第5話 脚本「神隠しの正体」
【登場人物】
カイ(11歳・小学5年生)・ソラ(11歳・小学5年生)・ひかり(11歳・小学5年生)・クロ(シジマ・豆柴の姿)・ヤミ(死神統括官)・高山夫人(PTA会長・献太の母)・担任(30代の無気力な教師)・死神A・ナレーション

○小学校・廊下(朝) (雨上がりの湿った空気が漂う廊下。登校してきた児童たちの足音はどこか重く、あちこちでひそひそ話が交わされている。)

児童A 「なあ、やっぱり高山くん、今日も休みだってさ。」

児童B 「塾も三日連続で無断欠席なんだって。昨日は警察の車が家に来てたの見たよ。」

児童C 「これって……本物の神隠しなんじゃない?。」

(子供たちの根拠のない噂が、澱んだ空気となって学校中を侵食していく。)

○小学校・教室(朝) (黒板には「自習」の二文字が大きく書かれている。担任は教壇で力なく書類を整理し、クラス全体を包む不穏な沈黙に耐えかねている。)

(教室の隅、窓際の席に座るカイとソラ。周囲の児童たちは、彼らと目を合わせないようにしながらも、時折鋭い視線を投げかけてくる。)

カイ 「(モノローグ)ただの失踪事件じゃない。この鼻を突くような冷たい死の気配。冥府の死神たちが、ついに実体を持ってこの街に干渉し始めたのだ。」

(カイの瞳は、普段の小学生らしい輝きを失い、千年の苦痛に耐え抜いた「地獄の囚人」としての深淵な色を湛えている。)

ソラ 「(震える声で)……カイ、みんなが私たちのこと、怖いものを見るみたいな目で見てる。」

(ソラはかつての奪衣婆としての傲岸さを微塵も見せず、小さく肩を震わせている。)

(そこへ、幼なじみのひかりが教科書を抱えて近づいてくる。彼女だけは、以前と変わらぬ心配そうな表情を二人に向けた。)

ひかり 「献太くん、本当にどこに行っちゃったんだろう。……塾の帰り、誰かについていくのを見たっていう噂もあるけど。」

カイ 「……ひかり。今は、あまり僕たちに近づかないほうがいい。」

ひかり 「え……?どうしてそんなこと言うの?私たちは、ずっと一緒だったじゃない。」

カイ 「…………。」

(カイは言葉を飲み込み、机の下のバッグの傍らで丸くなっているクロに視線をやる。クロは眠っているふりをしながら、その鋭敏な耳で周囲の邪悪な気配を正確に捉えていた。)

クロ 「(モノローグ)間違いない。ヤミの部隊が放つ、特有のプライドの腐った臭いだ。奴ら、人間の弱さを弄ぶ準備を整えているな。」

(突然、教室の扉が勢いよく開き、衝撃音とともに高山夫人がなだれ込んでくる。)

高山夫人 「先生!うちの献太はどこですか!学校の管理はどうなっているの!」

(担任の胸ぐらを掴まんばかりの夫人の形相に、教室中の児童が悲鳴を上げる。)

担任 「奥様、落ち着いてください。警察も全力で捜索を……。」

高山夫人 「落ち着いてなんていられないわ!あの子に、もしものことがあったら……。」

(絶叫する夫人の背後で、カイの瞳には一瞬だけ、彼女の影に張り付いた黒い霧のような死神の姿が見えた。)

○冥府・暗黒の会議室 (ヤミが、地上の映像を映し出す水晶を満足げに眺めている。)

ヤミ 「見ろ。人間どもは、実に見苦しく、そして面白い。たった一つの『不可解な喪失』を投げ込んでやるだけで、勝手に疑心暗鬼に陥り、自滅していく。」

(ヤミの指先が水晶をなぞると、高山夫人の歪んだ表情がアップになる。)

ヤミ 「人間とは、常に分かりやすい『悪役』を求める生き物だ。自分たちの不安をぶつけるための標的。……行け。今夜も彼女の夢枕に立ち、囁き続けろ。『息子を攫ったのは、あの不気味な双子だ』とな。」

死神A 「御意に。彼女の心はすでに憎悪で飽和しています。決定的な証拠など不要、ただ疑念の種に水をやるだけで、彼女自身が怪物へと変貌するでしょう。」

○アパート・ダイニング(夜) (数日後。夕食の並ぶテーブルだが、家族の会話はない。)

(父は力なく箸を置き、母は不安げにスマートフォンのニュースをチェックし続けている。)

母 「……カイ、ソラ。明日からは、お母さんが学校まで送り迎えするから。……外には、一人で出ちゃだめよ。」

ソラ 「お母さん、私たち犯人じゃないよ!。なんで、お母さんまでそんなこと言うの?。」

母 「わかってるわよ!。でも、街の人たちが何を言ってるか……ドアの落書き、あんたたちだって見たでしょ!。」

(アパートの玄関ドアには、赤いペンキで「人殺し」と殴り書きされていた。警察の事情聴取も何度も訪れ、一家は精神的に追い詰められていた。)

