Q1.児童養護施設での苦情の内容について、どんなことでも結構ですので教えて下さると大変うれしく思います。
A.さて、要望苦情の内容ですが、それを公共の場で公開することはプライバシーの保護と言う観点から難しいものがありますが、概要としては、「遊具を増やして欲しい」「クラブ活動を作って欲しい」「○○ちゃんが意地悪するから何とかして下さい。」「お小遣いを増やして欲しい」などなどの内容があります。その他、年長児の場合は、施設運営に関わる苦情要望を出す時もあります。当園においては、職員育成上、こどもの人権に関しては、徹底的に配慮していますので、体罰等の人権に関わる対応が一切ないため、その手の苦情要望は見受けられません。
保護者からの要望意見に関しては、殆ど無いと言うのが現実ですが、大概の場合は、我が子の発言を鵜呑みにしての事柄で、職員が懇切丁寧に説明をさせて頂くとご理解される状況です。
Q2.一つ目は、ケースワーカーというのは、児童指導員のことを指すのでしょうか?二つ目は、保育士のお仕事と、児童指導員のお仕事と、明確な違いはどのようになっているのでしょうか?
A.保育士と児童指導員は明らかに役割が違うでしょう。こどもたちの養育で最も重要なことは「母性的養護」です。子どもが誕生したとき最初に基本的信頼関係を築くのは母親です。その後、乳児期から幼児期にかけての発達段階でも子どもの最大のパートナーは母親なのです。児童養護施設に入所してくるこどもたちの大半は、その母親の愛情が不足しているパターンが多く見られ、児童養護施設の保育士は、その部分を補填する役割を担うことになります。
児童指導員は父性的な役割を担うことになります。母親が生き方を教えるなら父親は人生を教えることでしょう。児童指導員もそうあって欲しいと願っています。
私が、職員達に常に伝えていることは、「大人になりなさい」と言うことです。まず、職員自身が大人になることが重要なのです。児童養護施設に入所してくる子供たちは大人への不信感で一杯です。大人が信頼できる存在であれば、入所することは無かったことでしょう。つまり、こどもたちにとって必要な存在は、信頼できる大人なのです。
Q3.児童指導員と保育士の仕事の区別があまりされていない施設などの場合は、ケースワーカーという場合には、保育士も含まれるのでしょうか?
A.ケースワーカーについては、現在では、ソーシャルワーカーと表現する場合もあります。先進的な児童養護施設では、専任のケースワーカーを配置しています。これまでは、ケースワーク的業務も保育士や児童指導員、つまり直接処遇職員全員が関わっていましたが、欠点としてケースワークの一貫性を保つことが難しく、その上、人格障害や虐待を行った保護者等々、対応に関して直接処遇職員の精神的疲労が児童対応以外で蓄積する傾向にあることです。つまり、ケースワーカーは、児童指導員や保育士のケースワーク業務を分離し、その部分をソーシャルワーク的に行う専任の職種と言うことになります。まだまだ、特に地方都市の児童養護施設では、ケースワーカーの配置が少ないのが現状ですが、これから求められていく職種になると信じています。将来的には、社会福祉士の活躍の場になればと期待しています。
Q4.児童指導員は男性の方が役割的に合っているので、女性の児童指導員というのは、あまりいないのでしょうか?
A.児童指導員の業務の一つにグループワークがあり、将来的に女性の職種の一つとして確立すれば良いなとの打算もありますが、そこには大きな課題点が表出してしまいました。 それは、入浴支援です。女性児童指導員が配置された部署では、男性(父親的役割)の入浴支援者がいなくなってしまうわけです。
但し、大舎制の場合、この様なことは交替制勤務の調整で回避できるので、女性の児童指導員が存在しても大丈夫と思いますよ。この様なことは、人事に関わりますので、要は運営者がどのように捉えるかに架かっていますね。
Q5.私は、孤児院や、虐待などで家庭で住めなくなった子どもの世話をする仕事につきたいと思っているのですが、そのためにはどのような勉強をして、どのような資格をとればいいのでしょうか?
