マーケティング戦略の重要性

 非営利組織である社会福祉法人は、何に対して顧客に満足して貰えるのか、どの様な方法で顧客に満足して貰えるのか、その満足は一過性なのか継続的なのか、顧客が望んでいて足りないものは何かを常に問わなければならない。そのために必要な人材の質、人数を検討しなければならない。更に、資金をどの様に調達するのか、どの様に配分するのかを考えなければならない。資金は、殆どの場合、潤沢に用意できるものではない。限られた資金を無駄なく有効に活用することが大切であり、偏ったニーズに大量に資金投入することは避けなければならない。成果は、最小限ではなく最大限の成果を望むべきである。
 事業所として社会福祉施設を経営している場合、創設時に必要性と有効性を調査検討しており、確かにマーケティングを実施しているが、そのことに甘んじてしまい。その後の追跡調査を試みておらず、日常のサービス業務に四苦八苦しているパターンに陥っている社会福祉法人も多い。しかし、時代は社会は、刻々と変化しており、創立時のニーズと現在のニーズが異なっていることに気づいていない場合がある。サービスを受ける利用者の求めているサービス内容を調査し、それを実現できる方法を決定し、顧客満足度を向上させていく活動こそがマーケティングである。
 マーケティングは、営利企業のみの技法ではない。非営利組織こそマーケティングが必要であり重要である。しかし、忘れてはいけないことがある。それは、社会福祉法人の使命を考えた場合、利用者に満足して貰うサービスを提供することは、方法であって、成果に至るプロセスである。成果は、人を変えることである。人生を豊かにすることである。それが社会福祉法人に課せられた社会貢献への使命である。
 サービスの企画を立案し、マーケティング(ニーズ調査)を行う。そこで、企画の有効性を検討し、企画の修正や廃棄を行い、計画書を策定、最適な人材を配置しチーム編成を行い、同時に予算化を行う。そして、実行へと踏み出すのである。事業の振り返りは、最終的に行うとのルールは存在しない。事業の節目節目で振り返りを行い、改善・廃棄・導入を繰り返していくのである。まさに戦略である。戦略は、戦争や闘争等の争いごとにおいて使用される言葉ではあるが、全体を把握し期限を設定し準備・計画・運用の方法を整理していく作業においては、事業の振興プロセスと同じである。
 社会福祉法人にとって、マーケティングの戦略は、基本である。秩序あるプラン、偏りのない公正なプラン、適正な資金運用・チーム編成プラン、革新的プランなど、戦略のアイデアは、数多く存在する。プランとプランを複合させていけば、その組み合わせによって更に増大していく。選択肢が増えると言うことは、長所であるが、惑わされる材料も多いと言う観点からは短所にもなり得る。大切な事は、常にサービスを受ける利用者を中心に置くと言うことである。利用者が欲しているサービスを理解していると過信してはならない。望みは常に変化するのである。利用者にとって、大事なことは何か。場合によっては、利用者は望んでいないが、そのサービスを提供することによって利用者の益となることもある。重要なことは、利用者の心を掴むことである。利用者の心を捉えるために、組織は何を成すべきかを考えることである。そうすれば、戦略は自ずと絞り込まれてくるのである。
 われわれは、完全無欠ではない。検討に検討を重ねて選択した戦略がスムーズに進行しないこともある。そこで挫折してはいけない。もう一度チャレンジしてみる。殆どの場合、欠点が浮き彫りにされてくる。それでもうまくいかなければ、視点を変えて再検討し、もう一度チャレンジする。戦略には、失敗はつきものである。失敗に挫けて落ち込んでも成果には結びつかない。失敗には必ず原因がある。その原因を突き止め学ぶことこそこそが成功への早道である。つまり、失敗は、チャンスである。戦略は、臨機応変変更しても良いのである。重要なことは、ミッションを成果に繋げることである。そのための方策が戦略であり、戦略は、完全無欠より長所短所を持ち合わせた方が良い。何故ならば、戦略を実行するのは、命令通りに行動するロボットではなく、生身の人間だからである。人は、取捨選択し判断する能力を持ち合わせている。社会福祉法人には、軍隊のような厳しい規律は必要ないしナンセンスである。独自の判断を尊重する包容力も必要である。大切な事は、ミッションが共有化されているかどうか、その一点に尽きるのである。
 戦略は、先入観や過去の実績で練るものではない。最新のデータを根拠にしなければならない。思いつきは、発想の転換に繋がることもあるが、これも又、最新のデータを根拠にしなければ意味を成さない。最新のデータを得るための作業が、マーケティングである。
 マーケティングは、社会福祉サービスの利用者が何を求めているのか、人的サービスか、環境的サービスか、物的サービスかなどを調査し、そのサービスを提供するための能力が組織に準備できるのか、準備するためには何が必要なのか、利用者が満足できるサービス方法などを決定するのである。つまり、社会福祉サービス利用者と組織との円滑なコミットメントを実現する為の活動である。また、需要と供給のバランスを数字的に確認する作業も現況把握と言う観点から必要であろう。
 社会福祉法人にとっての顧客は、福祉サービスを享受する利用者である。その利用者が満足できるサービスを提供できないのであれば、社会貢献に繋がらないだけでなく、働く職員の意欲を失い、成果を期待できないだけでなく、人としての成長も損なわれ、組織は硬直化するのである。
 社会福祉法人が成果をあげるためには、改善とイノベーションの戦略が必要であり、それは、福祉サービス利用者の満足を起点にスタートしなければならない。
 次に重要なことは、人材である。人材は、仕様が固定している道具とは違う。トレーニングによって、その能力は、発展し、開発され、強化されるのである。人の心の内は、その人だけに決定権があり、組織がその領域に踏み込むことは不可能である。人のトレーニングは、その人の行動に対して行わなければならない。福祉サービス利用者が素直に満足感を得るのは、目に見える事象に対してである。思いやりや気配り、やさしい気持ちなどの情緒的対応もすべて行動として表出されてこそ、利用者に通じるのである。
 これまでの福祉サービスを振り返り長所短所を明確にし、長所は更に発展させ、短所は改善していく。もちろん、マーケティングにより最新のデータを根拠に行っていくのである。しかし、福祉サービス利用者の周囲の環境は、刻々と変化しており、それは、生活の質にも影響している。生活の質を向上させることは、社会福祉法人の永遠のテーマであり、極めて重要である。従って、昨年も今年も来年も同じ戦略が通用するとは考えられない。戦略は練り直されていくのが当然である。戦略が古くさくなり通用しなくなることもある。その時が、イノベーションのチャンスである。機能しなくなったもの、貢献しなくなったもの、役に立たなくなったものを廃棄し、新たな戦略を構築していくのである。
 われわれは、福祉サービス利用者を起点として、何を提供すれば満足に繋がるのか、そのためにどの様なサービス形態を構築すべきか、提供方法を考え、人材の質を考える。そして、常に基本に戻り、何を、いつ、どこで、誰が行うかを考えなければならない。
 社会福祉法人の使命である社会貢献に対するニーズは、人が存在する限り永遠に存在するものである。しかし、そのニーズは、時には気まぐれであり、我が儘な時もあろう。要は、変化するのである。その変化に気づくためにマーケットリサーチが必要なのである。成果を得るために戦略を練る。戦略は、福祉サービス利用者のニーズに始まり福祉サービス利用者の満足に終わる。その満足とは、何なのかを組織は常に自問自答しながら真実を追究していく努力が必要である。