第6話:癒やしの狂気、ラファエルの幸福プログラム
【登場人物】
カイ:陽だまり探偵事務所所長。不器用ながらエルと涼子を支える。
ひかり:事務員。現場の異常を冷静に分析する。
エル:カイを「パパ」と呼び、自らの力を制御し始める少女。
高清水涼子:高清水グループ社長。自らの会社と世界の尊厳を天秤にかける。
詫間亨:涼子の右腕。科学の力で天使のシステムに挑む。
北條孝子:鎌倉の魔女。一行に同行し、皮肉を交えつつ魔術で援護する。
ラファエル:天界の研究開発局長。「癒やし」を司るが、その本質は冷酷な管理者。

〇 神戸・ポートアイランド上空(夜)
涼子のプライベートヘリが、夜霧に包まれた神戸港を抜け、街にそびえ立つ高清水グループ本社「高清水タワー」の屋上へ着陸する 。

涼子「(操縦桿を握り、眉をひそめて)……変ですわ。全館の照明はついているのに、人の動きが全く感じられません 」
亨「(タブレットを操作し)セキュリティからの応答もなし。でもエラーも出ていない。まるで全員で職場放棄しているみたいだ 」
涼子「わたくしの城を汚す不届き者、ただじゃおきまへんわ 」

〇 高清水タワー・役員フロア
エレベーターの扉が開く。そこには異様な光景が広がっていた。 数十人の社員たちが廊下に座り込み、満面の笑みを浮かべているが、その目は虚ろで焦点が合っていない 。 書類を紙吹雪のように撒き散らす者、PC画面に花の絵を描く者。警備員までもが銃を捨てて手遊びに興じている 。

カイ「おいおい……ラリってんのか? 」
クロ「ワンッ(甘ったるい匂いだ。薬品じゃねえ、脳に直接来るやつだ) 」
涼子「(秘書に駆け寄り)佐藤さん! 何してますの! 今日の会議の準備は! 」
秘書(佐藤)「(とろんとした目で)あら、社長……。会議なんて、もう必要ありませんよ。だって、世界はこんなに『完全』なんですもの。うふふ…… 」

〇 同・役員フロア(モニター前)
フロア中のモニターが一斉に切り替わり、白衣を着た金髪の天使が映し出される。片眼鏡(モノクル)をかけ、背中には手術器具のような金属光沢を放つ六枚の翼がある 。

天使『ごきげんよう、迷える子羊たち。私の名は「治癒(ヒーリング)」を司る大天使、ラファエル 』
涼子「天界の研究開発局長! あなたが社員たちをこんな風にしたんですか! 」
ラファエル『心外ですね。私は彼らを救ったのです。労働、責任、競争……脳に有害なストレスを、永遠の幸福(ユーフォリア)に書き換えてあげたのですよ 』
カイ「ふざけんな! 苦しまねえ代わりに生きてねえじゃねえか! そいつはただの『生きた人形』だ! 」
ラファエル『おや、粗暴な方だ。識別コード・ゼロ。君のような「欠陥品」には、特に念入りな治療が必要ですね 』

ラファエルが指を鳴らすと、笑ったままの社員たちがハサミやカッターを手に取り、一斉にカイたちに襲いかかる 。

カイ「くっ……一般人だ! 殴れねえぞ! 」
涼子「わたくしの社員に指一本触れさせまへん! 北條・高清水コラボ、『おやすみスリーピング・ボム』! 」

涼子が投げた爆弾からピンク色の煙が充満し、社員たちが安らかな寝息を立てて眠りにつく 。

〇 同・役員フロア(窓際)
窓の外から、巨大なメスやレーザーカッターを備えた多脚戦車のような「執刀用ドローン」が現れる 。

ラファエル『検体名「エル」。摘出を開始する 』

ドローンの拘束ビームがカイの動きを封じる 。 エルは天界での実験の記憶をフラッシュバックさせ、恐怖に震える 。

エル「(カイの言葉を思い出し)……来ないで! 」

エルの掌から漆黒の「虚無」が集まり、薄く強固な「黒い鏡」として展開される 。 ドローンのレーザーメスがその鏡に反射し、ドローン自身の脚部を切断する 。

カイ「(拘束を振りほどき)よくやったエル! あとはパパに任せな! 」

カイが北條家特製のガントレットで拳を握る。魔術刻印が赤く輝く 。
カイ「ヤブ医者は免許返納しな! 『冥王・魔導粉砕撃(プルート・マギ・クラッシュ)』!! 」

カイの一撃がドローンを内側から爆散させる 。

〇 地下サーバー室
一階へと駆け下り、最深部の防護扉を開ける。そこには巨大なガラスの塔があり、数千の「脳」のような生体パーツが培養液の中で繋がれていた 。

ラファエル(ホログラム)『私、ラファエルは、この階層全体を管理する「集合知性」なのです。さあ、君たちの脳もネットワークに加えてあげましょう 』
亨「止めるにはサーバーを物理的に破壊するしかない! でも、ここには高清水グループの全データが詰まっているんだ! 」

涼子は震える手でショックバトンを握りしめる。壊せば会社は崩壊し、全てを失う 。 だが、彼女の脳裏には残業で文句を言いながらも笑っていた社員たちの姿が浮かぶ 。

涼子「……わたくしは、経営者です。利益を追求し、効率を愛します。せやけど…… 」
涼子「社員の『尊厳』を守れない会社なら、こっちから願い下げですわ! カイさん! やりますえ!! 」
カイ「おう! 景気良く行こうぜ! 」

涼子は「論理・矛盾ウイルス」をサーバーに突き刺し、ラファエルの集合知性を無限ループのパニックに陥れる 。 仕上げにカイが飛び蹴りを放つ。

カイ「『冥王・強制終了(プルート・シャットダウン)』!! 」

ガラス塔が粉々に砕け、ラファエルの接続が強制切断される 。

〇 崩壊後のサーバー室(夜明け)
煙のくすぶる瓦礫の中、涼子は立ち尽くす。高清水グループは事実上の倒産だが、その顔は晴れやかだった 。

涼子「箱(サーバー)が壊れたなら、また作ればいいんですわ。わたくしと亨さんと、あの優秀な社員たちが無事なら、いくらでも復活できますもの 」
エル「(涼子の袖を引っ張り)……涼子ママ、かっこいい 」
涼子「(感涙して)聞きました!? 今、かっこいいって!! 」

ラファエルが消滅間際に残したデータから、次なる目的地が判明する。 北極圏にある「オーロラ・ゲート」。そこが天界への唯一の物理的な入り口だった 。

カイ「行くぞ。日本を出る。本当の地獄巡りはここからだ 」

(第6話 完)