A.まず最初に「孤児院」と言う名称は現在では使用されていません。
「孤児院」~「養護施設」~そして現在では「児童養護施設」と言う名称を使用しています。次ぎに「こどもの世話をする」と言う表現は良くありません。現在の福祉の世界は「支援する」と言うことになります。先進的な福祉施設は「サービス」へと昇華しています。
さて、思い描いている児童福祉施設は、「児童養護施設」や「児童心理療育施設」(法的名称は情緒障害児短期治療施設です)だろうと予測できます。
資格としては、主に保育士・社会福祉士・心理療法士・看護婦・管理栄養士が挙げられます。只、看護婦や管理栄養士は人数が少ないので求人が殆ど無いでしょう。心理療法士は心理系の大学を卒業し大学院まで進まなければいけませんので、よほど興味がなければ挫折するかも知れません。となると現実的なのは、社会福祉系の大学で社会福祉士の受験資格を取得し社会福祉士試験を受験することになります。但し、これは「児童指導員」と言うことになり、女性の場合、門戸が狭いことでしょう。(男女差別はしたくないのですが現実として特に地方都市の場合、まだまだ男女の仕事の区別はあるようです)
例えば「保育士」の場合、大学のパンフレットを見て、取得資格の中に「保育士」があれば、その学校を選ぶと良いでしょう。勉強としては、取りあえず、大学入学のための受験勉強と言う事になりますね。
Q6.「児童福祉司」という資格があったのですが、コレはどのような資格なんでしょうか?
A.「児童福祉司」は簡単に言うと児童相談所でケースワーク業務を担当している皆さんが取得する資格です。児童相談所は公共機関になりますので、公務員試験(一般行政職)に合格しないと働けません。また、公務員の世界は、自分の希望する部署に確実に配置されるということもありません。例え配置されたとしても定期異動等で部署が変わることもあります。
Q7.児童福祉司は公務員で、保育士はそうじゃないってことですか?
A.保育士は、公務員ではないとは言い切れません。例えば、公立の保育所の場合等は、公務員試験を受けなければいけないからです。只、就職先として、民間が圧倒的に多いと言えます。
さて、資格取得ですが、福祉系短大の保育科や福祉系大学の保育士資格課程履修が一般的ですが他にも、一定の単位を取れば、保育士試験受験資格がとれます。また、現代では極希ではありますが、5年以上の実務経験により保育士試験受験資格となります。学校の進路指導の先生にアドバイスを求めましょう。
Q8.自分は児童福祉の関係に行こうと思うのですが、どういった資格が必要で、どういった大学、専門校に行くのがいいのか(学部、学科なども)よくわかりません。学校を選ぶにも情報が足りなく悩んでいる次第です。
A.まず、「児童福祉の関係に行こうと思うのですが」と目標が明確でない表現を用いてますね。「児童福祉の仕事をしたい」との想いがあれば、例え高校生の時期でも担任の先生や進路指導の先生に本気で相談を持ちかけるでしょう。或いは、図書館で「福祉の仕事ハンドブック」などの本を閲覧することでしょう。本気の本気だったら書店で2000円位出費して、資格関係がまとめてある書籍をお小遣いで購入することでしょう。
つまり、本気で福祉の仕事をしたいと望むなら、情報は、周囲にたくさん転がっていることに気付くはずです。又、ボランティア活動等の機会も持てるはずです。
児童福祉、そこには生身のこどもたちが生きているのです。そして、そのこどもたちとのつきあいは、こどもたちのその後の人生に影響していくのです。生半可な気持ちで児童福祉を目指してはいけません。本気で目指して下さい。他力本願ではなく、自力で目標を勝ち取るくらいの気持ちで受験に臨んで下さい。
Q9.児童養護施設へ入所する児童の入所経路について知りたいのですが、どこで知ることができますか?厚生労働省での調査等で資料はあるのでしょうか?
