決算と予算
1.決算報告書を点検するための基礎知識
社会福祉施設を経営していく上で、会計は、重要である。収支バランスが崩れ赤字経営となれば、最悪の場合、事業所としての認可が取り消され、福祉サービス利用者は他施設へ分散し、職員は解雇となる。この様な事態に陥らないためにも、施設長は、事務担当を信頼し会計を任せることは大切だが、常に、会計状況を把握し点検することを怠ってはいけない。そのためには、財務諸表を読み取る知識を会得しておかなければならない。
財務諸表は、主に7つの表にて構成される。
①貸借対照表
②資金収支計算書
③資金収支決算内訳表
④事業活動収支計算書
⑤事業活動収支内訳表
⑥財産目録
⑦固定資産管理台帳
この内、③は②の詳細、⑤は④の詳細、⑦は⑥の詳細となっているため、③⑤⑦についての理解は後回しにしても良い。
財務諸表は、数字が羅列してあるだけで、何を見たらよいのか、分からないと言う経営者も少なからず存在する。
そこで、表の見るべき部分を簡単に説明する。
①貸借対照表
この表は、たいてい、1ページで収まっている。資産の部合計と負債及び純資産の部合計が一致していれば正解である。仮に不正解であれば、何か大きな仕訳ミスがあるため、指摘しその原因を報告させて、修正をさせるようにしなければならない。
ただし、仮払金の欄に数字が計上されていれば要注意である。月次報告の時は、特に問題ないが、決算時は、仮払金を持ち越さないことは原則である。年度末会計処理が未熟であると言うことになる。
②資金収支計算書
最初に収入科目が並んでいるが、その収入科目の最後の行に「経常収入計」があり、次の行に「人件費支出」がある。
人件費支出÷経常収入計=と計算してみる。人件費比率が算出されるが、その比率が高ければ高いほど、事務費や事業費に影響を与えているため適正な比率を維持することが重要である。また、建築事業等、特別な事業がある場合も収支比率のバランスに影響を与える。人件費比率については、会計職に説明を求め、適切かどうかの判断をしなければならない。仮に不適切であれば、次年度予算編成で改善しなければならない。
この表の最後から3行目に「当期資金収支差額合計」があるが、この部分の数字が(-)の場合、赤字経営ということになる。しかし、最終行の「当期末支払資金残高」に資金が残っていれば、経営的には、大丈夫である。ただし、経常収入計の30%を超過している場合は、自治体指導の対象となるので気をつけなければならない。
④事業活動収支計算書
殆ど、資金収支計算書と変わらないが、資金収支計算書の場合、預金口座を通過したものが反映しているが、事業収支の場合は、金銭授受がない取引も反映している。その様なことから表の最後の部分に違いがある。特に最終行「次期繰越活動収支差額」の数字は、貸借対照表に連動している。
⑥財産目録
貸借対照表と内容的には、変わらず、純資産の部を省略した表程度に解釈すれば良い。ここでは、「設備資金借入金」の数字をチェックする。いわゆる、借金である。借金は、少ない方が、もちろん良いのだが、改築事業を行った場合、借入金の数字は、一気に増大する。従って、ここの数字が大きい場合は、改築工事や大規模修繕を、最近、行ったと解釈する。
⑦固定資産管理台帳
貸借対照表と照合する必要があるが、不整合であれば、それは会計職が未熟であるとの表れである。また、減価償却が適正であるかのチェックが必要だが、最近は、殆ど、会計ソフトで処理しているため、余程のことがない限り、大きな間違いはない。
以上、財務諸表の簡単な見方を説明したが、決算書類には、他に次の表が追加される。
・貸借対照表の各科目の明細表
・資金収支計算書の措置費や寄付金の明細表
・3月31日付の残高証明書
これらの書類が全て、整備されたら、法人の監事監査を受ける。この監査は、自治体等の指導監査とは、違い、法人の内部監査の位置づけである。
会計士やそれに準ずる能力の方が法人監事を担っている。細部に至るまで、チェックが行われる、その厳しい、監事監査を経て、5月~6月頃開催される法人定例理事会で、決算報告を行い承認を受けることになる。
それら一連の流れが終了した時点で、ホームページ等を通しての財務諸表及び事業報告書の開示になる。
監事監査では、決算書類の他に、法人登記簿謄本、定款、諸規定のチェックも行われている。
2.予算書を点検するための基礎知識
収入の合計と支出の合計をチェックする。予算書上は、必ず一致しているはずである。予算上の支出は、実際金額より少し多めの設定をしているため、収支バランスで収入が少ない場合もある。そのような時は、寄附金収入等の数字で調整をしている。と言うことは、寄附金収入の数字が異常に多い場合は、経営的に不安定との捉え方もできる。
他にも予算化には、様々なプロセスが必要であるが、最も重要なことは、収支バランスを整えることである。会計責任者の施設長は、事業計画案、予算案が完成したら、理事長に提出し、理事長は、大体2月から3月頃開催される予算理事会において開示し、承認・決議を得ることになる。決議後は、予算案から予算書となり4月1日より執行することになる。
予算計算は、計画の域を脱しないため、想定外の支出に対しての防衛策には限界がある。従って、年度途中における計画変更は、度々起こりえる事象であり、科目間流用等、予算流用で対応する場合もあるが、会計責任者は、補正予算案を策定し、理事長に提出、定例又は臨時理事会に於いて承認・決議を得る流れが一般的である。
理事会に於いて、補正予算案の承認を円滑に得るために、当初予算から補正予算への変更点を整理し、その理由を明確に示すことが重要である。想定していない事象が発生し、予算化していなかった勘定科目が加えられるなど、予測以上の支出が発生し支出バランスが崩れた場合、原因と対策を説明することによって、補正を行う根拠を示すことが求められる。
しかし、理事会招集には、自ずと回数的に限界があり、理事会承認までは、流用の方法を採らざるを得ない。可能であれば中区分間の流用を心がけ、それでも駄目な場合に大区分間の流用に移行する。更なる方法は、理事長権限による予備費流用の手続きとなる。
会計責任者は、総括的に予算執行を分析し、最も適切な方法を選択、対処する応用力と決断力が求められる。勿論、理事長に報告し判断を委ねることは、原則である。