福祉施設職員への42の助言
大切な事は、利用者の幸せは勿論のこと、職員がやりがいを持って利用者への支援ができる職場作りとなる。「福祉」とは、利用者、その家族、関わる支援者、みんなが幸せを感じること。そのために何を成すべきかと言うことになる。
「利用者を研究対象として扱わない」は、支援者の気持ちの問題であり、倫理観の問題であると考えられる。どの程度の内容までが守秘義務に抵触しないのか、あなたの職場でガイドラインを策定することは、とても重要なことであろう。
日常生活の中で常に対応策を検討していく姿勢が求められる。時には、瞬間的に白か黒か明確にしなければいけない場面に遭遇することもある。そんな時、慌てなくて良いように普段から職員がチームとして、対応策の検討を重ねておくことが大切である。
あなたの職場は閉鎖的ではないか。利用者に対しても、職員に対しても、保護者や地域に対しても、ガラス張りの運営を行っているだろうか。また、運営者は、職員のあなたに情報開示を行っているのに、あなた自身が耳で聞いても記憶しない、あるいは、文書が配布されても読んでいない。書類整理を怠っているので、その文書が所在不明になり、再読することはない。と言う状態に陥っていないか。
利用者への支援を高めていくためには、情報を得て、その情報を発展させていくことが大切である。
支援者の意識の持ち方として、英語のラブからギリシャ語のアガペーへと昇華できれば最高である。ちなみにアガペーとは、「無条件の無私の愛」「与えつづける愛」「見返りを求めない愛」などと解釈できると思う。これは、仏教で言う「慈愛」と共通するものがある。自分の意志や思いを発言する力を育むことは、とても大切なことである。受動的ではなく能動的に自分の立場や生き方を構築していくことが求められる。それが、可能となるようチャンスを与えていくことが組織の役割であろう。
現在求められていることの一つとして、職員の精神的ケアが挙げられる。職員が「平静さを保つ」ことは、よっぽどの精神力が備わっていないと困難だからである。職員も普通の人間であるから、喜怒哀楽は勿論のこと時には、落ち込んだり、ヒステリックになったり、調子に乗ったりなど、様々な情態が見え隠れする。そのような職員の精神的ケアを担う存在が現場では求められている。
経営状況を知ることは、福祉制度を知ることに外ならない。制度は、更新されることがあり、その情報をいち早くキャッチし職場に導入していくことが求められる。また、あなたなりのプランを構築し、各種研修会等で発表したり、地方自治体に提言したりすることによって、これからの社会福祉の展開を図っていける力が、あなたにあることを認識しよう。
事業計画や事業報告の作成にあなたは携わっているか。あるいは、職員会議等で提示された時、熟読しているか。事業計画は、社会福祉施設の1年間の方向性を示す、とても重要な文書である。是非、目を通すことと、可能な限り、その作成に関与できるよう職場に提案していく。
支援目標をたて日々のケアを行っていると思うが、達成可能な目標設定をしておかないと、結局、何も結果が得られず次年度も同じ目標と安易な考えに陥っていないか。利用者は、その個性に応じて達成すべき事柄があることは、言うまでもないが、その中から達成可能な目標を個性に応じて導き出していくことが重要である。それが、必ず利用者にとって(+)になっていくことであろう。
自分の職場の予算書を見たことがあるか、見たことがない場合は、是非、見よう。職場の経営状況を知ることは、社会人として必要な知識であろう。「うちの実家は」「うちの会社は」とかの表現の「うち」と言う意識を自分の職場に持つことができたら、あなたのためにも職場のためにも、何より大切なことは利用者にとっても益となることであろう。
直接処遇の現場で日々、業務に追われていると、自分の職場の経営的な事柄は、雲の上の出来事として捉えがちだが、そうではない。特にお金の動きは、直接、あなたの業務に降りかかってくる。例えば、あなたが、利用者への支援を豊かにするために、「遊具を購入したい」と提案したと仮定する。「それは、予算化していない」「今は、お金がない」との回答を受けたことはないか。そのような状況を回避するためにも、あなたは、積極的に予算書を吟味し、可能であれば予算書策定に参画していこう。