A.各都道府県が子どもたちを措置しますが、その窓口となっているのが児童相談所です。児童相談所では、毎年1年遅れで統計資料をまとめていますので、問い合わせてみてはどうでしょうか。但し、やみくもに「見せて下さい」と言うのではなく、例えば、大学の研究資料として使用します等の正当な理由付けがあれば良いでしょうね。或いは、大学の図書館であれば、各種統計資料が揃えてあると思いますので、図書館にいる司書にお問い合わせすると良いと思いますよ。
Q10.「施設内での虐待を防止するにはどのようにすればいいですか?」
A.結論は、「人」です。虐待は、人によって行われます。
施設内虐待の場合(精神的身体的暴力)
1.職員が子どもに対して行う場合
*絶対あってはいけませんが、職員も完璧な人間ではありませんので感情的な対応を してしまい、それが習慣化してしまう場合などなど
2.子ども同士の場合
*いじめや大きい子が小さい子に性的いたずら、言動に対しての恐怖感などなど
3.子どもが職員に対して行う場合
*職員自身が子どもによって精神的に追い込まれるなどなど
職員や子供たちへの人権教育や労働条件の整備、第三者機関の介入など、この様なことは、当たり前に整備しなければいけない事柄であって、見えない部分で行われる虐待については、防ぎようがありません。
①職員採用システムを整備する。まず、真実に子供たちを愛せる職員を採用することが重要です。人事採用は、大概は、施設長によって行われますが、例えば採用試験に主任以上の職員に関わって貰うなど、複数の人物評価によって採用判断する方がよろしいでしょう。
②職員間のチームワーク構築。チームワークが構築されていれば、例え、施設内で虐待が行われても自浄作用が働くことでしょうし、互いのフォロー機能が働き、虐待に至る感情面の起伏が軽減されることでしょう。最も危惧することは、職員同士が不信感でぶつかり合っている場合でしょう。
③管理職の監督責任の明確化。職員或いは、子供たちから通報を受けた場合に適切に対応する能力が問われます。
④要望解決第三者委員の積極的活用。一応、形は、整っているが結局は、第三者委員が施設に具体的に関わっていないのであれば、意味を成しません。積極的に活動していただけるよう、施設側が活動条件をオープンにする必要があります。
⑤人材育成。「雇用しました。後は、自分で成長しなさい。」は、無責任です。職場として、責任を持って、子供たちにとって有益な職員の育成を担うべきでしょう。
と言うことで、結局は「人」なのです。
子育てをしたことのない独身者が殆どの職員構成、これは、何の言い訳にもなりません。要は、職員自身が、適切な常識を有し、大人としての自覚をもち、適切に精神コントロールが出来、専門知識を臨機応変応用できれば、虐待の殆どを防ぐことが出来ることでしょう。しかし、最も大切なことは、子供たちを真実愛せるかと言うことです。極論は、愛せないのであれば、施設職員にならないで下さいと言うことになります。また、就職当時は愛せていても初心を忘れてしまい、愛せなくなっている自分を発見したときは、それが、修正できないのであれば、潔く退く勇気も必要でしょう。児童福祉施設で最も優先されることは、こどもたちの精神的身体的幸せなのです。
さて、児童養護施設内で子どもも大人も誰一人傷つくことなく生活すること。これが、最大の理想です。
①施設に措置されている現実そのものが大人からの裏切りである。
②家庭環境によっては、疎外感を味わっていた場合もある。
③甘え方が分からない。
④我慢することが出来ない、或いは我慢しないと生きてこられなかった。
⑤ADHD、LD、自閉傾向等々のハンディを持ち合わせている。
⑥その他たくさん
要は、様々なタイプのこどもたちと共に生活している中で、出来ることなら「裏切り感」「疎外感」「嫉妬感」等を極力避けていきたいと言う思いが生じてきます。
Q11.こどもが心に傷をおって入所してきたが、なかなかなじめず周囲に迷惑をかける行動ばかりおこし、つい手をあげてしまいそのまま虐待へ。と、いうケースなども多いと思うのですが、解決策のひとつに心理職を配置するということは現状としてどうおもわれますか? 理想の労働環境とは(職員のやるきや、こどもたちとの生活とのかねあいなども含めて)どうあったらよいと思われますか?
