リーダーに求めるもの

 マネジメントは、技能・技法として捉えるより人格として捉えた方が理解しやすい。それは、人格特有の決断力や決定権が求められるからである。 マネジメントは、常に動的である。清流の時もあれば濁流の時もある。制止してしまえば、水は澱むだけである。その時点で事業は、死に体となり、社会貢献も無に帰し職員の意欲もそがれることになる。 事業を動きあるもの生あるものとして維持していくには、常に生き生きとしたリーダーが活躍することが条件として挙げられる。人を生かしていくのは人である。組織は、人と人が生かしあい、その人格を維持していくのである。相互作用により成長していくのである。その成長の礎となるリーダーには、重要な役割が与えられる。それは、組織にはミッションがあり、価値観を重んじ役割を果たしていかなければならない。それが成果となり組織の存在意義が注目されるのである。
 トップマネジメントである施設長が業務内容を分析し役割を仕訳、部署化し、そこにリーダーを配置する場合、役割と適合する人材をリーダーとして選出する必要がある。
 第一に、その役割の価値観に適合しているリーダー。
 第二に、役割から表出される課題に適合しているか。
 第三に、リーダーになることによって期待が寄せられるか。
 組織の価値観に対して共感し共有していない人材をリーダーに配置することは危険である。組織の和を乱すだけではなく、成果への足かせとなる。組織の価値観に完全に迎合してくれと言っているのではない、意見することは必要であり、それは賛同だけではなく反論することもあろう。目指している方向に対してぶれない価値観を持ち合わせていることが重要なのである。
 リーダーとしての適正も重要であり、役割に与えられた課題によって適正が変わってくる。例えば、女性利用者の入浴介助を専門に行う部署を設置し、その部署にリーダーを配置する場合、女性のリーダーが適任であろう。男性のリーダーであれば、業務内容を現場において確認掌握することは困難である。この様に課題によってリーダーの適正が判断されることもある。
 チームの中で、その人がリーダーになることに対して、期待が寄せられているかも重要なポイントである。リーダーは、ミッションに向けて、活用できることが二つある。
 第一に、チームに所属する職員
 第二に、その職員に対して課す要求
 となるが、リーダーは職員に対して助言を与えることもあれば指示命令を発する場合もある。時には注意喚起することもあろう。そこに信頼関係が成立していなかったら、不協和音が生じ諍いが勃発することは目に見えている。リーダーは、チームを分析し知覚を駆使し、チームに対して何を要求すべきかを図らなければならない。
 リーダーを選出したら、リーダーに求めること期待していることを、明確に伝えることが大切である。意思の疎通を怠ると、意志決定においてトップダウンとの誤解が生じたりリーダーが独断で意志決定したりなど、組織機能の低下に直結するからである。チームのリーダーであることを自覚し、自分たちが何を成すべきかを理解しているかを問わなければならない。
 人の身体の中には神経が縦横無尽に伸びており命令信号によって、様々な行動を起こす。しかし、その神経は、すべて、中枢部である脳から発せられる命令を伝達しているのである。人の身体は、実に複雑に構成されているが、命令系統は、シンプルである。組織のリーダーは人体の脳の部分に例えられる。脳の中でも役割分担があり役割毎に命令を発しているのである。組織は、一人では構成できない、人と人との相互作用によって構成されていく。従って、組織で働く上では、「私」と言う個人ではなく、「われわれ」と言うチームとして考えるのが基本である。
 リーダーは与えられた役割について責任を持つと言うより引き受けなければならない。「出来ない。」「不可能だ。」と逃げてはいけない。チームとして成すべき事を認識し取り組まなければならない。リーダーが積極的に取り組むことによって信頼が生まれ、成果へと繋がっていくのである。リーダーは、誰でもなれるものではない。最低限の適正がある。リーダーとして配置したとき、その適正が未発達の場合は、施設長がトレーニングプログラムを彼に与える必要がある。人材とは、常に充実しているとは限らない。リーダー適任者が不足している事態も現実的にはよくあることである。その時、混乱しないようにトレーニングプログラムを備えておくことが必要である。
 リーダーに求められる能力
 第一、人の意見を傾聴する意欲、能力、姿勢
 第二、意志疎通への意欲、自分の意見を相手に伝える意欲
 第三、言い訳をしない。間違っていたら素直に認める姿勢。自分の意見を押し通すことがプライドではない。使命に対する成果を得るために自分が果たすべき役割に責任を持つことがプライドなのである。
 第四、社会貢献に対して組織が目指している成果に比べれば、自分ひとりの力ではちっぽけな成果しか期待できないことを認識する。リーダーは客観的に自分のことを認識する能力、つまりは、個人としての自分と組織の中でのわれわれとしての自分を分離して捉えることが必要である。
 リーダーにはバランス感覚も求められる。個別的な課題と全体的な課題、短期的な課題と長期的な課題、改善が必要な課題と廃棄が必要な課題など、バランスを取りながら優先順位を決定していくことが求められるのである。
 リーダーは決定を下す判断力が必要であるが、それは、事業の方向性を決定づける決断とも言える。決断する場合は、単独決済は避けなければならない。必ず、チームに相談しなければならない。コミュニケーションとしての議論と事業に対する議論と同時並行で行うことが重要である。また、事業に参画させ所属意識を再確認していくことも重要である。成果をあげるためには、努力と忍耐が必要であり、互いに理解し合えるよう時間を惜しみなく使う必要がある。業務に負われて時間がないというのは言い訳に過ぎない。リーダーに、言い訳や泣き言は不必要である。必要なのは、成果に対する貪欲な欲求である。
 非営利組織である社会福祉法人は、ミッションのために存在する。ミッションへの成果を求めなければ、社会貢献はあり得ない。福祉施設を平々凡々と維持していくことがミッションとはなり得ないことは周知の事実である。ミッションは、社会に影響を与え、人の成長に影響を与えるために存在する。リーダーは、組織が掲げているミッションを全職員に周知徹底する仕事を優先しなければならない。全員がミッションを認知し、ミッションに成果をあげるために自分が何を成すべきか、組織に自分はどの様に貢献すべきか、ミッションと共に生きるために、自分はどうあるべきかを考えられるよう導かなければならない。それがリーダーシップを発揮する第一の関門である。  
 リーダーは、次のことについて、常に考え振り返りを行わなければならない。
①業務分担は職員一人ひとりの能力、適性に合わせて振り分けている。
②職員一人ひとりの長所(強み)をよく把握している
③職員と自己覚知について、語り合う機会を持っている
④仕事において褒めるときと叱るときの区別をしている
⑤感情的にならず常に冷静に接して対処するようにしている
⑥人材育成の重要性、必要性を認識し、自ら実践している
⑦職員育成計画を設定し、その進捗状況は常に把握している
⑧職員育成計画の達成度を定期的にチェックしている
⑨仕事がつまずいているときは安易に放置せず、原因究明と対策にあたっている
⑩職員の成長を心から喜び、その喜びを表現することができる
 これは、OJT(On-the-Job Training)のトレーニングシートを参考にしている。
 OJTは、職務遂行を通じて管理者が部下に対し、意図的・計画的な指導・育成をマンツーマンで行うことと定義されているが、簡単に表現すると、仕事を通じた職場での教育訓練となる。そのOJTの内容には、部下及び管理職のスキルアップを図る、様々なプログラムが含まれている。もちろん、プラン・ドゥ・シーの理念もあり、数々のチェックシートが用意されている。