社会福祉法人を設立する
社会福祉法人を設立するためには、平成12年12月付局長通知である「社会福祉法人の認可について(通知)」に添付された「社会福祉法人審査基準」を参考にしなければならない。
社会福祉法人は社会福祉法の規定に基づき社会福祉事業を行うが、最低限のルールが定義されている。主たる内容は、
①社会福祉事業が法人の事業の主たる事業であること。
②社会福祉事業の経営が、法令遵守であること。
③社会福祉事業における社会福祉施設が最低基準を満たしていること。
④社会福祉事業に必要な財源の大半を収益事業に求めないこと。
その他、社会福祉施設を持たずに相談業務や連絡業務のみの事業だけで法人申請が行われた場合は、慎重に審査する旨が記載されている。
社会福祉法人は、社会福祉事業の専門家として存在しなければならない。それが公共の福祉を担っている責任感に結びついている。
社会福祉法人としての認可を受けるにあたって、無一文では、申請書は却下される。社会福祉事業を行うために必要な資産を有しておかなければならない。資産には、基本財産、運用財産があるが、具体的には、土地・建物・運営資金等が挙げられる。特に基本財産である土地・建物については、所有権を有していなければならない。所有権を有しているとは、法人名義で登記することを表している。ただし、国若しくは地方公共団体から貸与若しくは使用許可を受けている場合はこの限りではないが、1000万円以上の現預金等が必要である。また、土地については、必要な期間の地上権又は賃借権を設定し登記していれば、国若しくは地方公共団体以外の者でも良いことになっている。社会福祉施設を経営しない場合は、原則として1億円以上の基本財産として有しておかなければならない。ただし、委託費等で事業継続に必要な収入が安定的に見込める場合は、所轄庁と協議することになる。
社会福祉法人設立時において必要な資金を整理すると。
①土地購入資金
この資金額は、地域によって違うため予測額を算出することは不可能であるが、福祉施設運営に必要な敷地面積を5000㎡程度、㎡単価を10万円と仮定した場合。 5億円
不動産の全部を国若しくは地方自治体から貸与又は使用許可を受けている場合は、基本財産として1000万円以上の現預金等が必要である。
②施設整備費
4億円の施設を建築すると仮定する。
・約4分3は、国及び自治体の補助金 3億円
・約4分1の金額の4分の3は、福祉医療機構から融資を受ける 7500万円
・自己資金 2500万円
・敷地調査等各種調査費用、登記費用等の諸経費、備品購入資金等 2500万円
③事業運転資金
通常は年間事業運営費の12分1以上であるが、施設種別によって割合が変わる場合がある。
3億円の年間事業運営費と仮定する。 2500万円
④法人事務費
100万円以上の現預金を準備しておくことが必要である。用紙代、ファイル購入、郵送費、印紙代等々、経費は日々要するのである。準備室を設け専任職員を雇用する場合は、その人件費も発生する。
社会福祉法人設立時に必要な資金の目安は、1億円程度となる。諸経費以外は、貸借対照表上の資産及び負債になるが、諸経費も合わせて現金が存在することになる。この現金については、確実な金融機関に預け入れ、確実な信託会社に信託し、又は確実な有価証券に換えて、保管することとし、その旨を定款に明記することとなっている。当然のことであろう。この1億円程度の資金については、「投資した」「出資した」と言う考え方より、「寄附した」が適当な表現となる。つまり、社会福祉法人が危機的状況になり、解散する場合、その残余財産は、他の社会福祉法人に帰属させると定款に定めることがある。定めていない場合は、国庫に帰属するものとなる。
従って、最初に1億円、準備した者の元に1億円分の財産が戻されると言うことはない。大抵は、発起人が中心に資金を集めるため、初代理事長に就任することが多い。その後、世襲によって理事長が引き継がれていく法人が、現代でも見受けられるが、減少傾向にあると言える。
社会福祉法人には、役員として6名以上の理事と2名以上の監事を置かなければならない。ただし、成年被後見人又は保佐人、生活保護法、児童福祉法、老人福祉法、身体障害者福祉法又は社会福祉法の規定に違反した者、禁固以上の刑に処せられた者、所轄庁からの解散命令を受けた時の役員、関係行政庁の職員、自治体等の公職にある者等は、役員になることは、出来なかったり差し控えなければならなかったりがある。また、法人運営に参画できないが、名簿上、役員として名を連ねているなどは、もってのほかである。
理事会及び評議員会の定数についての関係法令及び通知は、「社会福祉法」「社会福祉法人の認可について」「社会福祉法人定款準則」「社会福祉法人監査要綱」が挙げられる。
理事は、社会福祉事業について熱意と理解を有し、かつ、実際に法人運営の職責を果たし得る者であること。また、責任体制を明確にするため、理事の中から理事長を選出することと明記されている通り、理事会に出席すれば職責を果たしたことになるとの安易な考えで理事を引き受けてはならない。
では、理事・監事の定数については、社会福祉法では「役員として、理事3人以上及び監事1人以上を置かなければならない。」とあるが、社会福祉法人の認可について(通知)では「理事の定数は6人以上とすること。」となっている。監事については、社会福祉法において、「社会福祉法人には、役員として監事1人以上を置かなければならない」と規定されているが、定款準則では監事を2名以上置くこととなっている。従って、
理事…6名以上
監事…2名以上
また、約束事として(一部抜粋)
①理事には、社会福祉事業について学識経験を有する者又は地域の福祉関係者を加えること。とあり人数緩和がなされ1名以上となっている。
②社会福祉施設を経営する法人にあっては、施設経営の実態を法人運営に反映させるため、1人以上の施設長等が理事として参加すること。
③当該法人に係る社会福祉施設の整備又は運営と密接に関連する業務を行う者が理事総数の3分の1を超えてはならないこと。
「評議員会は、理事の定数の2倍を超える数の評議員をもつて組織する。」とあり、最低、12名で構成することになる。社会福祉法では任意設置となっているが、社会福祉法人の認可について(通知)では原則設置となっている。
「監事は、理事、評議員又は社会福祉法人の職員を兼ねてはならない」との条文があるが理事については、条文がないので、理事が評議員になっても差し支えない。
また、約束事として
①当該法人に係る社会福祉施設の整備又は運営と密接に関連する業務を行う者が評議員総数の3分の1を超えてはならないこと。
②社会福祉事業の経営は地域との連携が必要なことから、評議員には地域の代表を加えること。
資金が調い、役員も揃い、定款も整備できたところで、設立手続きを開始することになる。その設立手続きの所轄は、次の通りである。
①事業を行う場所が1自治体の区域内であれば、その自治体が所轄庁となる。
②次の事業を行う場合は、厚生労働大臣が所轄となる。
・全国を単位として行う事業
・地域を限定しないで行う事業
・法令の規定に基づき指定を受けて行う事業
・それらに類する事業
これらに当てはまらない事業については、各地区の厚生局長が管轄となる。
ただし、設立認可申請書の提出は、法人事務所の所在自治体となり、その自治体の担当者が、自治体での受理か厚生労働省での受理かを判断することになる。
法人の行う事業が、関係法令及び諸規定に示す基準を満たしているか、事業を行うのに必要な資産を備えているか、その定款の内容及び設立手続きが法令の規定に違反していないか等が審査され、すべてを充たしていれば認可されることになる。
社会福祉法人の設立認可申請書を提出する上で、法人名と施設名の名称を決めなければならないが、個人名や企業名等の引用、同自治体内で既に使用されている名称、難解な漢字等一般的に読めない文字等の使用は、避けなければならない。また、法人名と施設名を同一にすることも避けなければならない。