職員だけの歓迎会や送別会、会費を徴収して行っているか。必要以上に物品を購入していないか。例えば、食材など、持ち帰っていないか。ボールペンや修正液など、私物にしていないか。などなど、実は、意識すらしていない搾取行為があるかも知れない。また、福利厚生費からの支出であると言う理由で職員慰安旅行費を全額公費で出していないか。自分の職場を納税者と言う立場で、ぜひ、見直してみよう。
支出に関しては、主任や施設長の承認印を得ることが大前提であるが、支出当日に、伺い書を作成し、主任や施設長が不在で、承認印を得ることができず、買い物に行けなかったと言う経験はないか。利用者に対してルールを課している場合、まず、自分自身が利用者の見本となれるよう努力を怠らないようにしよう。
あなたの前にも様々な困難が立ちふさがるが、一人で解決方法を探していくのではなく、利用者や同僚職員、そして、関係機関も巻き込みながら、協力し合って解決方法を導き出していこう。
見返りを求めず、ただ、利用者のために尽くす姿勢、継続して行えば、必ず、結果をもたらしてくれることであろう。そして、心を一つにして一枚岩となった職員たちのチームワークも大切である。
事件や事故は、どこでいつ起こるか分からない。利用者の安全を守るためには、日頃からの備えと準備が必要である。職場の危機管理体制を整えておくことが必要であり、何より、危機の回避方法を利用者に日々の生活の中で伝えておくことが重要である。被害に遭ってからでは遅いのである。
天災によってご両親を亡くし、児童福祉施設に措置されてくる子どもたちもいる。天災による被害は、物質的なものに止まらず心理的な被害が伴う。それがトラウマとなり長い期間、子どもたちを苦しめる。例えば、微震があったとき、それを敏感に感じ取り、心臓が圧迫されているかのような錯覚を覚え、鼓動が激しくなる。そして、不安が覆い被さってくる。このような体験は、大地震を経験したほとんどの方が味わっている。
トラウマは、天災等の災害だけに止まるものではない。親に見放され裏切られたという失望感、経済的に恵まれていたらという失意間、学校の授業についていけないという絶望感等々、様々な現実が子どもたちに襲いかかり、それらに立ち向かい乗り越えられる子どもたちもいれば、乗り越えられずトラウマになる子どもたちもいる。
あなたには、子どもたちの心の傷を発見し癒やす努力と回復する支援を行うことが求められている。
情報は、伝わらなければ無意味である。情報0の弊害は、特に緊急時に表れる。利用者への情報伝達を心がけよう。「人の話を聞いていなかった○○さんが悪い」と言う台詞があるが、「○○さんに、分かるように伝えられなかった私が悪かった」が正しい台詞である。あなたは、どちらの台詞を使っているか。
時の移り変わりで人は、変化する。そして、その状況により、需要も変化するのである。その変化に対応できる柔軟性が求められる。経済的には、需要と供給のバランスと表現するが、とても、大切なことである。今、その瞬間、利用者は今何を求めているのか、それを見極める能力を是非、身につけよう。
災害によって人生を強制的にリセットさせられた被災者の方々、それでも、そのどん底から這い上がろうともがく姿は、逞しさと共に、尊敬の念を抱かざるを得ない。ここで得られる教訓は、どんな状況でも、心の持ち方で立ち直ることのできる可能性が秘められていることである。利用者とのつきあいの中で、時には、利用者との関係をリセットして、関係構築をやり直したいと望む場合がある。でも、なかなか踏み切れず、関係修復ができない。すべて、あなたの心の持ち方で決まる。「人間、成せば成る」これくらいの気概を持って、利用者との関係修復に努めよう。
職員は、人として成長するとき、人生について次の根本的な疑問に対して、解答を求める必要がある。