A.児童養護施設に於いても「心理療法事業」の申請がスタートし、現在、心理療法士を配置している児童養護施設も少なくありません。ただ、補助金の量的課題があり、その様な雇用条件の中、臨床心理士の方が来て下さったらラッキーであり、場合によっては、心理学専攻の大学院生や児童指導員職が兼任するなどの方法をとっている所もあります。
つまり、昨今は、こどもたちへの心理的ケアとして専門のセラピストが関わっていることは事実です。しかし、セラピーと言うものはスパンの長い取り組みであってセラピーを受けたから劇的に子どもの状況が変化すると言ったことはありません。大切なことは、セラピストと児童担当者が少なくとも月1回は面談することです。その中で見えてきた事柄を実践の中で生かすことによって初めて、こどもたちの利益に繋がっていくことでしょう。
ところで、現在求められていることの一つとして、職員の精神的ケアが挙げられます。今回の質問の状況は、残念なことにあり得ます。と言うのは、「平静さを保つ」ことは、よっぽどの精神力が備わっていないと困難だからです。職員も普通の人間ですから、喜怒哀楽は勿論のこと時には、落ち込んだり、ヒステリックになったり、調子に乗ったりなどなど、様々な情態が見え隠れします。その様な職員の精神的ケアを担う存在が現場では求められています。
理想の労働環境について、条件を整えること、これは、労働基準法で定められていますので、当然やらなければいけないことです。
職員意識調査結果に於いて下記の回答がありました。(一部抜粋です)
◎明るく楽しく、みんな仲良く何でも話し合える様な職場になるように。
◎色々なことがみんなで話し合える職場であってほしい。
◎直接処遇に関わらず全職員が子どもひとり一人のことを思って連携がとれる
職場になっていきたいと思います。
◎報告、連絡、情報の伝達等をきちんと伝わるように徹底して欲しいです。
ここに全てが記されていますので、これ以上のコメントは控えますね。
Q12.どちらの立場もわかるので、どちらがいいのかまだ私にはわかりません・・。理想と現状、どうおりあいをつけていくべきなんでしょう。
A.「偏った判断はしないよ。」今年度、何度かみなさんに使った言葉です。
こどもたちへの対応についても、偏った視点で判断していては、子どもにとっても良くないし、職員間のチームワークも崩れてしまいます。一つの事象があれば、様々な角度の視点を集約し、考察し、最善の方法を導き出していく作業が必要でしょう。勿論、どんな判断を下しても、相手は、人格を持った人間ですから、その後の影響は予測できませんので、場合によっては失敗すると言うリスクを背負っていることになります。
私たちの子育てが一般家庭と異なることの一つに半永久的な子育てと言うことが挙げられます。一般的な子育てでは、こどもたちは、一つ一つ年齢を重ねていきますが、児童養護施設に於いては、例えば、10歳の子どもの子育てが終わっても、また、10歳の子どもが措置されてくることは、良くあることです。
そこで、職員が長く働いているかどうかで中堅以上の職員の存在が重要になってくるわけです。子育て技術の連鎖が確実に若い職員に伝わっていけば、児童養護施設の子育て能力はアップしていくことでしょう。
ところが、ご承知の通り、同じ施設に3年後訪問したら半数以上の職員が変わっていたなどの現象は、現代でも多いものです。また、職員が後輩を育成するとの意識が無ければ、子育て能力はアップするどころかダウンしてしまいます。
つまり、職員が長く働ける職場作りと言うことも、大切な視点なのです。こどもたちが児童養護施設から旅立ち、3~4年後に里帰りで帰ってきたけれど自分を担当してくれた職員は辞職していないのであれば、子どもにとっては寂しいものです。或いは帰りづらくなるものです。結局、一番の犠牲者は、こどもたちになります。
間違いを見つけることは比較的簡単ですが、正しいことを選択することは、非常にデリケートで難しいものです。だからこそ、決して偏った判断をしてはいけないのです。
Q13.日本に於ける里親制度の定着について、どう捉えますか?
A.日本に於ける里親制度に関して、管理人なりに考察してみます。従って、管理人独自の考え方ですので、「そう言う考え方もあるんだな」程度の参考にして下さいね。
まず、「外国人」と言う言葉を、どのように感じますか?私は、この言葉は嫌いです。何故なら「日本国の外の人」と言う意味になり、そこには排他的なイメージが浮かび上がってくるからです。日本では、元々、「異国人」と言う言葉があり、そこには、「文化の異なる国の人」と言うイメージが浮かび上がってくるので、どちらかと言えば「異国人」の方を好みます。
