第4話:美徳の刃、あるいは硝子の檻の女王
【登場人物】
カイ:所長。満身創痍になりながらもエルを守ろうとする。
ひかり:テラスから戦況を見守り、エルの異変に気づく。
エル:カイを助けたいという想いから、深淵の力を解放する。
高清水涼子:宿敵ガブリエルに立ち向かい、自身の過去の記憶に触れる。
北條孝子:自慢の庭園を壊され、魔女の猛火を解き放つ。
詫間亨:地下から解析データを送り、勝利の糸口を探る。
ガブリエル・ゼノ:能天使(ヴァーチュ)級の騎士。冷酷に「浄化」を執行する 。
〇 北條邸・庭園(深夜)
(演出) 月明かりの下、庭園はガブリエルが放った純白の衝撃波によって無残に粉砕されている 。 砂塵の中から、カイが腕から血を流しながら立ち上がる 。
カイ「(吐き捨てて)物理衝撃を別次元に逃がすだぁ? 騎士様ってのは、どいつもこいつも小細工が得意らしいな 」
ガブリエル「……冥界の力か。穢れた泥で、我が剣を受け止めるとは 。消工失セロ、旧人類 」
ガブリエルが大剣を無造作に振るう。 指向性を持った台風のような衝撃波が、北條邸の松の木を爪揚枝のようにへし折る 。
涼子「(シールドを展開し)出力が違いすぎますわ! 亨さん、エネルギー供給を! 」
亨(通信)『やってるよ! でもあいつの剣、空間座標そのものを「切断」してるんだ! 』
カイ「チッ、ならこっちは正面突破だ! 『冥王・剛殻(プルート・シェル)』! 」
カイが虚無のオーラを纏って突進するが、ガブリエルの剣圧に押され、足元の地面が陥没する 。
〇 同・庭園
孝子が、愛用の扇子が折れているのを見て、般若のような形相で空を睨みつける 。
孝子「(静かに、しかし激しい怒りで)この庭石一つに、どれだけの維持費がかかっていると思っているのです? ……ガーディ! 屋敷の全魔力を回しなさい。この不届きな羽虫を、原子レベルまで焼き尽くして差し上げますわ! 」
ガーディ(声)『御意。お嬢様の憤怒、最大出力へ接続 』
屋敷の地下の龍脈(レイライン)から吸い上げられた炎が、孝子の周囲で渦を巻く 。
孝子「『紅蓮・焦熱龍王(クリムゾン・ドラゴンロード)』!! 」
巨大な炎の龍がガブリエルに食らいつく。池の水が一瞬で蒸発し、真昼のような明るさが庭を包む 。 だが、ガブリエルは左手を軽くかざすだけだった 。
ガブリエル「聖域展開・『美徳の盾(ヴァーチュ・シールド)』 」
炎の龍はガブリエルの手前で見えない壁に衝突し、常温の空気へと書き換えられて霧散する 。
孝子「なっ……!? わたくしの最大火力が、通用しませんの!? 」
ガブリエル「不完全な論理で、完全なる美徳を傷つけることはできない 」
〇 戦闘継続
涼子「なら、その『完全』に風穴を開けるだけですわ! 亨さん、奴のシールドのリフレッシュレートを解析! 」
亨(通信)『了解! 0.55秒後に座標X-302にノイズが走る! 』 涼子「そこですわ! 『論理・穿孔(ロジック・ドリル)』! 」
涼子のショックバトンがシールドの一点に亀裂を入れる 。
涼子「今です、お嬢様! 」 孝子「人使いが荒いですわね! 『紅蓮・指弾(フレイム・バレット)』! 」
火球がシールドを貫通し、ガブリエルの鎧を直撃 。初めて天使が空中での姿勢を崩す 。
ガブリエル「(激昂し)下等生物が……。神の代行者に触れるな 」
ガブリエルの翼が12枚へと展開される。空間が歪み、北條邸全体に数十倍の重力がのしかかる 。
カイ「ぐっ……立って……られねえ……! 」
ガブリエル「全滅セヨ。『天罰(ネメシス)・重力崩壊(グラビティ・コラプス)』 」
ガブリエルが動けないカイの頭上へと降下し、大剣を振り上げる 。
〇 エルの覚醒
テラスの端で震えていたエルが、カイの窮地を見て顔を上げる 。
エル「(震える声で)……お父様を……いじめるな 」
(効果音) キイイイイイイイン!! と耳をつんざく高周波音が鳴り響く 。 エルの左目の「黒」が拡大し、背中の翼が漆黒へと染まっていく 。 彼女を中心に、世界の色が抜け落ちていく 。
エル「……消えろ。……全部、消えろ 」
エルの瞳から滴り落ちた黒い液体が、地面を音もなく消失させる 。それは穴が開くのではなく、「そこにあった空間」が最初から存在しなかったことになる「存在の否定」だった 。
ガブリエル「馬鹿な……。この波動は、『根源(オリジン)』の虚無!? 」
黒い侵食がガブリエルに迫り、夜空には亀裂が走る 。
カイ「エル! やめろ! 」
カイは死の嵐の中に飛び込み、エルの小さな体を力いっぱい抱きしめる 。カイ自身の虚無で、エルの暴走する力を中和しようとする 。
カイ「戻ってこい、エル! もう大丈夫だ。誰も……俺もお前も、いじめさせねえよ 」
エルの翼が白に戻り、侵食されていた空間がビデオの巻き戻しのように修復されていく 。
〇 終局・月明かりの下
エルはカイの腕の中で意識を失う。ガブリエルは大剣を収める 。
ガブリエル「無益だ。その娘は、『女王(クイーン)』にとって重要な『スペア』となる可能性がある 」
ひかり「女王……? システムじゃなくて? 」
ガブリエル「今や天界は、新たなる主、『女王ルミナ』によって統治されている。彼女こそが完全なる秩序の体現者 」
ガブリエルは光の粒子となって消える 。 涼子が地面を見つめたまま、肩を震わせている 。
涼子「ルミナ……まさか、あの子が女王だなんて…… 」
カイ「知り合いか? 」
涼子「(瞳に涙を浮かべて)親友でした。わたくしが『ラジエル』やった頃、たった一人の友達です。……あの子は誰よりも完璧を目指していた。せやから、歪んでしまったんか…… 」
カイ「(涼子の肩に手を置き)会いに行くぞ。そのルミナって奴に会って、確かめるしかねえ 」
(M) 静かなピアノの旋律。 一行は、涼子のホームグラウンドである「神戸」へと向かう決意を固める 。
(第4話 完)