①私は何なのか:自己の確立
②私は何故生きているのか:人生の意義
③私は何をなすべきか:人生の目的
そして、その成長に関わっていくのが、組織である。組織も職員と共に、自己の確立、使命の意義、使命の目的について解答を求めていき、互いに成長していこう。
あなたとの出会いは利用者にとって人生のキーポイントとなる。
あなたも以前、「きれた」と言う状態を経験したことがないか。その時、どのようにして解決したか。自己修復したか。それとも、身近な大人や友人に諭されたか。書籍やドキュメンタリー番組や討論会等の視聴で教訓を得たか。人は、様々な方法で困難を乗り越えていく。
あなたの経験も困難を乗り越えるための情報の一つとして活用できる。可能な限り情報を集め、利用者に提供していこう。
利用者を愛せないのであれば、施設職員にならないでくれと言うことになる。また、就職当時は愛そうとしていても初心を忘れてしまい、愛せなくなっている自分を発見した時、それが、修正できないのであれば、潔く退く勇気も必要であろう。社会福祉施設で最も優先されることは、利用者の精神的身体的幸せなのである。
数学や物理の定義は、唯一の答えを導き出す早道になるが、人間の営みの一つ一つを定義付けると言うことになると、そこには絶対的な答えはなく、只、統計学的な「定義」が導き出されるだけではないであろうか。「これは暴力だ」と「表現する人が多い」から「それは暴力なんだ」、正に集団心理の構図そのものである。「定義」そこには危険性が隠されていることも十分認識しよう。
あなたは、自分の仕事に対して信念を持っているか、そして、その信念を達成するために工夫をしているか、努力をしているか、その姿勢が大切なのである。例え、最初は、拒否や否定をされても、一貫した姿勢を示していけば、必ず、利用者や同僚職員の理解を得られることであろう。
実習生の中には、次世代福祉従事者の金の卵が存在する。それは、あなたの受け入れ方、あるいは、指導方針によって、その金の卵が殻を破るかどうかがかかっていると言っても過言ではないであろう。実習生の質問等には、丁寧に対応する姿勢を持とう。それは、あなたにとって、普段の業務の復習にも繋がっていく。
まずは、自己覚知をしよう。自分のことを理解することが専決事項である。そうすると自ずと歩むべき道筋が見えてくることであろう。そして、自己研鑽へと向かう。常に自分の人格を成長させていくことである。そのことが、必ず、利用者への支援を向上させていくことになる。
利用者との関わりの中では、時にはドラマティックなことも現実には起こる。そのドラマを構成するのは、利用者であり、あなたである。できることならハッピーエンドなドラマをプロデュースしよう。
利用者が追いかけている夢に対して挫折する場面に遭遇することが多々あることであろう。確かに現実的に達成不可能な夢を追いかけている利用者もいる。しかし、夢は叶えられるのが一番良いのであるが、挫折の仕方も大切である。利用者の心が折れない挫折の経験に導いていくのがあなたの役割なのである。
「時間を守ってくれ」と伝えているのであれば自分自身も時間を守る、それは、利用者の見ていない場面でもである。良くあるパターンが利用者には「正直に言ってくれ」と言いながら、公用車を傷つけても報告しない。あなたの働いている職場の公用車をチェックしてみよう。無数に傷やへこみがあることであろう。「自分の言葉に責任を持つ」単純で当たり前の言葉であるが、これを実行していれば、必ず利用者は、あなたへの信頼感を持つことができるであろう。
疾病を持つ利用者の担当になったこともあることであろう。疾病は、身体的不調だけではなく、心理的にも不調を来すことがある。それを軽減してあげるのは、あなたの愛情である。利用者の病気を理解し共感し、共に回復・改善に向けて頑張っていこうとの姿勢を利用者に示してあげよう。
重要なことは、支えるあなたが疾病のことを十分に理解しておくことである。利用者は、どんなに強がっていても不安なのである。そんな時、あなたが「私がついているから大丈夫よ」と支えてくれたら、どんなに心強いことであろう。