さて、日本は、周囲を海に囲まれた「島国」です。その上、山河によって、自然に区画が分かれ、それが地方へと発展しています。大昔の日本に於いては、交通の未発展もあり「村」は閉鎖的であり、地方と地方の交流がなく、地方自治の発達と共に「城」が出来ました。戦国の世では、城と城が対立していました。「国盗り」と言う言葉がありますが、小さな島国が更に小さな国に分立していたことになります。このことを「方言」が如実に表しています。
日本人は、いつも「美」を求めて生きてきました。鎌倉時代と言う、戦国の世に類い希な、美を傑出した日本人は、後に韓国の美を発見しました。そして、それを発見したとき、妬みと同時に独占したいという欲望を持ったのです。それが、豊臣秀吉であり、柳宗悦であったのだと思います。美は、茶道や庭によって「わび、さび」の概念へと昇華していき、そこには日本人独特の宇宙観、「拡がり」「永遠」へと繋がっていきました。このような日本人にとって、美が全てであり、キリスト教の神の愛は必要でなかったのです。仏教に於いては、その信仰の中に、美を見いだした。それは、日本に存在する仏像をご覧になれば理解できることでしょう。つまり、仏教では、人は死んだら仏になるのだと教えておりますが、人々にとっては、仏は、美の集大成でもありました。その仏になることは、無情の喜びであったのです。そして、これが異国の宗教である、キリスト教の迫害の一つの要因になったのだと、私は考えます。
日本は、大きく分けて、四つの島で出来ています。北海道・本州・四国・九州です。北海道は、寒い冬を迎えますが九州は、南に位置するため、それほど寒くはありません。つまり、北から南へと、細長く形成されているのです。その風土と四季の移り変わりが日本人の美意識を高め、生き方、考え方を独特のものへとしていきました。
島国と言う風土特性は、更に「血」の純血を守り、それが家系図と言う形で脈々と受け継がれていきました。それは、「家」と言う概念の基礎になっているとも言えます。自分の「家」に他人の「血」を入れることに対して、時には、排他的になったり、緊張感が伴ったりします。現代でも、「オープン・ハウス」をする一般家庭は、殆ど見かけませんし、留学生や旅行者などを受け入れる「ホストファミリー」もなかなか増えないのが現状です。ましてや、「里親」となると、受け入れ家庭探しが大変な状況です。
英国では、児童養護施設のコテージシステムを廃止し、制度的に「里親」へと移行し、成功していますが、日本に於いても「養育家庭制度」を始める頃、今後は、施設入所ではなく、里親制度やグループホームへと移行していくので、施設は少なくなっていくだろうとの見解がありました。しかし、例えば、グループホームについては「小規模児童養護施設」へと制度的には発展しましたが、日本経済の危機と連動し、国も地方自治体も余裕がなく、その制度を積極的に活用できない現状にあることは残念なことです。
Q14.現場に置いてどの様な家族援助をなされているのか、またはするべきなのかということを教えていただけないでしょうか。その他にも、施設以外での福祉的な家族へのアプローチや民間の働きについて教えてもらえないでしょうか。
A.さて、児童養護施設現場に於いて、現実は困難であると言うことが正直な状況です。児童養護施設の役割は、措置児童の委託を受けて児童支援を行うことです。ご承知の通り、措置権者は、各都道府県であり、その窓口になっているのが児童相談所になります。役割分担的には、保護者対応は、児童相談所の児童福祉司や心理療法士になりますが、現実は、児童への面会・外出・外泊・電話取り次ぎ・進路問題調整・相談の受けつけ等が日々の支援に絡んできます。時には、家庭訪問をすることもあります。
また、以下の点も現実です。
・職員の配置基準が現行では、児童6名に対して1人です。(但し幼児に対しては加算があります。)
・労働基準法で1日8時間、週40時間の勤務体制上のルールがあります。
・この様な状況の中、具体的には、職員1名で児童10名程度の支援を行っています。
・児童のタイプも被虐待児童だけでなくADHDやLD、PTSD、自閉傾向、てんかん、軽度の知的障害児童などなど様々です。
これだけ抽出しただけでも、児童養護施設では、児童支援が手一杯で、保護者のケアまでには至れない現実があることがお分かりでしょう。 専任のケースワーカーを配置し、児童相談所と連携を取りながら保護者との調整を行っていても、調整であって、ケアまでには至れません。児童支援で手一杯のためケースワーカーも1名が精一杯の配置でしょう。
