第1話 脚本「地獄を満了した男」
【登場人物】
カイ(男の魂・地獄の囚人)・ソラ(ソト・奪衣婆)・天照(天照皇大神・天使養成校上級生)・閻魔(閻魔大王・天使養成校上級生)・スサノオ(素戔嗚尊・天使養成校下級生)・創造主・死神ヤミ

○オープニング (眩い光の高天原、紫煙たなびく冥府、そして喧騒の現代日本が交錯するイメージ映像。主題歌「Re-vive」が流れる)

○天使養成校・中庭 (黎明の光。光そのものを結晶化させた白亜の学び舎がそびえる 。昼も夜もなく、穏やかな光に満ちた原初の時代。)

ナレーション 「宇宙がまだ若く、神々と魂の理が定められて間もない頃。万象の中心には『天使養成校』と呼ばれる学び舎があった。そこは未来の管理者たちが『善と美』を探求する聖域であった。」

(図書館の片隅。四人の若き天使、天照、閻魔、ソト、スサノオが模擬裁判の議題を囲んでいる。)

スサノオ 「黙認は罪だ!善は絶対でなければならない!例外を認めれば秩序は崩壊する。この親は地獄に落とすべきだ! 」

(激しい情熱を瞳に宿し、机を叩くスサノオ。)

ソト 「それは非効率な感情論。因果律の計算によれば、親の行動で救われた『未来の可能性』が失われた魂を上回る。よって無罪が論理的帰結よ。」

(無表情なソト。淡々とデータを提示する。)

閻魔 「どちらも違う。この魂には功徳と業が等しく刻まれている。功徳は天の光となり、業は地の重しとなる。魂は天へも地へも行けず、永劫に二つの間で苛まれ続ける。それが自ら選んだ裁きだ。」

(深い闇のような瞳を持つ閻魔が重々しく語る。)

天照 「皆さんの意見はどれも真理です。ですが、私たちは裁くだけでなく、導かねばなりません。」

(太陽のように微笑む天照が立ち上がる。)

天照 「子を想う愛を掬い上げ、天の光へと還してあげる。残された業は私たちが背負い、浄化する。それこそが、最も『美しき』解決策ではありませんか? 」

(その完璧な調和に三人は感嘆する。四人の間には、永遠を信じた友情があった。)

○高天原・謁見の間 (卒業の日。荘厳な鐘の音と創造主の声が響く。)

創造主(VO) 「――天照。そなたを高天原を統べる最高神『天照皇大神』に任命する。」

創造主(VO) 「――閻魔。そなたを冥府の統治者『閻魔大王』に任命する。」

(ざわめく周囲。過酷で孤独な役目に、閻魔は静かな覚悟で天照を見つめる。)

創造主(VO) 「――スサノオ。そなたには、過ちを犯した魂を更生させる力を授ける。」

創造主(VO) 「――ソト。そなたを三途の川の番人『奪衣婆』に任命する。」

(別れの時。中庭の陽だまりに立つ四人。)

天照 「役目は違っても、私たちの心は、いつも一つよ。」

スサノオ 「姉さんこそ一人で抱え込むなよ!ソトもたまには笑えよな! 」

ソト 「……非合理だわ。」

(ソトの口元が僅かに緩む。だが、その後の長い年月が、彼らの魂を光と闇に変えていく。)

○賽の河原・電子決済サービス窓口(現代) (澱んだ空気。延々と続く死者の列。かつてのエリート、ソトがくたびれた事務服姿で受付に座っている。)

ソト 「はい、次の方どうぞー。六文銭、お持ちですか?あ、そこの端末で電子マネーも使えます。交通系、二次元バーコード、だいたい対応してます。」

(「ペイペイ」という無機質な音が響く。)

ソト 「(モノローグ)これが私の日常。何万、何億という魂をリセットし、送り出すだけのルーティン 。感情はただのノイズ。」

(窓口に一人の男が立つ。三十代半ば。恐怖も後悔もない、凪いだ水面のような瞳。)

男 「六文銭です。」

(コンビニに寄るかのような自然な動作 。ソトが男の衣に手を触れる。流れ込むのは、生に倦み、他者に無関心だった男の灰色の記憶。)

ソト 「あなたの罪は『無関心』。他者への、そして自分自身への。」

男 「…………。」

(ソトは躊躇なく男の衣を剥ぎ取る。男は一礼し、渡し船へ乗り込む。ソトはなぜか、彼の瞳の奥に消えない微かな光を見た気がする。)

○冥府・閻魔庁 (巨大な水晶。地獄のエネルギー消費量を示すグラフを眺める閻魔。)

閻魔 「最近の魂は根性がない。二百年どころか百年で消滅する。エネルギー効率が悪いな。」

(側近の鬼にぼやきながら、先ほどの男の記録を見る。)