カイ 「(静かな声で)……僕が、見つけるよ。」

父 「カイ……?何を言っているんだ。」

カイ 「献太くん。僕が、彼を見つけ出して、すべてを終わらせる。」

(カイの瞳には、かつての閻魔庁で数多の魂を裁定してきた頃の冷徹な決意が宿っている。)

○アパート・子供部屋(深夜・嵐) (激しい雨が窓ガラスを打ち付ける中、カイとソラは静かにベッドを抜け出し、着替えを済ませる。)

ソラ 「本当に行くの?。こんな嵐の中……。」

カイ 「今しかない。奴らが勝利を確信し、油断している今こそがチャンスだ。」

(懐中電灯を手にした二人が扉に手をかけた瞬間、暗闇から二つの光る眼が現れる。)

カイ 「クロ……。お前も、連れて行けというのか?。」

クロ 「ワン!。」

(短く力強い鳴き声。かつての落ちこぼれ死神シジマは、自らの意思で「護衛」ではなく「仲間」としての立場を選んだ。)

○街外れ・廃工場(深夜) (錆びついたフェンス。強風でバタン、バタンと音を立てる鉄扉。)

(ソラは目を閉じ、意識を極限まで集中させる。彼女の脳裏に、霊的な地図が浮かび上がる。)

ソラ 「(千里眼の力)……あそこ。北西にある一番大きな建物の二階。……献太くんの魂が、細い糸みたいに揺れてる。」

カイ 「でも、入り口は固く閉ざされている。……どうやって入る?。」

ひかり(OS) 「二人とも、待って!。」

(懐中電灯の光が三人を照らす。ずぶ濡れのレインコートを羽織ったひかりが、肩で息をしながら走ってくる。)

ソラ 「ひかり!?。お父さんたちに怒られるよ!。」

ひかり 「そんなこと言ってられないわ。……私、図書館でこの工場の設計図を調べたの。あそこの二階の窓、一つだけロックが壊れてるはずよ。」

(ひかりの論理的な思考と行動力が、絶望的な状況に一筋の光をもたらす。)

カイ 「あそこか。……だが、高さが五メートルはある。登る術がない。」

(クロが前に進み出た。彼は一度だけ仲間たちの顔を見渡すと、深く唸り、その体からどす黒い霊気を放出した。)

(バキバキと骨の鳴る音が響き、豆柴の体は巨大化していく。毛皮は硬質な羽へと、肉球は鋼の鉤爪へと変貌する。)

ソラ 「く、クロが……鷲になった!?。」

(漆黒の巨大な鷲となったシジマは、嵐の空へと舞い上がり、二階の窓を爪でこじ開けると、中から太いロープを投げ落とした。)

シジマ(心の声) 「(念話)さあ、時間は三分しかない。急げ、小僧ども!。」

○廃工場・内部(深夜) (機械油と埃の入り混じった腐臭。足元には壊れた部品が散乱している。)

(ソラは掌をかざし、念動力の反響で周囲の構造を読み取る。)

ソラ 「カイ、止まって!。三歩先の床、板が完全に腐ってる。踏んだら下まで真っ逆さまだよ。」

カイ 「助かった。……ソラ、あっちの部屋だ。冷気が強まってる。」

(三人と一匹が辿り着いたのは、最奥にある鉄の扉だった。)

(カイが扉に手をかけようとしたその瞬間、背後から氷のような冷笑が響き渡る。)

死神A 「ククク……。まさか、自ら死地に飛び込んでくるとはな。」

(漆黒の衣を翻し、巨大な鎌を携えた死神が闇の中から現れる。)

死神A 「ヤミ様の計画は完璧だ。ここでお前たちの命を刈り取り、献太の死とともに冥府へ連行してやる。……すべては、美しい秩序のために!。」

(死神が鎌を振り上げる。カイの瞳に、かつての地獄の業火が反射した。)

ナレーション 「町中の憎悪を背負わされた双子の、命を懸けた逆転劇。だが、その背後には神々さえも恐れる『虚無』が目覚めようとしていた。」

○スタッフロール (エンディング曲「陽だまりのパズル」が流れ始める。雨に打たれる街の風景が、少しずつ暖かな朝日に照らされていく演出。)

(第6話予告) カイ 「僕の中の何かが、扉を壊したがっている。……これは、僕の意志なのか?。」

ソラ 「カイ!。その黒いオーラはダメ!。自分を見失っちゃダメだよ!。」

死神 「馬鹿な……!。人間のガキが、なぜこれほどの苦痛を……!?。」

ナレーション 「次回、ネザーワールド・リヴァイヴ。第6話『虚無の覚醒と学び舎の悪夢』。千年の記憶が、世界を黒く塗りつぶす。」