児童心理療育施設(法的名称:情緒障害児短期治療施設)において、家族療法事業の申請を行っているところでは、精神科医と心理療法士の共同作業で家族へのケアを行っています。来園していただいてのカウンセリングや、家族療法棟に宿泊していただいてのケア、時には、家庭訪問することもあります。しかし、ここでも職員数が壁になってきます。家族療法事業に力を入れれば、その分、大切な児童支援の部分が手薄になり本末転倒の状況が生じてしまうからです。
最近は、地方自治体レベルでの「虐待・DV防止連絡協議会」等が設立され稼働し始めていますが、管理人としては、更に精神科医・ケースワーカー・心理療法士・看護婦・弁護士・ベテランの保育士又は母親等で形成される専門の機関を新たに設立し専門的なアプローチをしていただけたらと願っています。
Q15.援助は量より質だと感じています。しかし、現実は厳しいものなのですね。脱施設化と職員数の不足による援助の質の低下は矛盾しているように感じます。 社会的弱者と見られがちな人々が住みやすい環境・制度ができるように祈るばかりです。
A.全国レベルでの児童2名に対して1名の職員配置基準の要望しています。
一つ管理人からの要望があります。「社会的弱者」との表現は慎んだ方が良いでしょう。もし、自分が他人様から「社会的弱者」と見られたら、どんな気持ちになることでしょう。どんな境遇でも力強く生きている人々がいることも事実です。今回の文章表現についても「全ての人々が住みやすい環境・制度ができるように祈るばかりです。」としたほうが、誤解曲解を受けずに相手に伝わることでしょうね。
例えば、管理人が阪神大震災後、仮設住宅の皆さんへの支援を行っている時、「老人」と呼ばれるのは嫌だとのご意見をお聞きしました。「お年を召した方」の表現は如何ですかと問うと、それは良いとの事でした。意味は同じでも表現によって相手の受け止め方が変わると言う、事例です。一寸した表現の使い方で相手を傷つけたり、心地よくしたりしますので、気を付けましょうね。
Q16.「児童指導員任用資格」と「社会福祉主事任用資格」の違いは何ですか? 児童養護施設における心理職員ですが、大学院の学生が勤めている施設もあるようですが、つまり、必ずしも「臨床心理士」の資格が必要である訳ではないということでいいのでしょうか? 非常勤やパートの場合、資格が不要の施設もあると聞きました。施設で働くためには、資格が必要だと思っていたので驚きました。本当でしょうか?
A.
◎社会福祉主事任用資格は、次のいずれかに該当すれば、有資格者となります。
1.社会福祉主事の指定養成期間(専門学校等)や認定講習会(現職者対象)の課程を修了
→平成14年3月現在、指定養成期間は114課程、認定講習会は8講習会です。
2.大学・短大で厚生労働大臣の指定した科目(表参照)を3科目以上修めて卒業
*社会福祉士等の受験資格が取得できる福祉系の大学、短大でも条件が重なる
ため、取得できます。
3.社会福祉士、精神保健福祉士の資格を有する者
◎児童指導員資格は、次のいずれかの該当すれば、有資格者となります。
1.大学で福祉・社会・教育・心理学部(学科)を卒業
2.小・中・高のいずれかの教員免許を取得(級・教科不問)
3.厚生労働大臣指定の児童指導員養成校を卒業
4.児童福祉施設での実務経験者(高卒以上2年、その他3年)
*4のコースはおもに現職者を対象とするもので、これから就職する人にはほとんど適用されません
次ぎに心理療法事業については、心理療法を2年以上経験していることが基本になりますが、そのような人材の確保が難しい現実があります。
大学院生の名誉のために書きますが、心理療法については、真剣に学び、一例でも臨床経験を積み上げようと頑張っています。困難な事例等にぶつかった場合は、教授や精神科医等にスーパーバイズを受けたりもしています。
大体、1年~1年半に一度、都道府県からの指導監査が実施されますが、その時職員の資格の有無が指摘事項に挙がることがあります。つまり、現在に於いては、新しく採用する時、具体的には、求人票に、資格要件(保育士や社会福祉士等)を記入するのが通常です。もし、資格が不要と明確に答えている所があるとすれば、それは、直接処遇以外の職種で雇用しているのではありませんか。
但し、児童指導員任用資格取得の一つとして、児童福祉施設での実務経験者(高卒以上2年、その他3年)があり、以前は、この項目を利用して雇用することも多々ありました。また、残念なことに縁故関係での雇用が多発したりもしていました。職員採用に関して施設長面談だけで採用不採用が決まったりなど、雇用に向けてのシステム化が企業より遅滞気味であったことも事実でしょう。
結論は、児童養護施設に就職するためには、職種に応じた資格が必要ですよ。
Q17.生活の中で差別用語をこどもたちが使っている時がありますか?