何も言わず自分と向き合う職員、そんな職員に対して、利用者ができることは、自分で何が正解かを導き出していくことである。社会福祉施設で働くあなたが、利用者に解答を与えてはいけないのである。利用者が解答を見つけ出していくお手伝いをしていくのが、あなたの役目なのである。
あなたは、利用者全員を愛しているか、利用者全員とおつきあいしているか、時には、関わりにくい、関わりたくないと言った感情に遭遇してしまったこともあることであろう。しかし、それを自分の中で「悪いこと」と受け止め、心の奥底にしまっていないか。それは、大きなストレスになり、場合によっては、精神が病んでしまうこともある。あなたの感覚は、あなただけが体験していることではない。先輩の職員達もあなたと同じように悩み、苦しんでいたのである。自分一人で解決しようとしないで、信頼できる先輩職員とか、学校の恩師とかに相談するようにしよう。他の人に話すことによって、解決の道筋に気づくこともある。
利用者の中には、時には、情緒的に不安定な様相を示す状態になる人もいる。その状態に対して、時には、イライラしてしまう自分に気づくこともあるであろう。しかし、ちょっと落ち着いて考えてみよう。一番辛いのは、情緒不安に陥っている、その利用者なのである。
不安材料を追跡し、発見したら除去してあげるパターンもあり、その不安の壁を乗り越える解決方法を示してあげるパターンもあり、利用者の個性に応じて、最も適した方法を探していくことが重要である。
情緒不安の利用者に対する対応として、最も大切なことは、あなた自身が落ち着いていることである。
利用者への対応に対して、のんびり構える姿勢も時には必要である。利用者の言い分を信じ続けることも一つの方法論として成り立つことであろう。利用者のどんな症状にも必ず解決策がある。それを推理していく作業、そこには、常に希望の灯火が見えることであろう。
仕事をする上で予測不可能な想定外の出来事に出会うこともあるであろう。あなたが弱音を吐いて、誰が幸せになることであろう。常に、一生懸命、利用者と向き合っていたら、どんな状況になっても後悔の責め苦からの解放に導かれると思う。
利用者の一人一人、それぞれ違った個性の持ち主である。その個性を十分に理解し、個性にあった支援方針を構築し利用者と付き合っていけば、それは、利用者にとって、職員へのストレスが軽減されることに繋がり、利用者の成長や満足を阻害する要因の一つが解消していくことに外ならない。あなたにとって、必要な取り組みは、利用者を見つめ続けることである。
利用者の置かれている状況を理解し、その状況を自分に置き換えて考えると自ずと、自分が何をすべきかが導き出されることであろう。
「利用者が言うことを聞かない」「勝手なことばかりする」「言い訳が多い」等々、利用者があなたの思い通りにならないとき、イライラしたり感情的になったりすることはないか。それは、裏を返せば、利用者を自分の思い通りに強制したいと言うことにならないか。人が人を思い通りに服従させる、これは、歴史の上での忌まわしい罪と同罪になる。あなたは、利用者を強制するのではなく適正な方向へと導くことが大切な役目なのである。
現在働いている方々、現在、志している方、利用者の前から去っていく自分を想像してみよう。その時、あなたは、悔いを残しているであろうか。その時、悔いを残さないために、自分が何を為すべきか、今なら間に合う。悔いのない青春或いは人生のために、今、精一杯、利用者の為に尽くそう。
「利用者との信頼関係が築けたと思われる時」それは、自分が利用者を信じられた時である。まず、自分自身が利用者を信じられなければ、信頼関係は成立しない。しかし、現実は、裏切られる事の方が多いであろう。「信じる」→「裏切られる」この繰り返しが福祉施設での支援の醍醐味と言えるかも知れない。また、このことがあるから、この仕事への意欲と責任が生じているのである。
裏切られることを覚悟で、利用者を信じよう。信じ続けよう。それが、信頼関係へのスタート地点である。