閻魔 「ふむ。語るべき悪も善もない。生への執着も、死への恐怖も希薄か。」

(閻魔は顎を撫で、冷徹に判決を下す。)

閻魔 「判決を言い渡す。汝を地獄に落とし、刑期一千年とする。」

男 「…………。」

(男は表情を変えず、連行されていく。閻魔はすぐに彼のことを忘れた。)

○冥府・一千年後 (冥府の時の流れは淀み、昨日と変わらぬ一日が積み重なる。)

(そこへ、一人の鬼が転がるように駆け込んでくる。)

鬼 「申し上げます!刑期一千年を満了した魂が、ただいま出獄いたしました! 」

閻魔 「……何だと?一千年だと?間違いではないか? 」

(書類を落とす閻魔。出獄した男が召喚される。その姿はかつてなく輪郭がはっきりとし、内側から圧倒的な光を放っている。)

閻魔 「……よくぞ、耐え抜いた。」

(管理者の仮面を捨て、敬意を表する閻魔。)

○刑期満了者の特別な間 (究極の「無」の空間。穏やかな光に満ちた世界。)

閻魔 「汝には選択の権利が与えられる。天上界へ赴き永劫の安らぎを得るか。再び輪廻の輪に戻り、苦しみに満ちた地上へ生まれ変わるか。天上を選ぶがよい。」

男 「私は、地上へ戻りたい。」

閻魔 「正気か?あの醜く、争いに満ち、裏切りと悲しみが渦巻く世界へなぜ戻る。」

男 「地獄で、私は理解したのです。痛みがあるから優しさが生まれ、悲しみがあるから喜びが輝く。」

男 「もう一度、地上で感じたいのです。頬を撫でる風の匂いを。踏みしめる土の感触を。誰かの手の温もりを。そして……生きるという、あのヒリヒリするような痛みを。」

(閻魔の魂が深く揺さぶられる。地獄を単なるシステムとして扱ってきた自らの空虚さを痛感する。)

閻魔 「わかった。だが条件がある。汝が地上の因果を乱さぬよう、監視役を付けさせてもらう。」

(閻魔は鬼に命じ、ソトを呼び出させる。)

ソト 「……私が、地上へ?冗談でしょう。」

閻魔 「決定事項だ。千年前、この男の魂をリセットしたのはそなただ。因果は巡るというわけだ。」

(有無を言わせぬ王の命令。ソトは唇を噛み、穏やかな表情の男を見る。)

○地上への光のトンネル (二つの魂が奔流に乗り、猛スピードで駆け抜けていく。)

ソト 「……本当にいいの?あなたほどの魂なら天上で穏やかに暮らせるのに。」

男 「地獄にいた千年、私はずっと後悔していた。何も感じようとしなかった人生を。」

男 「だから今度はちゃんと生きてみたいんだ。誰かを愛し、傷つき、喜び、悲しむ。そのすべてを、この魂に刻み込みたい。」

(ソトの心に、数万年凍りついていた何かが剥がれ落ちるのを感じる。)

男 「君も、退屈だったんだろう?あの川のほとりで。」

ソト 「……あなたの監視役だから。勘違いしないでよね。」

(ソトの声は僅かに震え、男は優しく微笑む。やがて前方に眩い出口が見える。)

○病院・分娩室 (新しい命の誕生を喜ぶ夫婦。)

看護師 「おめでとうございます!元気な双子ですよ。男の子と、女の子です。」

(並んで寝かされる二人の赤ん坊。男の子――カイの瞳は千年の時を経たように深淵な色。女の子――ソラの瞳は戸惑いと好奇心が入り混じっている。)

ナレーション 「かつて地獄を耐え抜いた男と、地獄を知らない奪衣婆。二人の奇妙な旅は、まだ始まったばかりだった。」

○冥府・暗黒の深淵 (スサノオが漆黒の側近、死神ヤミを見下ろしている。)

スサノオ 「千年の地獄にも屈せぬ強靭な魂。あれは、極上の駒になるやもしれぬ。」

スサノオ 「ヤミよ。我が死神たちを率い、あの双子を監視せよ。だが手を出すな。希望が大きければ大きいほど、それが絶望に変わった時の味わいは格別なものとなろう。」

(スサノオは酷薄な笑みを浮かべ、闇の中へと消える。)

○エンディング曲「陽だまりのパズル」 (これまでのシーンが情緒的な水彩画風アニメーションで流れる。)

(第2話予告) カイ 「空が歪んでいる。普通の子供として生きることは許されないのか。」

ソラ 「ブランコの鎖が切れたのは偶然じゃない。誰かがそこにいる。」

カイ 「僕たちは、狙われている。」

ナレーション 「次回、ネザーワールド・リヴァイヴ。第2話『地上の影』。逃れられない宿命が牙を剥く。」