リーダーの選出
リーダーとは、統率者であり指導者であり指揮者でもある。組織を統率し職員を指導し、事業を指揮する。その権限を有しているのがトップマネジメントである。トップマネジメントは、企業の場合、役員以上の経営陣を指す場合があるが、社会福祉法人においては、理事長、理事がそれにあたる。しかし、殆どの場合、無報酬でその役を担っているため法人経営についての集中力は、それぞれの意欲に任されている。日本における社会福祉法人は、介護費・支援費・措置費・利用料徴収等により、最低限の経営資金が保障されている。そのため、戦後の社会福祉事業のように、運営資金としての寄附金集めに奔走する危機感はなく、組織のために資金提供(寄附金)している理事も少なくなった。では、資金集めをしない理事は、何を担っているのか。殆どの場合、年に数回の理事会出席である。しかし、それはそれで、トップマネジメントである理事長のアドバイザーとしての機能を理事会で発揮すれば良いのである。その理事長を選出するのも理事会の大切な任務である。
社会福祉法人の場合、適正であり健全な安定した経営を継続していくことが社会貢献となり得るのである。その経営資金には、補助金や利用者からの徴収金等があり、不適切な資金使途は、許されない。福祉施設内部において、暴力等の不適切な対応やサービス不提供は、許されないどころか犯罪である。何よりも福祉サービスの提供を待っている顧客が存在する限り、そのサービスを継続していくこと、つまり需要に対して供給し続けることについての社会的意義は大きい。
しかし、社会は刻々と変化しており福祉サービスに対する要求も変化している。時代に合わせたニーズを探求し、事業内容を柔軟に対応させていく。その対応策がニーズに合致しない状況が訪れた場合、その時がイノベーションの機会である。その機会を発見し、新しいアイデアを創出し、それを実行に移す勇気ある人材こそがトップマネジメントにふさわしいと言える。
では、リーダーを選出するための要件を挙げる。
第一に、その人の実績や功績を評価し、その人の強みを見る。
第二に、組織の現状を評価し、組織は、何を成すべきかを見極める。
第三に、真摯さを見る。リーダーは模範となるべきものである。
能力がない人、意欲がない人、目標達成への貪欲さに欠ける人、組織の使命に対して情熱を持てない人、これらの人をリーダーとして選出しても、成果に繋がらないことは容易に推測できる。実績や功績を評価することは現実的である。社交的である、温厚であるなどのヒューマニズムに訴える評価を優先してはいけない、それらは、リーダーとして任務を遂行していく上で、習得できる事柄である。重要なことは、実績や功績から、その人の強みを発見し、それが組織にとって益となるかである。
組織の現状は、いかなる状況なのか。事業の使命に対する達成度合いはどの程度か、それに対して改善が必要か、ニーズを鑑みて廃棄を決断しイノベーションに取り組むべきか。人事の刷新など改革が求められているか。など組織は生き物である。常に健康であれば良いが、時には疾病を患うこともある。リハビリによって回復することもある。トレーニングによって強靱になることもある。治療する場合、投薬治療、外科手術、照射治療など様々な処方の中から適切な処方を選択するのである。リーダーを選出する場合、年功序列や社会的地位などで安易に判断するのはナンセンスである。組織の成果に貢献できる人材は誰かを問うべきである。
物事に対して一心に取り組む様を真摯さと表現できるが、真面目でひたむきな姿勢は、人の心を掴む。社交的である。温厚である。などは二次的現象であり、重要なことは、真摯さを見ることである。リーダーは、模範となるべきであり、真摯さに欠けたリーダーに誰も共感しないし、それは、成果に繋がらない。リーダーは、平々凡々と業務を進め、何事も変化がないことを良しとしてはいけない。使命に対して成果を出すと言う大義にコミットしているのであるから、その使命に向けて優れた能力を要求されるし発揮しなければならない。組織の中での自分の立ち位置を認識し、組織にとっての自分の役割に対してビジョンを描く。自分個人は、プライベートの時間だけであり、組織に所属している時間は、自分たち、つまり、われわれの組織のために自分はどうあるべきかを常に問わなければならない。
人事や事業の方向性の決定、新規事業の企画決定等において、個人の思惑を提案し、理事会は、それに気づくことなく提案が承認される。それが人事に適用されれば、優れた能力の職員を破滅に追い込むなど悲惨な状況を招きかねない。リーダーは、常に公正でなければならない。自分は二の次であり、われわれの組織を優先させなければならない。自分を優先するリーダーは、使命を見失い、職員からの信任を得ることも出来ず、結局、組織を崩壊させていくことに繋がっていく。
組織は、一人のマネジメントにより事業の方向性が打ち出され、トップダウンによって事業が振興されていくなどは愚の骨頂であり、トップマネジメントが意図するところではない。トップマネジメントとは、権限の委譲を適正に成し、組織の末端にまでミッションが共有共感されることに意味を成し、それが成果へと繋がっていくのである。
社会福祉法人の理事長が、事業所の細部に亘って掌握しマネジメントしていくのは非現実的であり、リーダーの姿が見えない状態での日常業務の遂行は、統率力が発揮されず、職員の意欲低下へと繋がるサイクルを繰り返すことになる。理事長は、事業所のマネジメントを施設長に権限委譲することが求められる。それがトップマネジメントの意図するところである。また、権限委譲された施設長は、部署や業務内容により、リーダーを選出し、役割や任務に応じて、権限委譲をすべきである。権限は、統括は施設長が行う原則を厳守すれば細分化しても良いのである。責任を担うべき人材を、運営委員として配置することによって、組織が活性化していくことになる。もちろん、リーダーを選出する場合、リーダーの要件を充たしているかどうかを念頭に置く必要がある。技能や技術は、トレーニングしていけば良いのである。
古い体質の社会福祉法人では、「法的に役職が定められていない。」「組織化は業務を堅苦しくする。」「偉い人はいない。みんな同僚である。」「権限を分散すべきでない」などの体質が今でも残っている場合がある。また、主任・係長・課長等の役職名を与えても、その責任に対する対価(報酬)は、配慮されていない、役職名は名ばかりで権限委譲が殆ど成されていないなどの場合もある。先進的な社会福祉法人は、これらの要因をすべて適正化しているのである。その上で、人事考課に取り組んでいる社会福祉法人もある。上司の人事評価だけではなく、本人による自己評価も吸収し、昇級や賞与に反映させている。 非営利団体である社会福祉法人の職員たる者、報酬によって働いているのではなく、使命を成し社会貢献を担うために働いているのは周知の事実であるが、ひとり一人の職員には人生があり、生活がある。生活資金を担保することも組織の役割であり、報酬が職員の意欲や情熱へと転換されれば、組織にとって益となり、成果へと導くおおきな原動力となる。人事考課は、その評価システム構築次第で諸刃の剣ともなりうる。公正で適正な評価システムを構築することが最低条件での運用となる。
最も重要なことは、リーダーは、要件に照らし合わせて適正に選出することは、言うまでもないが、次期リーダーを育成することを怠ってはいけないことである。組織は、安穏と人が成長するのを待っていてはいけない。積極的に育成していくことが重要であり、マネジメントは、人によって成され、成果と言う結果を出していくのである。