

孝子 「お出迎えとはご丁寧なことですわ 」

凉子 「美しくないザコは、わたくしが片付けますわあ 」

月読命(声のみ) 「待て。その者たちは我が主が客人として招かれた 」

絶対的な威厳を持つ声が響き、神使たちが姿を消す。 二人は導かれるままに、内宮の最奥にある光の神殿へと足を踏み入れた 。

〇光の神殿・玉座 太陽の光輪を背負い、天照皇大神が静かに座している。 その圧倒的な神威の前に、二人は自然と膝をついた。

天照皇大神 「よく参られました、二つの迷い子よ。貴女がたの魂の奥にある守るべきものへの『愛』、確かに視ておりました 」

天照は「八咫鏡」を差し出し、黒椿の古木の根元を映し出す。 そこには宇宙の深淵へと通じる「亀裂」があり、黒い不気味な存在が染み出していた。

天照皇大神 「あれこそが『神託』の正体。宇宙の外、混沌の海より来たる侵略者の先兵です。黒椿は彼らの仮初めの端末に過ぎません 」

孝子 「では、あの『庭』の伝承は……? 」

天照皇大神 「真実です。しかしあそこは『無』に通じていたため、我らが封印したのです。『神託』はその封印を破ろうとしています 」

凉子 「……わたくしたちに何をせよとおっしゃるのですか 」

天照皇大神 「孝子、貴女の『炎』でしかその存在を灼くことはできず、凉子、貴女の『雷』でしかその亀裂を封じることはできません 。憎しみではなく『守る』という意志で力を一つにする時、それは新たなる創造の力となるでしょう 」

孝子と凉子は互いの顔を見合わせる。依然として嫌悪はあるが、共通の敵に対する怒りがそれを上回った。

孝子 「フン……仕方ありませんわね。あなた様の不自由な雷、少しだけ利用して差し上げますわ 」

凉子 「結構ですわあ。あなた様の野蛮な炎、わたくしの論理の盾として使わせてもらいますわあ 」

二つの刃が同じ方向を向き、物語は宇宙の存亡を賭けた最終局面へと突入する。

(暗転)