人事は唯一の管理手段
組織は、人事において、その未来が決定づけられる。つまり人事は組織の根幹を成す重要な位置を占めるのである。人事管理が組織の明暗を左右するのである。社会福祉法人を見る場合、適正に人事管理されているかどうかで、組織としての真摯さを計ることができる。掲げるミッション、価値、目的が理想論の羅列ではなく、真に意味のあるもの、意義あるものであるかの判別を可能にする。
「年功序列」は、確かに誰もが分かりやすい人事配置の方法である。目上の者から順番にリーダーの位置に配置する。組織としても懲戒に値する所行等がなければ、自動的に配置できるため、人事に対する心労を感じることはなく、職員も、経験年数を重ねながら、次は自分の番だとの予測が立てられる。しかし、ここにはマネジメントが介在する余地はないのである。「年功序列」こそ、イノベーションの対象である。人の真摯さは、年齢や経験年数によって推し量れるものではない。また、人の強みもしかりである。
社会福祉法人での人事決裁権は理事長にある。事業所長(施設長等)の人事は、理事会で決議し理事長決裁となるが、事業所における主任等の人事は、事業所長が提案し、理事長が決裁する。しかし、事業所数が多い法人の場合、理事長及び理事が、事業所の人事状況を把握しておらず、現任施設長の提案のみで決裁されたり、外部から人を入れたり等の愚策に走る法人もある。なぜ、愚策と表現したのか、それは、次世代のリーダーを育成していないために起こる現象だからである。外部から人を入れることが愚策ではない、リーダーを育てていなかったことが愚策なのである。
人事は、
第一に、ミッションにとって有効な人材か。
第二に、複数の候補者を選出する。
第三に、成果の実績を見る。
「人付き合いが良い」「扱いやすい」「カリスマ性がある」など、性格面での判断は誤りである。評価すべきは、成果に対する実績である。
第四に、強みを見なければならない。
他の人と比較して並外れた強みの持ち主であれば、評価すべきである。ただし、リーダーの条件を兼ね備えていることも考慮しなければならない。
リーダーの地位を与えた場合、最初から決定とするのではなく試用期間を設けて、リーダーとしての資質の最終評価をすることも重要である。
組織における人事は、人の人生に大きく影響する。成長させることもあるが、劣等感を抱かせることもある。人格形成に貢献することもあれば、人格を否定することもある。組織の人事は、「村八分」「窓際族」なる現象を引き起こすことも可能である。
つまり、人事には最大限の真摯さが必要である。そのために、人事考課を試みたり、候補者への面接を試みたりなど、公正さを担保することも重要である。真摯さに欠けた人事の裏には、使命感、成果、強みを無視された屈辱感や挫折感を味わい、使命への意欲を失った人材があるかも知れない、組織に対しての失望感から辞職を決断せざるを得ない状態に追い込まれた人材があるかも知れない。このように、人事は、人の人生に影響するのである。真摯さに欠けた人事は、そのこと自体が悪意ある武器であることを認識しなければならない。
人事は、配置すれば、それで完了ではない。育成しなければならない。見守らなければならない。放置することは、ネグレクトである。つまり、虐待であることを認識しなければならない。人事は、母親が我が子を慈しみ育てるように、組織は、人を慈しみ育てなければならないのである。そのために組織は、次のことに気をつけなければならない。
第一に、強みでなく弱みに対して、何かを行わせてはならない。弱みを無視して強みを生かす仕事を与えなければならない。職員として働いている人は、殆どの場合、成人である。個性はできあがっているのである。礼儀、態度、スキル、知識は、学ぶことによって向上していくことは可能であるが、個性は、人の内面の領域であり、組織が変えることは困難である。いや、不可能である。
第二に、成長の見通しを大局的に捉えることなく目先の変化に着目した育て方をしてはならない。技能や知識、リーダーシップの習得など、身につけるべきスキルはあるが、人を育てると言うことは、もっと深いものである。人の人生に関わるものである。組織の目標とその人の目標を一致させる作業が必要である。
第三に、権限には責任が伴うことを伝えなければならない。リーダーの地位を与えられたからと言って、人として偉くなったのではない。負うべき責任が与えられたのである。確かに、素質や能力が伴いリーダーとして選出したのであるからエリートではあるが、エリートとして扱っては、人は成長しない。責任を果たしていくことによって人は成長するのである。
非営利組織である社会福祉法人の強みは、報酬ではなく大義のために働く職員が存在することで成立している。それが基本であり初心である。しかし、初心は、時間の経過と共に薄れていくのも現実である。組織は、職員が社会福祉事業に従事する時に抱いた情熱の火を燃え続けさせる責任がある。これは、義務とも言える。日々の仕事を福祉サービスの提供ではなく、単に労働と解釈していては、使命は果たせないばかりか人の成長もない。「われわれの誇りは何か」「われわれは何をなし得たか」と問い続けなければならない。重要なことは、成果なくして社会福祉事業の社会貢献はなし得ないと言うことである。