A.「身障」「奇形」と言う言葉を子どもたちが使っている時がありました。それは、他の人と一寸違った言動をする人に対して発していました。時には、嘲りであり、時には中傷であり、時には憎悪であったりなどなど、その言葉を使う時の自分を振り返りなさいと話したりもします。
兎に角、属に言う「差別用語」については、厳格な態度で接することが大切でしょうね。ましてや、子どもたちを正しい方向へ導いていく役割の大人同士が、傷つけあっていてはいけませんよね。その様な意味からもチームワークが大切ですね。
Q18.ノーマライゼーションについて、何か事例を教えて下さい。
A. 各家庭は、それぞれの常識の中で日々の生活を営んでいます。児童養護施設には、その様な様々な家庭で育ってきたこどもたちが複数人います。つまり、たくさんの常識が交錯する世界なのです。そこには、ある程度、共通した常識が必要になってきます。それがルールの形成となり秩序を生むのですが、必要以上のルールは、束縛に繋がります。
つまり、バランスが求められるわけです。そのバランスの先には、こどもたちが如何にノーマルに成長を遂げていくことが出来るかになります。
例えば、「高校生○○君が友人の家に週末泊まりに行きたいと言っていますが、どう対応したら良いですか?」との職員からの問い合わせがあったとします。さて、あなたは、どう回答しますか。
①そのような事例がないから、許可したらダメだよ。
②友人の家で煙草吸ったり、飲酒したりすることが予想できるからダメだよ。
③何か事故があった時、園として責任取れないからダメだよ。
などなど、「ダメだよ」論法を振りかざしますか。それがノーマルな対応と思いますか。きっと違うでしょうね。
①何時、どの友人のお宅に泊まりに行くの。
②何時、帰宅する予定なの。
③相手のお宅の方に「宜しくお願いします」と電話するから、連絡先を教えて。
④高校生としての自覚を持って、未成年者がやってはいけないことはやらないでね。信じているわよ。
この様な対応は、どうでしょう。高校生の友人関係では、友人宅に集うことも、それ程、特別な状況ではないでしょう。「ダメだよ」ではなく、その希望を叶えるためには、このようなやりとりが、大人と子どもの間で必要なのよと方法を伝えることがよりノーマルではないでしょうか。
「施設だから出来ない、許されない」を一つ一つ無くしていく大人側の気持ちの切り替えが今求められています。
Q19.要望解決第三者委員の方は具体的に、どのようにこどもたちに関わっているのですか。
A.委員の皆様方の子どもたちとの交流を図る具体的な活動として、
①「○○月○○日の夕食に行きます。」と委員の方が園に連絡を入れます。
②園では、「○○先生は○○ホームで食事を共にします。」との段取りを整えます。
③委員の方が大体1ヶ月に一度の頻度で食事に来られます。
④子どもや職員とのコミュニケーションを自然な形で得ていきます。
⑤気心が知れると、子どもたちが、直接、委員の方に要望等を話しかけることが出来るでしょう。
以上の段取りですが、極力かしこまらずラフな形で、活動できるようご配慮ください。ホームでの受け入れとしても、「お客様扱い」ではなく、どちらかと言えば「友人扱い」と言った感じでお願いします。例えば、下膳なども子どもたちと同じようにやっていただいたり等です。また、コミュニケーションがスムーズに進むように話題提供を積極的にしてください。
委員の皆様方は、各方面のベテランの皆様ですので、気心が知れてきたら職員も相談したり助言を求めたりしても、きっと快く応じてくださると思います。
子どもたちにとって、よりよい生活の場を作っていくためにも、是非、第三者委員の皆様方の活動にご協力ください。
Q20.地域小規模児童養護施設についてよくわからないので、教えてください。 児童養護施設からの分園が多いようなのですが、例えば、NPO法人を作って地域小規模児童養護施設を運営することなども可能なのでしょうか?
