組織の構成要素

 組織を構成するのは、他ならぬ「人」である。人が単独では、組織とは言えない。同じ目標に向けて共に働く人の集合体が組織である。ただし、社会に影響を与えず、人にも影響を与えない、内部における自己満足だけで構成された人の集合体は、組織とは言えない。組織は、外部に影響を与えてこそ、存在が認められるのである。
 人の集合体であるが故に、意見の対立は回避できない課題である。賛同や賞賛を受ける意見もあれば、否定や拒否を受ける意見もある。意志決定を行う上では、すべてが重要である。しかし、人は対立する性質を持っている。戦闘本能の変化形である。自己保全は、自己の生命を維持していくために必要不可欠であるが、時に、自己中心的となり、自分の意にそぐわない意見に対して、否定、切り捨て、攻撃に打って出る。これは、組織の中で「個」を主張しているに他ならない。組織の中には、「わたし」が存在するのではなく「われわれ」が存在してこそ組織が組織として機能するのである。
 個性と個性の衝突が争いであり、そのような争いは、組織には不要である。しかし、自己主張は必要である。自己主張にはアイデアが詰まっている。そのアイデアは、組織の構造改革に影響を与える場合もある。自己主張同士が衝突すれば争いの引き金になるが、それでも、自己主張を軽んじるわけにはいかない。人の意見は多勢であろうと少数であろうと尊重すべきである。互いが互いの意見を尊重する行為は人の成長に大きく貢献する。
 争いを回避する最も有効な手段は、「礼儀を重んじる」ことである。本来、東洋人の宗教観の中で伝統として慣習として根付いている心根であり所作であるが、争いの瞬間、それを忘却してしまう。その時、人は不作法になるのである。不作法は、殆どの場合、人に良い影響を与えない、人に与えるのは不快感である。時には、人の心に傷を残すこともある。重傷であればトラウマ(心の傷)と診断され治療を要する結果となる。しかし、礼儀は、人に安心感、信頼感、心地よさを与える。人と人が互いに礼儀を重んじ、互いの主張を尊重すれば、必ず良い方向に向かうのである。それは、組織内の環境、つまりは、雰囲気によって左右されることが多く、この雰囲気をコントロールすることはリーダーの手腕に委ねられている。リーダーが礼儀正しく職員に接する場合と、不作法に職員に接する場合、明らかに前者が組織を活性化し良い方向に向かわせてくれる。「礼儀を重んじる」姿勢は、リーダーが職員に対してイニシアチブ(主導権)を得ることが大切である。主導権とは、率先して、発言したり行動したりして他を導くことであり、決して、権威を示すことではない。模範になることである。
 組織は、礼儀を重んじた人の集合体によって構成されることにより、成果を得ることが出来る。社会福祉法人と言えども、組織構造は、階層を積み上げた形になる。階層ごとにリーダーを配置することになる。組織であるが故に指示・命令系統は必要であり、それによって業務進行がスムーズに進む。しかし、重要なことは、組織は、情報とコミュニケーションを中心に構成しなければいけないと言うことである。「トップダウン」と言う表現がある。トップが単独で決済し、指示・命令を与える様を表現しているが、この「トップダウン」を否定しているのではない、トップが決断に至った、基礎情報や経緯を語り、ミッションに対して成果をあげるために必要な決断であることを説明し、職員からの共感を得ることができれば素晴らしいことであり、優れたリーダーシップと評価できるのである。共感を得ると言うことは、トップの指示・命令に対して意義を認めることになり、その瞬間から責任を共有することになるのである。
 大切な事は、組織内の構成メンバー全員が、情報について責任を果たすことである。「私の情報ではないから私は関係ない」ではない。「これはわれわれの情報だ」が正しいのである。また、情報を共有するための唯一の手段がコミュニケーションである。コミュニケーション以外に情報を共有するための有効な手段はない。自分が仕事をする上で、いかなる情報を、誰から、いつ、いかにして手に入れるべきか、他の人が仕事するために、自分は、いかなる情報を、誰に、いつ、いかにして渡すかを考えなければいけない。それを実行する手段がコミュニケーションである。
 つまり、組織は、階層を重視するのではなく、情報を重視する情報型組織が理想型である。各々の職員が、上司と同僚に対して情報共有の働きかけを行い、互いに育成し合う責任を負う。互いに理解し合う責任を負う。自分が何を成すべきか、自分が負うべき貢献と成果について考え、記録しなければならない。記憶は、誤解や曲解、屈折、責任逃れ等を引き起こす。文書として残すことによって、それらが回避されるのである。プロフェッショナルは、自分の仕事に対する責任として記録を残すのである。その成果として信頼関係を得ることができる。信頼関係とは、自分を起点として上司、後輩、同僚、つまり上下左右の人間関係に対して相互理解を深めていくことである。
 組織編成を行う場合、人の配置に心血を注がなければならない。人の配置次第で、成果への進行状況が一変するのである。人を配置するときに、最も重視すべきは、人の強み(長所)を発揮できるよう気をつけることである。弱み(短所)に着目し、「この人は能力不足である」と烙印を押すことに何ら利点を見いだすことはできない。強みこそが成果に対する利点である。人には必ず長所・短所が存在するのである。短所が武器として使えることもあるが、殆どの場合、成果に対して貢献することはない。長所は、チャンスを与えなければ、周囲に影響を及ぼすことはないが、チャンスを与えれば、必ず、成果に対して影響を与えるのである。人の強みを発揮できるよう人員配置することによって、組織は、活力を得るのである。
 評価は、人の強みに対して行わなければならない。弱みに対して評価しても時間の浪費である。弱みは、強みによって打ち消せるのである。人は、弱みを克服できる力も持ち合わせているが、それを支援することは組織の役目ではない。組織の役目は、人の強みを成果へと結びつけていくことである。人の弱みを意味のないもの、目立たないものにすることである。組織の価値は、このことによって評価されるのである。
 「自分はいかなる成果について責任を持つべきか、組織はいかなる成果について責任を持つべきか、自分とこの組織は、何を持って憶えられたいか」を何度も何度も問いかけ続ける職員が結集した組織は、堅牢であり柔軟であり、発展的である。それが、社会に影響を与え、人に影響を与えていくのである。