第9話 脚本「神々の遊戯盤、学び舎の変貌」
【登場人物】
カイ(19歳・大学生・現実創造の力を秘める)・ソラ(19歳・大学生・念動力と千里眼を持つ)・ひかり(19歳・大学生・事態を分析する知恵袋)・クロ(元死神シジマ・豆柴の守護者)・神崎(塾の特別進路指導カウンセラー・死神の協力者)・ヤミ(死神統括官)・ハジ(地獄の番人・「辱め」を司る)・構成員たち・ナレーション

○大学・中庭(昼) (春の柔らかな日差しが降り注ぐキャンパス。新緑が揺れ、学生たちの明るい笑い声が響いている。ベンチに座り、教科書を広げるカイ、ソラ、ひかり。足元には、すっかりこの日常に溶け込んだクロが丸くなっている。)

ナレーション 「高校三年生の春。世界は受験という二文字を中心に回っていた。だが、大学進学を経た今も、彼らの戦いは終わってはいなかった。」

ひかり 「ねえ、カイくん。ここの問題、ちょっと教えてくれないかな?」

(ひかりが少し照れながら、自分のノートをカイの方へ寄せる。カイがそれを覗き込むと、ひかりの髪からふわりと甘いシャンプーの香りが漂う。)

カイ 「ああ、ここはね……。この公式を先に使って、因果の連鎖を解くように計算するんだ。」

(カイの穏やかな声が、ひかりの心に染み渡る。ひかりは数式ではなく、解説するカイの真剣な眼差しをじっと見つめている。)

ソラ 「(少し離れた席からニヤニヤしながら)まったく、相変わらずじれったいわね。さっさとくっついちゃえばいいのに。」

クロ(心の声) 「(念話)ふん、人間どもの情愛など、見ていて飽きんがな。」

(クロは大きな欠伸を一つし、鼻先を丸めて眠りにつく。だが、この甘い日常の裏側では、底の見えない深淵の取引が始まっていた。)

○進受ゼミナール・廊下(夕方) (有名進学塾「進受ゼミナール」の廊下。不自然なほど静まり返り、壁には「帝都学院大学・推薦枠獲得者リスト」が掲げられている。)

(数人の生徒が、怯えたような、それでいて取り憑かれたような目でカウンセリングルームを見つめている。)

生徒A 「あいつ、あの部屋に入ってから別人のようになったんだよ。」

生徒B 「でも、代償がすごいらしいよ……。海外特別研修への強制参加が条件だって。」

(廊下を通りかかったソラが足を止める。彼女の魂に宿る奪衣婆の力が、部屋から漏れ出すどろりとした死神の霊気を感知していた。)

ソラ 「(小声で)……間違いない。これは、人間の欲を餌にする死神のやり方だわ。」

○ひかりの部屋(夜) (青白いモニターの光に照らされるひかりの顔。彼女は塾の特任カウンセラー「神崎」の正体を暴くため、高度なハッキングを行っていた。)

ひかり 「(独り言)やっぱりだわ。この金の流れ……、海外の人身売買シンジケートと繋がっている。神崎という男、死神に魂を売って、生徒たちを『商品』として売り捌いているんだわ!」

(ひかりの手が震える。モニターには、研修の名目で連れ去られ、暗いコンテナに閉じ込められた若者たちの絶望的なビジョンが映し出されていた。)

ひかり 「早く、カイくんに知らせないと……!」

(ひかりがスマートフォンを手に取った瞬間、背後の窓ガラスが音もなく消滅する。)

○夜の路地裏 (塾からの帰り道、ひかりが姿を消す。不自然に残された彼女のスクールバッグだけが、街灯の下で揺れている。)

○アパート・カイの部屋 (カイのスマートフォンに、非通知の着信が入る。)

カイ 「……ひかりか?」

男の声(VO) 「相沢ひかりは預かった。助けたければ一人で来い。場所は湾岸地区の第7倉庫だ。警察に知らせれば、女の命はないと思え。」

(一方的に切れる電話。カイの全身から急速に血の気が引き、瞳が漆黒の深淵へと変わっていく。)

ソラ 「(ドアを開けて)カイ、ひかりが……!GPSの反応が倉庫街で途絶えたわ!」

カイ 「……行く。僕を狙った罠だ。君たちは外で待機していてくれ。」

(カイの声は氷のように冷たく、有無を言わせぬ王の威厳に満ちていた。)

○湾岸地区・第7倉庫(深夜) (重厚な鉄の扉が、軋んだ音を立てて開く。倉庫の中には、椅子に縛り付けられ、猿轡をされたひかりの姿があった。)

(神崎が、不敵な笑みを浮かべてひかりの首筋にナイフを当てる。)

神崎 「ようこそ。お前も、極上の商品として売ってやろう。」

(天井の闇から、死神統括官ヤミが音もなく舞い降りる。)

ヤミ 「カイよ、貴様の弱点はその女だ。愛という不確かな感情が、貴様の力を鈍らせるのだ。」

(地獄の番人ハジが現れ、ひかりの脳内に残酷な幻覚を直接流し込む。)

ひかり 「(声にならない絶叫)い……いやあああっ!!」

カイ 「(激昂し、地響きのような声で)やめろ……。彼女を、辱めるなああああ!!」

(カイの体から漆黒のオーラが爆発的に広がり、倉庫内の酸素を奪い、重力を歪ませる。)

○倉庫・覚醒の瞬間 (カイの力が暴走しかけ、倉庫全体が虚無に飲み込まれようとしたその時、ひかりの瞳がカイを捉えた。)

ひかり 「(力強く叫ぶ)カイくん!私を、信じて!!」

(ひかりの揺るぎない信頼が、カイの内の嵐を鎮める。カイの中で「空虚」が「創造」へと昇華した。)

カイ 「(静寂の中に響く、澄み切った声)……世界は、かくあるべし。」

(カイが手を開くと、神崎の持つナイフも、番人ハジの幻術も、死神ヤミの殺気さえも、その意味を失って霧散した。)

カイ 「お前たちが弄んできたこの世界から、お前たちの不浄な欲望を『無かったこと』にする。」

(不可視の波紋が広がると、神崎たちは記憶を失った抜け殻のようにその場に崩れ落ちた。)

○防波堤(明け方) (昇り始めた朝日が、穏やかな海面を照らしている。)

(解放されたひかりが、カイの胸に飛び込む。)

ひかり 「……怖かった。でも、信じてたよ。」

カイ 「ごめん、ひかり。……もう二度と、君の光を奪わせない。」

(二人の唇が自然に重なり、初めてのキスの味が潮風に溶けていく。)

カイ 「(モノローグ)この愛おしい日常を守るためなら、僕は何度でも、神の理に背いてみせる。」

(昇る太陽が、二人の影を長く、強く映し出していた。)

○スタッフロール (エンディング曲「陽だまりのパズル」が流れる中、大学の掲示板から神崎の名が消え、いつもの三人と一匹が談笑する穏やかなスナップ写真が流れる演出。)

(第10話予告) カイ 「大学の空気が変わった。……いや、これは『学び舎』の再来か?」

ソラ 「学校全体が結界に閉じ込められた!外へ出られない!」

ヤミ 「生き残りたければ、隣にいる者を殺せ。」

ナレーション 「次回、ネザーワールド・リヴァイヴ。第10話『神々の遊戯盤、学び舎の変貌』。平和な聖域は、今、地獄へと反転する。」