A.児童福祉施設におけるグループホーム型事業は2種類あります。
①児童養護施設分園型自活訓練事業
学校卒業等にともない退所が予定されている児童を1施設あたり6人程度、おおむね1年程度の期間で適切な家庭生活訓練、社会適応訓練を行い、退所後の社会的自立を図ることが目的となっています。
実施場所は施設の外に、住所やアパート等、通常の生活に必要な設備を持った場所を用意する等して準備することになります。
②地域小規模児童養護施設
主として長期にわたり家庭復帰が見込めない児童を対象に、本体児童養護施設と一体的に運営するものとして、地域の住宅地などに新たな小規模な施設(定員6名)を設置し、近隣住民との適切な関係を保持しつつ、家庭的な環境の中で養護を実施することにより、入所児童の社会的自立を促進するものです。
*2つの事業共に本体の児童養護施設機能を補完することが目的となっています。
「分園型自活訓練事業」
1 趣旨
児童養護施設分園型自活訓練事業は、施設入所児童が施設を退所する前の一定期間に地域の中で生活体験を行い、併せて必要な訓練を行うことにより、社会人として必要な知識・能力を高め、もって社会的自立の促進を図るものである。
2 対象児童
施設長は、対象児童の選定に当たっては、一年以内に社会的自立を予定している児童を優先すること。
3 訓練期間
訓練期間は、就職前等概ね一年間とし、その開始時期は、高校三年進級時等とすること。
4 事業の実施
①事業は、緊急時において適切な対応がとれる場所で実施するものとし、児童の居室は、男女を別にし、一室の定員は概ね二人とすること。
また、必要に応じて個室を設けること。
②事業担当責任者には、原則として当該施設の児童指導員等直接処遇職員の内から適当と判断される職員をあてること。
また、事業担当責任者を中心とした施設職員による指導訓練チームを編成するなど施設が一体となった体制により実施すること。
③事業担当責任者は、次の書類の作成及び管理を行い、効果的な指導訓練が行われるよう努めること。
ア 年間指導訓練計画
イ 個別指導訓練計画
ウ 入所児童の生活記録
エ その他、当該事業に必要な書類
5 留意事項
①対象児童及びその保護者等に対し、事前にこの事業の趣旨及び内容を十分に説明すること等により、事業の円滑な実施が確保されるよう留意すること。
②事業の実施に当たっては、事故防止、健康管理、衛生管理等について十分配慮すること。
③指導訓練に当たっては、個性を尊重し、施設退所後の社会的自立への意識を高め、人間関係の形成が円滑に行われるよう努めるとともに、地域社会や関係機関との連絡調整等に十分配慮すること。
6 経費
本事業の実施に要する経費は、別に定めるところにより支弁を行うこととしているが、支弁の対象は年度内における各月初日入所児童の平均が四人を超える場合に限ることとしているものであること。
「地域小規模児童養護施設運営要綱」
1.目 的
地域小規模児童養護施設(以下「地域小規模施設」という。)は、現に児童養護施設(以下「本体施設」という。)を運営している法人の支援のもと、地域社会の民間住宅等を活用して近隣住民との適切な関係を保持しつつ、家庭的な環境の中で養護を実施することにより、児童の社会的自立の促進に寄与することを目的とする。
2.運営主体
地域小規模施設の運営主体は、地方公共団体及び社会福祉法人等であって、すでに本体施設を運営しているものとする。
3.対象児童
この施設の対象児童は、実親が死亡したり、行方不明等で、長期にわたり家庭復帰が見込めないもの等とする。
4.定員等
この施設の定員は、本体施設とは別に6名とし、常に現員5名を下回らないようにすること。
5.設備等
(1)日常生活に支障がないよう必要な設備を有し、職員が入所児童に対して適切な援助及び生活指導を行うことができる形態であること。
(2)個々の入所者の居室の床面積は、一人当たり3.3平方メートル以上とすること。
なお、原則として、一居室当たり2人までとすること。
(3)居間、食堂等入所者が相互交流することができる場所を有していること。
(4)保健衛生及び安全について配慮されたものでなければならないこと。
6.職 員
(1)地域小規模施設専任の職員として児童指導員又は保育士を2人置くこと。
(2)必要に応じ、その他の職員(非常勤可)を置くこと。
7.運営に当たっての留意事項
(1)地域小規模施設は、本体施設から援助が得られる等常に適切な対応がとれる場所で実施するものとする。
(2)施設の運営に当たっては、児童相談所、福祉事務所、児童福祉施設、児童委員、学校及び入所児童の家庭等と密接に連携をとり、入所児童に対する自立支援が円滑かつ効果的に実施されるよう努めなければならない。
(3)特に地域における近隣関係については、児童は地域において育成されるという観点に立ち、積極的に良好な関係を築けるよう努めること。
(4)本体施設から地域小規模施設に移行する児童及びその保護者に対しては、事前にこの施設の目的及び内容を十分説明することにより、円滑な施設運営が実施されるよう留意すること。
8.経 費
本施設の運営に要する経費は、児童入所施設措置費交付要綱により、別に定める保護単価を適用するものとする。